気分が沈む日に、小さな親切で気分は上がる? 親切と幸福感の研究でわかったやり方

なんとなく気分が沈む日。自分を元気にしようとして、好きなものを買ったり、ごほうびを用意したりする人は多いと思います。研究で調べると、気分を上げる方法としてよく効いていたのは、意外にも「誰かのための小さな親切」でした。7日間、小さな親切を続けた実験では、何もしなかった人より幸福感が上がりました。やり方はシンプルです。小さく、何回か、気負わずにやることです。
3行でわかる
- 683人が7日間、小さな親切をした実験では、何もしなかった人より幸福感が上がり、親切の回数が多い人ほど上がり方も大きい傾向でした。
- 473人の6週間の実験では、自分へのごほうびより、他の人や社会のための親切のほうが心の充実感を高めました。
- ただし効果の大きさは控えめです。201の研究のまとめでは、人を助けることと心の健康の関係は相関0.13でした。
01 悩みの正体気分が落ちた日に、自分へのごほうびは効く?
自分へのごほうびだけでは、気分や心の充実感が上がりにくいという研究があります。比べた実験では、同じ「親切」でも、自分に向けるより他の人に向けたほうが、前向きな気分が増えていました。
落ち込んだときは、「まず自分を大事に」と考えるのが自然です。それ自体はまちがいではありません。
ただ、気分が沈んでいるときは、考えが自分の内側に向きやすくなります。嫌なことを何度も思い返す「反すう」もその1つです。誰かのために小さく動くことは、考えを外に向け、人とのつながりを感じるきっかけになります。
気分が落ちたときに「まず動く」ことの効果は、行動活性化の研究でも知られています。親切は、その「動く」の中身として選びやすい行動の1つです。
02 科学的にわかっていること小さな親切で、気分は本当に上がる?
上がることが、複数の実験で確かめられています。7日間の実験でも6週間の実験でも、親切をした人のほうが幸福感や心の充実感が高まりました。ただし効果の大きさは控えめで、条件によって違いが出ます。
Rowland・Curry(2019)[1]
7日間、親切をする取り組みをしてもらい、幸福感の変化を何もしない組と比べました。親しい人への親切、あまり親しくない人への親切、自分への新しい親切、人の親切を見ること、どの組も幸福感が上がり、組の間で差はありませんでした。親切の回数が多い人ほど、幸福感の上がり方も大きい傾向でした。
対象: 683人 / 限界: 7日間だけの実験です。回数と幸福感の関係は相関で、回数を増やせば必ず上がるとまでは言えません。
683人・7日間
小さな親切を続けた人は、何もしなかった人より幸福感が上がった[1]
Nelsonら(2016)[2]
6週間の実験で、「他の人への親切」「社会のための親切」「自分への親切」「ふだんどおりの行動」の組に分けました。心の充実感が高まったのは、他の人や社会のために親切をした2つの組でした。自分への親切の組は、ふだんどおりの組と比べて、充実感も気分も変わりませんでした。
対象: さまざまな背景の参加者473人 / 限界: 上の7日間の実験では自分への親切でも幸福感が上がっており、結果は研究によって違います。
Akninら(2020・事前登録の追試)[3]
「お金を人のために使うと幸せになる」という有名な研究を、大人数で確かめ直しました。学生712人が実際に買い物をした実験では、困っている見知らぬ人のために買った人のほうが、その場の幸福感が高くなりました。一方、過去の出費を思い出すだけの実験(1,950人)では差が出ず、条件を変えた5,199人の実験では差は小さいものでした。
対象: 3つの実験、合計約7,900人 / 限界: 効果の大きさは、実際に行動するか、思い出すだけかといったやり方で変わりました。
Huiら(2020・メタ分析)[4]
人を助けることと心の健康の関係を調べた201の研究をまとめると、関係の強さは相関0.13で、控えめでした。気分の明るさより、生きがいや充実感との関係のほうが強く出ました。ボランティア団体などでの活動より、日常のちょっとした手助けのほうが、心の健康との結びつきが強い傾向でした。
対象: 201の研究、合計198,213人 / 限界: 多くは相関を調べた研究で、親切が心の健康を高めたのか、元気な人ほど親切なのかは区別しきれません。
| 研究 | やったこと | 結果 |
|---|---|---|
| 7日間の実験 [1] | 7日間の小さな親切 | 幸福感が上がった(相手で差なし) |
| 6週間の実験 [2] | 人や社会への親切 | 心の充実感が上がった |
| 6週間の実験 [2] | 自分への親切 | 変わらなかった |
| お金の追試 [3] | 人のために実際に買う | 幸福感が上がった |
| お金の追試 [3] | 使ったことを思い出すだけ | 差なし〜小さい |
03 今日からできる小さな一歩気分を上げる親切は、どうやればいい?
1週間だけ、毎日1つ以上の小さな親切をします。相手は家族でも、コンビニの店員さんでもかまいません。思い出すより実際にやること、ひとりで抱えず日常の中でやることがポイントです。
今日の親切を1つ決める
「同僚にお茶をいれる」「家族の洗い物を代わる」「店員さんにありがとうと言う」など、5分以内でできるものを1つ選びます。7日間の実験では、相手が親しい人でもそうでない人でも、幸福感の上がり方は同じでした。
所要 1分(決めるだけ)
7日間、毎日やる
研究の期間に合わせて、まず1週間続けます。余裕がある日は2つ、3つと増やしてかまいません。親切の回数が多い人ほど、幸福感の上がり方が大きい傾向がありました。
所要 1日5分 × 7日
少額なら「人のため」に使う
自分へのごほうびの代わりに、誰かにコーヒーやお菓子を買ってみます。追試でも、実際に人のために買った人は、その場の幸福感が高くなりました。思い出すだけでは効果がほとんど出ていません。
所要 5分
「こんなことで」と思っても渡す
親切をする側は、相手の喜びを実際より小さく見積もることがわかっています[5]。小さすぎるかなと迷ったら、やってみるほうに倒します。
所要 1分
04 続けるためのコツ親切が負担や義務になってきたら?
回数を減らし、「できる日にできる分だけ」に戻します。親切は気分を上げる手段の1つで、義務ではありません。疲れているときは、人の親切を見るだけでも、幸福感が上がった研究があります。
- 見るだけの日があっていい: 7日間の実験では、人の親切を見る組でも、幸福感が上がりました。
- 相手を選ばない: 見知らぬ人への親切も、身近な人への親切も、同じように効いていました。
- 日常の中でやる: 大きな活動より、ちょっとした手助けのほうが心の健康との結びつきが強い傾向でした。
- 他の方法と組み合わせる: 短い運動(短い運動と気分の研究)や、知らない人とのひとこと(雑談と気分の研究)も、気分を上げる方法として調べられています。
- つらさが長く続くとき: 気分の落ち込みが長く続き、生活に影響が出ているなら、医療機関や相談窓口に相談することも考えてください。
05よくある質問
親切をすると、本当に気分は良くなる?
良くなることが複数の実験で示されています。683人が7日間取り組んだ実験では、親切をした人は何もしなかった人より幸福感が上がりました。ただ、201の研究をまとめたメタ分析では、人を助けることと心の健康の関係は相関0.13と控えめでした。気分を上げる方法の1つとして考えるのが現実的です。
自分へのごほうびと、人への親切はどちらが効く?
研究によって結果が違います。473人の6週間の実験では、他の人や社会への親切で心の充実感が高まり、自分への親切では変わりませんでした。一方、7日間の実験では、自分への新しい親切でも幸福感が上がりました。迷ったら、人への小さな親切から試すのがよさそうです。
人のためにお金を使うと幸せになるって本当?
大人数の追試で、条件つきで確かめられています。学生712人が実際に買い物をした実験では、困っている人のために買った人のほうが幸福感が高くなりました。ただ、過去の出費を思い出すだけの実験では差がないか小さく、効果はやり方で変わりました。
出典
- Rowland, L., & Curry, O. S. (2019). A range of kindness activities boost happiness. The Journal of Social Psychology, 159(3), 340-343. https://doi.org/10.1080/00224545.2018.1469461
- Nelson, S. K., Layous, K., Cole, S. W., & Lyubomirsky, S. (2016). Do unto others or treat yourself? The effects of prosocial and self-focused behavior on psychological flourishing. Emotion, 16(6), 850-861. https://doi.org/10.1037/emo0000178
- Aknin, L. B., Dunn, E. W., Proulx, J., Lok, I., & Norton, M. I. (2020). Does spending money on others promote happiness?: A registered replication report. Journal of Personality and Social Psychology, 119(2), e15-e26. https://doi.org/10.1037/pspa0000191
- Hui, B. P. H., Ng, J. C. K., Berzaghi, E., Cunningham-Amos, L. A., & Kogan, A. (2020). Rewards of kindness? A meta-analysis of the link between prosociality and well-being. Psychological Bulletin, 146(12), 1084-1116. https://doi.org/10.1037/bul0000298
- Kumar, A., & Epley, N. (2023). A little good goes an unexpectedly long way: Underestimating the positive impact of kindness on recipients. Journal of Experimental Psychology: General, 152(1), 236-252. https://doi.org/10.1037/xge0001271


