名前や単語が「喉まで出かかって」思い出せないとき、どうする? ど忘れの研究でわかったこと

人の名前や、よく知っているはずの単語が「喉まで出かかっているのに出てこない」。このど忘れは、ほぼ誰にでも、週に1回ほど起きるとされています。研究では、思い出せない状態で長く粘るほど、同じ言葉でまたつまずきやすくなることがわかってきました。短く区切って、ヒントを使って自分で思い出すのが立て直しの近道です。
3行でわかる
- 喉まで出かかる「ど忘れ」は、ほぼ誰にでも起き、平均すると週に1回ほど。その場で思い出せるのは約半分だった。
- 思い出せない状態で30秒粘った言葉は、10秒で切り上げた言葉より、2日後にまたど忘れしやすかった(約2倍)。
- 最初の文字など小さなヒントで自力で思い出せた言葉は、次にど忘れしにくかった。答えを丸ごと見るより、ヒントで取り戻すのが向いている。
01 悩みの正体喉まで出かかって思い出せないのはなぜ?
意味はわかっているのに、言葉の「音」にたどり着けない状態です。研究者はこれを「舌先現象(TOT)」と呼び、知識が消えたのではなく、意味と音をつなぐ道が一時的に弱まっていると考えています。
ど忘れのとき、私たちは「何を言いたいか」はわかっています。最初の文字や、何文字くらいかまでわかることもあります。それでも肝心の音だけが出てきません。
Brown(1991)のレビューは、それまでの研究をまとめて、この現象の特徴を次のように整理しました[1]。
- ほぼすべての人が経験し、平均すると週に1回ほど起きる
- 年齢が上がるほど増える
- 人の名前など固有名詞で起きやすい
- 最初の文字はわかることが多い
- 似た別の言葉が頭に浮かびやすい
- その場で思い出せるのは、約半分
つまり、ど忘れは記憶力が落ちたサインというより、言葉を取り出すしくみのよくある「引っかかり」です。覚えたことがそもそも薄れていく「忘却」とは別のものです(忘却曲線の研究)。
02 科学的にわかっていることど忘れした言葉は、また忘れやすい?
はい。一度ど忘れした言葉は、同じ人がまたど忘れしやすいことが、複数の実験でくり返し確かめられています。長く粘るほどくり返しやすく、自力やヒントで思い出せると、くり返しにくくなりました。
Warriner・Humphreys(2008)[2]
言葉の意味を示して、その単語を答えてもらう実験です。ど忘れが起きたら、ランダムに10秒か30秒、思い出そうと粘ってもらい、そのあと正解を見せました。48時間後に同じ問題を出すと、30秒粘った言葉は、10秒の言葉よりも、またど忘れする確率がほぼ2倍でした。
対象: 実験室で単語を答える課題 / 限界: 日常の人名のど忘れで同じことが起きるかは直接は調べていません。
D'Angelo・Humphreys(2015)[3]
6つの実験で、ど忘れのくり返しは5分後でも1週間後でも測定でき、1つの言語を話す人でも2つの言語を話す人でも起きました。一方で、その場で自力で思い出せた言葉は、あとでまたど忘れしにくくなりました。つづりのヒント(文字の手がかり)で思い出せた場合も、自力で思い出したときとほぼ同じように、くり返しが減りました。
対象: 6つの実験室実験 / 限界: 粘る時間の長さで差が出たのは、思い出そうと努力している場合だったと著者らは報告しています。
Oliver・Humphreys(2019)[4]
くり返しの現象を、新しい参加者で確かめ直した研究です。1回目のど忘れのうち27%(312回中84回)が、1週間後にもくり返されました。思い出せないまま終わった言葉は41%がまたど忘れになり、自力で思い出せた言葉の15%を大きく上回りました。ど忘れ中に頭に浮かぶ「似た別の言葉」も、くり返すときには同じものが出やすい(59%)ことがわかりました。
対象: カナダの大学生40人(平均19.6歳)、1週間あけて2回のテスト / 限界: 同じ研究室の流れをくむ研究で、若い学生だけが対象です。
James・Burke(2000)[5]
ど忘れの最中に、答えと音の一部が同じ別の単語をいくつか声に出して読むと、正しく思い出せる割合が上がりました。この効果は、ど忘れしている状態のときにだけ見られました。若い人と高齢の人で効果の大きさは変わらず、似た音の言葉が思い出すじゃまをするという証拠は見つかりませんでした。
対象: 若い人と高齢の人の実験室実験(一般常識の問題) / 限界: 高齢の人のほうがど忘れ自体は多く起きました。
03 今日からできる小さな一歩ど忘れしたら、その場で何をすればいい?
10秒ほど粘って出なければ切り上げ、最初の文字や似た音の言葉などのヒントを使って、自分で思い出すのがおすすめです。思い出せたら声に出して言っておくと、次のつまずきを減らせます。
長く粘らず、10秒ほどで区切る
「あれ、何だっけ」と固まったまま粘り続けると、その言葉でつまずくくせがつきやすくなります。実験では、30秒粘ったほうが10秒より、2日後のど忘れがほぼ2倍でした[2]。
所要 10秒
答えの全部ではなく「ヒント」をもらう
最初の1文字、何の話題で出てきた言葉か、などの小さな手がかりから思い出します。ヒントで自分で思い出せた言葉は、自力で思い出したときと同じように、次のど忘れが減りました[3]。音の似た言葉を思いつくだけ口に出してみるのも一つの方法です[5]。
所要 30秒
04 続けるためのコツよくど忘れする言葉は、どう覚え直す?
何度もど忘れする言葉は、「くせ」になっている言葉です。答えを眺め直すより、自分で思い出す練習をくり返すほうが向いています。ど忘れが増えたこと自体を、あまり心配しすぎないことも大切です。
- くり返しど忘れする名前や単語は、メモに書いておき、時間をあけて「何だっけ」と自分に問いかけて思い出す練習をします。読み返すより、思い出す練習のほうが記憶に残ることは多くの研究で示されています(テスト効果の研究)。
- 頭に浮かんでしまう「似た別の言葉」は、くり返しのときも同じものが出やすいとわかっています[4]。出てきたら「これは違う方」と区別して覚えておくと、迷いが減ります。
- 試験やテストで思い出せなかった問題の復習方法は、間違えた後の復習の研究も参考になります。
- 年齢とともにど忘れが増えるのは、多くの人に起きる変化です[1]。ただし、ど忘れだけでなく、日常の出来事そのものを忘れる、道に迷うなどが増えた場合は、医療機関に相談してください。
05よくある質問
ど忘れが増えたのは、記憶力が落ちたサインですか?
ど忘れは、ほぼ誰にでも、平均すると週に1回ほど起きるとされています。年齢とともに増えることも知られています。知識が消えたのではなく、意味から言葉の音を取り出す道が一時的に弱まっている状態と考えられています。出来事そのものを忘れるなど、ほかの変化が増えた場合は医療機関に相談してください。
思い出せないときは、すぐ検索して答えを見たほうがいいですか?
実験では、長く粘ってから答えを見た言葉ほど、次もど忘れしやすくなりました。一方、最初の文字などのヒントで自分で思い出せた言葉は、次にど忘れしにくくなりました。10秒ほどで区切り、まずは小さなヒントを探すのがおすすめです。
同じ人の名前ばかり、何度もど忘れするのはなぜですか?
一度ど忘れした言葉は、同じ人がまたど忘れしやすいことが、複数の実験で確かめられています。ある研究では、思い出せないまま終わった言葉の41%が、1週間後にもまたど忘れになりました。自分で思い出せた言葉では15%でした。
出典
- Brown, A. S. (1991). A review of the tip-of-the-tongue experience. Psychological Bulletin, 109(2), 204-223. https://doi.org/10.1037/0033-2909.109.2.204
- Warriner, A. B., & Humphreys, K. R. (2008). Learning to fail: Reoccurring tip-of-the-tongue states. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 61(4), 535-542. https://doi.org/10.1080/17470210701728867
- D'Angelo, M. C., & Humphreys, K. R. (2015). Tip-of-the-tongue states reoccur because of implicit learning, but resolving them helps. Cognition, 142, 166-190. https://doi.org/10.1016/j.cognition.2015.05.019
- Oliver, L. K., & Humphreys, K. R. (2019). Phonological interlopers tend to repeat when tip-of-the-tongue states repeat. Frontiers in Psychology, 10, 341. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2019.00341
- James, L. E., & Burke, D. M. (2000). Phonological priming effects on word retrieval and tip-of-the-tongue experiences in young and older adults. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 26(6), 1378-1391. https://doi.org/10.1037/0278-7393.26.6.1378


