顔は覚えているのに、人の名前だけ忘れるのはなぜ? 名前が覚えにくい仕組みを研究で調べた

初めて会った人の顔や仕事はなんとなく覚えているのに、名前だけが出てこない。自分は記憶力が悪いのだと落ち込む人は少なくありません。研究では、若い人でも高齢の人でも、名前は職業より思い出しにくいことが確かめられています。理由は、名前にはその人と意味でつながる手がかりが少ないことと、名前は「覚えたつもり」になりやすいことです。仕組みと、覚えやすくするヒントを整理します。
3行でわかる
- 顔写真に名前と職業をつけて覚える実験では、若い人も高齢の人も「職業は出たのに名前が出ない」誤りのほうが、その逆より多かった。
- 名前が覚えにくいのは、名前がその人の顔や性格と意味でつながっていないため。名前も職業も意味のないつくり言葉にした実験では、名前の覚えにくさは消えた。
- 名前は「あとで思い出せる」と思いこみやすい。この思いこみに気づいた人は、名前を覚える時間を増やし、よく思い出せるようになった。
01 悩みの正体人の名前だけ覚えられないのは、記憶力が悪いから?
記憶力のせいとは限りません。名前は、職業などほかの情報より忘れやすいことが、年齢を問わず確かめられています。名前の覚えにくさは、誰の記憶にもある特徴です。
人の名前のような固有名詞は、一般の名詞より忘れやすいことが知られています。言葉の音や、ふだん目にする頻度をそろえて比べても同じでした[4]。
そして多くの人が、名前を覚えるのは苦手だと感じています。アメリカの若い人84人と高齢の人69人に、自分の能力を同じ年代の人と比べてもらった調査があります[5]。人は多くのことで「自分は平均より上」と答えがちです。この調査でも、正直さや記憶力全体は平均より上と答えました。ところが「人の名前を覚える力」だけは、どちらの年代も平均と同じくらいと答えました。
「人の名前を覚える力」の自己評価の平均(高齢の人/若い人。9段階で5が「同じ年代の人と同じくらい」)[5]
名前の覚えにくさは、ほかの物忘れとは別の形でも起きます。よく知っている名前が「喉まで出かかって出てこない」状態は、ど忘れの研究で詳しく調べています。この記事では、初めて会った人の名前がそもそも覚えにくい理由を見ていきます。
02 科学的にわかっていること名前が顔や職業より覚えにくいのはなぜ?
名前が、その人の顔や仕事と意味でつながっていないためだと考えられています。さらに名前は「覚えた」と思いこみやすく、覚える手間をかけにくいことも、実験で示されています。
James(2004)[1]
初めて見る人の顔写真に、名前と職業をつけて覚えてもらいました。あとで写真を見て両方を思い出してもらうと、「職業は出たのに名前が出ない」誤りが、「名前は出たのに職業が出ない」誤りより多くなりました。若い人でも高齢の人でも同じで、高齢の人では名前の誤りが相対的に多くなりました。
対象: 若い人と高齢の人、実験室で写真を使った課題 / 限界: 論文の要旨で内容を確認しました。実際の初対面の場面とは条件が違います。
Festiniら(2013)[3]
顔と名前、顔と職業の組み合わせを覚える3つの実験です。名前や職業を、意味のないつくり言葉に置きかえて比べると、名前の覚えにくさは消えました。名前が覚えにくいのは、言葉そのものより「意味のつながり」の差だと考えられます。高い点数をつけた名前はよく思い出せましたが、ただくり返し唱えるだけにすると、点数が高くても思い出しやすさは変わりませんでした。
対象: 3つの実験室実験 / 限界: 論文の要旨で内容を確認しました。著者らは、点数が「意味づけなど手間のかかる覚え方」を促したと考えていますが、覚え方そのものを直接比べた実験ではありません。
TauberとRhodes(2010)[2]
4つの実験で、名前と職業を覚え、それぞれ後でどれくらい思い出せそうかを予想してもらいました。職業では予想と結果のずれが小さかったのに、名前では毎回、実際より思い出せると予想していました。4つめの実験では、予想が正確になった人ほど名前に覚える時間を多く使い、名前をよく思い出せるようになりました。
対象: 4つの実験室実験 / 限界: 論文の要旨で内容を確認しました。リストを覚える課題で、会話の中で名前を聞く場面ではありません。
Desaiら(2023)[4]
脳の研究をまとめた論文は、固有名詞は一般の名詞のような「意味」を持たないと説明しています。名前とその人をつなぐ道は、一般的な意味の特徴に結びつかないため、壊れやすいと考えられています。脳の損傷の研究などから、左の側頭葉の先端あたりが、人の名前を取り出す働きに大事だと考えられてきました。
対象: これまでの研究の整理と、21人の脳画像の実験 / 限界: 脳の働き方の説明は、研究者のあいだでまだ議論が続いています。
| 覚えるもの | 意味のつながり | 研究でわかったこと |
|---|---|---|
| 職業(例: パン屋) | 多い。知っていることと結びつく | 名前より思い出しやすい[1][3] |
| 名前(例: 田中さん) | 少ない。その人とのつながりは偶然 | 思い出しにくく、覚えたつもりになりやすい[1][2] |
| 意味のないつくり言葉 | どちらも、ほぼない | 名前と職業の差が消えた[3] |
03 今日からできる小さな一歩初対面の人の名前を覚えやすくするには?
名前を聞いたら、その場で意味のつながりを足し、少し時間をおいて自分で思い出してみます。「覚えた」と感じても、別れる前にもう一度確かめます。
名前に、意味のつながりを1つ足す
名前の漢字の意味、同じ名前の知り合い、その人が話していたことなどと結びつけます。ただ唱えるだけでは思い出しやすさが変わらなかった実験があり、著者らは意味づけのような手間が大切だと考えています[3]。自分の言葉で意味づけると覚えやすい理由は自己説明の研究で調べています。
所要 10秒
数分後に、名前を自分で思い出してみる
会話の途中や別れたあとに、相手の名前を頭の中で思い出します。覚えたあとにテストすると、ただ見直すより後で思い出しやすくなる効果は、名前でも確かめられています[6]。テストの効果はテスト効果の記事で詳しく紹介しています。
所要 5秒
「覚えた」と感じたときこそ、もう一度確かめる
名前は、実際より思い出せると感じやすい情報です[2]。名刺や連絡先に書かれた名前を、別れる前にもう一度見ておきます。
所要 10秒
忘れたら、正直に聞き直す
人は、相手に名前を忘れられたときより、自分が忘れたときのほうを重く受け止めやすいという調査があります[5]。「もう一度お名前を伺えますか」と聞き、聞いたらすぐ手順1に戻ります。
所要 5秒
04 続けるためのコツ人の名前を忘れたとき、どう考えればいい?
名前を忘れるのは、誰にでもあることです。人は、相手に忘れられたときより、自分が忘れたときのほうを重く受け止めやすいという調査があります。
- 自分を責めすぎない。153人の調査では、自分が相手の名前を忘れることを、相手に自分の名前を忘れられることより否定的にとらえていました[5]。人前での失敗は思ったほど見られていないことも、失敗のあとの立て直し方の記事で紹介しています。
- 大事な名前から覚える。点数の高い名前はよく思い出せました[3]。全員を一度に覚えようとせず、次も会う人から優先します。
- 一度で覚えようとしない。覚えたことは時間とともに薄れます(忘却曲線の研究)。次に会う前に、名前をもう一度見直します。
- 年齢による変化を知っておく。高齢の人では、名前の思い出しにくさが相対的に増えるという結果があります[1]。
05よくある質問
人の名前だけ覚えられないのは、記憶力が悪いからですか?
記憶力のせいとは限りません。名前は職業などほかの情報より覚えにくいことが、若い人でも高齢の人でも確かめられています。名前がその人の顔や仕事と意味でつながっていないことが、理由の一つと考えられています。
顔は覚えているのに、名前が出てこないのはなぜですか?
顔や職業は、知っていることと結びつきやすい一方で、名前とその人のつながりは偶然で、意味の手がかりが少ないためだと考えられています。顔写真に名前と職業をつけて覚える実験でも、職業は出たのに名前が出ない誤りが多くなりました。
年をとると、人の名前を忘れやすくなりますか?
名前の思い出しにくさは年齢とともに相対的に増える、という実験結果があります。ただ、若い人でも名前は職業より思い出しにくく、名前の覚えにくさは年齢に関係なく起きます。
人の名前を覚えるコツはありますか?
名前を聞いたら、漢字の意味や知り合いなどと結びつけ、数分後に自分で思い出してみる方法が研究の結果と合っています。名前は覚えたつもりになりやすいので、別れる前にもう一度確かめるのも役立ちます。
出典
- James, L. E. (2004). Meeting Mr. Farmer versus meeting a farmer: Specific effects of aging on learning proper names. Psychology and Aging, 19(3), 515–522. https://doi.org/10.1037/0882-7974.19.3.515
- Tauber, S. K., & Rhodes, M. G. (2010). Metacognitive errors contribute to the difficulty in remembering proper names. Memory, 18(5), 522–532. https://doi.org/10.1080/09658211.2010.481818
- Festini, S. B., Hartley, A. A., Tauber, S. K., & Rhodes, M. G. (2013). Assigned value improves memory of proper names. Memory, 21(6), 657–667. https://doi.org/10.1080/09658211.2012.747613
- Desai, R. H., Tadimeti, U., & Riccardi, N. (2023). Proper and common names in the semantic system. Brain Structure and Function, 228(1), 239–254. https://doi.org/10.1007/s00429-022-02593-9
- Hargis, M. B., Whatley, M. C., & Castel, A. D. (2020). Remembering proper names as a potential exception to the better-than-average effect in younger and older adults. Psychology and Aging, 35(4), 497–507. https://doi.org/10.1037/pag0000472
- Sensenig, A. E., Littrell-Baez, M. K., & DeLosh, E. L. (2011). Testing effects for common versus proper names. Memory, 19(6), 664–673. https://doi.org/10.1080/09658211.2011.599935


