読んだはずの本の内容を覚えていないのはなぜ?「わかったつもり」の仕組みを研究で調べた

最後まで読んで「なるほど」と思った本なのに、人に内容を聞かれると何も出てこない。記憶力が悪いわけではありません。読んでいる最中の「わかった」という感覚は、あとで思い出せるかどうかとは別物です。研究では、自分で説明しようとした途端に「わかっている」という自己評価が下がることが、何度も確かめられています。
3行でわかる
- ファスナーやトイレの仕組みを「わかっている」と答えた人も、説明を書くと自己評価が7段階で3.89から3.10に下がった(わかったつもりの錯覚)。
- 読んでいる最中は答えが目の前にあるため「覚えた」と感じやすい。でもテストでは、その答えは目の前にない。
- 4回読んだ学生は覚えた自信が高かったのに、1週間後には思い出せた量の半分近くを忘れていた。
01 悩みの正体読んだのに内容を覚えていないのはなぜ?
読んでいる最中は答えが目の前にあり、「わかった」「覚えた」と感じやすいからです。この感覚は、本を閉じて自分で思い出せるかどうかを正しく映していません。
心理学では、実際より「わかっている」と感じてしまうことを「わかったつもり(理解の錯覚)」と呼びます。
本を読んでいるとき、文章はすらすら頭に入ってきます。この「すらすら感」が、そのまま「覚えた」という感覚になりがちです。
ところが、あとで内容を話すときには、本は手元にありません。読んでいるときと思い出すときでは、条件がまったく違うのです[3]。忘れてしまう仕組みそのものは忘却曲線の記事で詳しく書いています。
02 科学的にわかっていること「わかったつもり」はどのくらい起きる?
身近な道具の仕組みでも、説明を書くと理解の自己評価がはっきり下がりました。この結果は別の研究者による事前登録の追試でも再現されています。読み返しは自信を高めますが、長く覚えておく力は思い出す練習に負けました。
Rozenblitら(2002)[1]
ファスナー、水洗トイレ、ミシンなど身近な道具の仕組みを、どのくらい理解しているか7段階で答えてもらいました。そのあと仕組みを順を追って書いてもらい、もう一度答えてもらいました。大学生33人の平均は3.89から、説明を書いたあと3.10、具体的な質問に答えたあと2.49に下がりました。
対象: 12の研究(米国の大学生・大学院生など) / 限界: 道具や自然現象の仕組みでは強く出ましたが、事実(国の首都など)では小さく、手順や物語のあらすじでは下がりませんでした。
Crawfordら(2021)[2]
政策の仕組みを説明させる有名な実験を、事前に計画を公開したうえで3回追試しました(306人、405人、343人)。説明を書いたあとに「理解している」という自己評価が下がる点は再現されました。一方で「説明させると考えが穏やかになる」という元の研究の結論は再現されませんでした。
対象: 3つの追試の合計1,054人 / 限界: 政策についての実験で、本の内容の記憶を直接調べたものではありません。
Roedigerら(2006)[4]/Roedigerら(2018)[5]
学生が短い説明文を、4回読むグループと、1回読んで3回思い出して書くグループに分かれました。5分後のテストでは4回読んだほうが約12%多く思い出せました。ところが1週間後には逆転し、思い出す練習をしたほうが21%多く思い出せました。4回読んだグループは、最初に思い出せた量の半分近くを1週間で忘れていました。それなのに、読み返したほうが「覚えている」という自信は高かったのです。
対象: 大学生 / 限界: 約250語の短い文章を使った実験で、1冊の本を読む場面とは長さが違います。
Koriatら(2005)[3]
単語のペアを覚える実験で、覚えている最中の「あとで思い出せそう」という判断を調べました。その判断は、2つの単語が並んでいるときの「つながっている感じ」に強く引っぱられました。一方、実際に思い出せるかは、片方だけを見てもう片方が浮かぶかで決まっていました。答えが見えている状態の手応えを、割り引けないのです。
対象: 単語のペアを覚える実験の参加者 / 限界: 単語のペアを使った実験室の研究です。
| 読んでいるとき | 思い出すとき | |
|---|---|---|
| 答え | 目の前にある | 目の前にない |
| 感じること | すらすら読める、わかった | 出てこない |
| 見ている力 | 読んで理解する力 | 自分で取り出す力 |
03 今日からできる小さな一歩わかったつもりに気づくには?
本を閉じて、自分の言葉で説明してみることです。説明しようとすると、わかっていない部分が自分で見えるようになります。研究でも、説明を書くと理解の自己評価が実際に近づきました。
章を読み終えたら、本を閉じて3行で書く
「この章で言いたかったこと」を、本を見ずに書きます。書けなかった部分が、わかったつもりだった部分です[1]。
所要 3分
「なぜ」「どうやって」を1つ説明する
錯覚が強く出たのは、仕組みを説明する知識でした[1]。「なぜそうなるのか」を順を追って話せるか、確かめてみます。
所要 2分
読み返す前に、まず思い出す
読み返しは自信を高めますが、1週間後に残る量は思い出す練習のほうが多くなりました[4]。翌日などに一度思い出してから、出てこなかった所だけを読み返します。くわしくはテスト効果の記事へ。
所要 5分(翌日)
04 続けるためのコツ思い出せないと落ち込むときは?
思い出せないのは失敗ではなく、わかったつもりに気づけたというサインです。最初は手応えが小さくても、思い出す練習のほうが長く残ることが実験で示されています。
- 思い出す練習は、その場では読み返しより手応えが小さい。5分後のテストでは読み返しのほうが多く思い出せた[5]。
- 多くの学生は読み返しを中心に勉強していたと報告されている(177人の調査)[6]。ただし別の調査では、学習の後半にはほとんどの学生が自分でテストする方法に切り替えていた[7]。
- 「わからなかった所だけ読み返す」のは、ただ読み直すのとは違う。思い出してから読むと、読み返しの意味が変わる。
- 復習の間隔は復習のタイミングの記事を参考にする。
05よくある質問
読んだはずの本の内容を覚えていないのはなぜですか?
読んでいる最中は答えが目の前にあり、すらすら読める感覚を「覚えた」と感じやすいからです。研究では、身近な道具の仕組みでも、説明を書くと「わかっている」という自己評価が7段階で3.89から3.10に下がりました。
わかったつもりかどうか確かめる方法はありますか?
本を閉じて、内容や仕組みを自分の言葉で説明してみることです。説明しようとすると、わかっていない部分に気づけます。この効果は2021年の事前登録の追試でも再現されました。
何度も読み返せば覚えられますか?
読み返すと「覚えた」という自信は高まりますが、長く残るとは限りません。Roedigerらの実験では、1週間後には、思い出す練習をしたグループのほうが4回読んだグループより21%多く思い出せました。
本の内容を忘れるのは記憶力が悪いからですか?
そうとは限りません。読んでいるときの手応えと、あとで思い出せるかは別のもので、誰にでも起きることです。思い出す練習を足すことで、残る量を増やせます。
出典
- Rozenblit, L., & Keil, F. (2002). The misunderstood limits of folk science: an illusion of explanatory depth. Cognitive Science, 26(5), 521-562. https://doi.org/10.1207/s15516709cog2605_1
- Crawford, J. T., & Ruscio, J. (2021). Asking people to explain complex policies does not increase political moderation: Three preregistered failures to closely replicate Fernbach, Rogers, Fox, and Sloman's (2013) findings. Psychological Science, 32, 611-621. https://doi.org/10.1177/0956797620972367
- Koriat, A., & Bjork, R. A. (2005). Illusions of competence in monitoring one's knowledge during study. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 31(2), 187-194. https://doi.org/10.1037/0278-7393.31.2.187
- Roediger, H. L., & Karpicke, J. D. (2006). Test-enhanced learning: Taking memory tests improves long-term retention. Psychological Science, 17(3), 249-255. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2006.01693.x
- Roediger, H. L., & McDermott, K. B. (2018). Remembering what we learn. Cerebrum, 2018, cer-08-18. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6353106/
- Karpicke, J. D., Butler, A. C., & Roediger, H. L. (2009). Metacognitive strategies in student learning: Do students practise retrieval when they study on their own? Memory, 17(4), 471-479. https://doi.org/10.1080/09658210802647009
- Kuhbandner, C., & Emmerdinger, K. J. (2019). Do students really prefer repeated rereading over testing when studying textbooks? A reexamination. Memory, 27, 952-961. https://doi.org/10.1080/09658211.2019.1610177


