習慣

疲れた日やストレスの日に、いつもの習慣に戻ってしまうのはなぜ?「考える行動」と「自動の行動」の研究で調べた

約8分で読めます

カップに入った紅茶
Photo: AntanO / CC BY-SA 4.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究をAIが調べて整理しました(独自の実験ではありません。出典は末尾)。

仕事で疲れた夜、やめたはずのお菓子やスマホに、気づいたら手が伸びている。それは、あなたが特別にだらしないからではありません。研究では、余裕がないときほど「考えて選ぶ行動」より「いつもの自動の行動」が前に出やすいと考えられています。ただし、実験の追試では結果が分かれていて、まだ決着はついていません。

3行でわかる

  1. 疲れて意志の力が落ちた時期には、良い習慣も悪い習慣も、ふだんより多く出やすくなりました(Nealら, 2013。5つの研究)。
  2. 氷水に3分間手を入れるストレスを受けた人は、もう欲しくなくなった食べ物を得る行動を、いつもどおり続けやすくなりました(Schwabe・Wolf, 2009)。
  3. 一方、同じ実験をそのままくり返した2つの研究(80人・95人)では、ストレスの影響は確認できませんでした。仕組みは「そうなりやすい傾向がある」くらいに考えるのが妥当です。

01 悩みの正体ストレスの日に悪い習慣に戻るのは、意志が弱いから?

意志の弱さだけでは説明できません。習慣は場所や時間などのきっかけで自動に動くので、考えて選ぶ余裕が減った日ほど、いつもの行動がそのまま出やすくなると考えられています。

私たちの行動には、大きく2つの動き方があると考えられています。1つは「何のためにやるか」を考えて選ぶ行動です。もう1つは、いつもの場所や時間に反応して、ほぼ自動で出てくる習慣の行動です。

ふだんは、考える行動が自動の行動にブレーキをかけています。「夜はお菓子を食べない」と決めた人は、棚の前でいったん立ち止まれます。

ところが、疲れているときやストレスが強いときは、このブレーキが弱くなると考えられています。すると、きっかけに反応する習慣のほうが前に出てきます。習慣が自動で動く仕組みそのものは習慣が「自動」で動く仕組みの研究にまとめています。

02 科学的にわかっていること疲れやストレスで、本当に習慣は強く出る?

疲れた時期に習慣が増えた研究や、ストレスで習慣的な行動が増えた実験があります。ただし、同じ実験の追試では確認できなかった例が複数あり、効果は確かとは言えません。

Nealら(2013)[1]

5つの研究で、意志の力が落ちたときに習慣がどう出るかを調べました。日常生活の中で調べた現場の研究(2つ)、実験室の研究(2つ)、ふだんの自制心の強さを測った研究(1つ)のすべてで、意志の力が落ちたときに習慣がより多く出ていました。増えたのは悪い習慣だけではありません。本人の目標に合う良い習慣も、同じように出やすくなっていました。

対象: 5つの研究(現場・実験室・相関) / 限界: 「意志の力が減る」という考え方(自我消耗)そのものが、大規模な追試で確認されていない(下の[6])。

Schwabe・Wolf(2009)[2]

80人を集め、半数は0〜2℃の氷水に3分間手を入れ、ビデオで撮られながら見知らぬ人に観察されました(ストレスあり)。残りは温かいお湯でした。そのあと、2つの行動でチョコレートミルクかオレンジジュースがもらえることを学び、一方の食べ物をおなかいっぱい食べてから、どちらの行動を選ぶかを調べました。ストレスなしの人は、まだ欲しい方につながる行動を多く選びました。ストレスありの人は、欲しくなくなった方の行動も同じくらい続けていました。行動と結果のつながりを正しく言えた人も、ストレスありでは28%、なしでは58%でした。

対象: 分析対象は60人(ストレスあり29人・なし31人) / 限界: 1回きりの実験室の課題。日常の行動を測ったわけではない。

Smeetsら(2023)[3]

上の研究と、同じ研究者による2010年の研究を、事前に計画を公開したうえで、そのままくり返しました(80人と95人)。ストレスでコルチゾール(ストレスホルモン)はきちんと上がりました。しかし、どちらの研究でも、ストレスで習慣的な行動が増えるという結果は出ませんでした。統計でも「効果はない」側を強く支持する結果でした。ただし、ストレスのないグループも欲しい方を選び分けられておらず、著者らはこの課題自体が測定に向いていなかった可能性も指摘しています。

対象: 2つの追試(80人・95人) / 限界: 課題がうまく働かず、「効果がない」と言い切れるわけでもない。

Buabangら(2023)[4]

2010年の研究を、別のやり方で確かめました。食べ物を「おなかいっぱい」にする代わりに、本当にまずいと感じる状態にしました。すると、ストレスを受けた人も、もういらない食べ物につながる行動はしなくなりました。著者らは、ストレス下の行動を「習慣」と決めつける見方に疑問を投げかけています。

対象: 実験室の参加者 / 限界: 1つの研究。ストレス下で行動が変わること自体を否定したものではない。

Schwabe・Wolf(2013)[5]

ストレスと記憶の研究をまとめたレビューです。ストレスを受けると、柔軟に「考える」記憶の仕組みから、決まった動きをくり返す「習慣」の記憶の仕組みへ、行動の主導権が移りやすいと整理しています。著者らは、この切り替えは多くの場合、急な場面で素早く動くために役立つとしています。

対象: 人と動物の研究のレビュー / 限界: 上の追試の多くはこのレビューのあとに出ており、人での証拠は分かれている。

研究調べたこと結果
Nealら(2013)疲れた時期・自制心の低さ良い習慣も悪い習慣も出やすい
Schwabe・Wolf(2009)氷水のストレス(60人)いらない物の行動も続けた
Smeetsら(2023)同じ実験の追試(80人・95人)ストレスの影響は出なかった
Buabangら(2023)まずくした食べ物で確認ストレスでも行動を選び分けた

この表は、上の研究をこのサイトで並べたものです。「疲れると習慣が前に出る」は筋の通った考え方ですが、実験の結果はそろっていません。

03 今日からできる小さな一歩疲れた日に悪い習慣へ戻らないためには?

疲れた日のブレーキに頼らず、元気な日のうちに仕組みを整えておくのが現実的です。良い習慣も疲れた日に出やすくなるので、代わりの習慣を育てておくことが助けになります。

1

「戻りやすい時間と場所」を1つ書き出す

帰宅直後のソファ、寝る前のベッドなど、疲れた日にくずれやすい場面を1つ決めます。習慣はきっかけに反応して動くからです。

所要 3分

2

その場所から、きっかけを遠ざけておく

お菓子を見えない棚に移す、スマホを別の部屋で充電するなど、元気なうちに手間を1つ足します。方法は誘惑を遠ざける研究にまとめています。

所要 5分

3

「疲れた日用の代わりの行動」を決めて、ふだんからくり返す

Nealらの研究では、疲れた時期には良い習慣も出やすくなっていました[1]。「帰ったらまずお茶をいれる」のように、軽い代わりの行動を元気な日にもくり返しておきます。

所要 1分

4

くずれやすい場面では「やらない」と心の中で確認する

Quinnらの日記研究では、強い悪い習慣を抑えるのに役立ったのは「やらない」と考えて、ついやってしまわないか注意して見張ることでした[7]。決めた場面に入ったら一度だけ確認します。

所要 10秒

04 続けるためのコツストレスの日にくずれたら、どう考えればいい?

疲れた日に習慣へ戻るのは、多くの人に起きうることです。1日くずれたことより、翌日にいつもの流れへ戻れるかのほうが大切です。

05よくある質問

ストレスがたまると、昔の悪い習慣に戻りやすいの?

戻りやすいことを示した研究はあります。Nealら(2013)の5つの研究では、疲れたときに習慣が多く出ていました。ただし、ストレスの実験をそのままくり返した2023年の追試では効果が確認できず、確かな結論はまだ出ていません。

疲れたときは、良い習慣も出やすくなるの?

Nealら(2013)の研究では、悪い習慣だけでなく、本人の目標に合う良い習慣も、意志の力が落ちたときに出やすくなっていました。良い習慣を身につけておくことは、疲れた日の助けになると考えられます。

「意志の力が減る」という話は本当?

「自我消耗」と呼ばれる考え方ですが、23の研究室・2,141人で同じ実験をくり返した2016年の追試では、効果はほぼゼロ(d=0.04)でした。疲れると何かが変わること自体は否定されていませんが、仕組みの説明はまだ分かれています。

出典

  1. Neal, D. T., Wood, W., & Drolet, A. (2013). How do people adhere to goals when willpower is low? The profits (and pitfalls) of strong habits. Journal of Personality and Social Psychology, 104(6), 959-975. https://doi.org/10.1037/a0032626
  2. Schwabe, L., & Wolf, O. T. (2009). Stress prompts habit behavior in humans. Journal of Neuroscience, 29(22), 7191-7198. https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.0979-09.2009
  3. Smeets, T., Ashton, S. M., Roelands, S. J. A. A., & Quaedflieg, C. W. E. M. (2023). Does stress consistently favor habits over goal-directed behaviors? Data from two preregistered exact replication studies. Neurobiology of Stress, 23, 100528. https://doi.org/10.1016/j.ynstr.2023.100528
  4. Buabang, E. K., Boddez, Y., Wolf, O. T., & Moors, A. (2023). The role of goal-directed and habitual processes in food consumption under stress after outcome devaluation with taste aversion. Behavioral Neuroscience, 137(1), 1-14. https://doi.org/10.1037/bne0000439
  5. Schwabe, L., & Wolf, O. T. (2013). Stress and multiple memory systems: from 'thinking' to 'doing'. Trends in Cognitive Sciences, 17(2), 60-68. https://doi.org/10.1016/j.tics.2012.12.001
  6. Hagger, M. S., Chatzisarantis, N. L. D., et al. (2016). A multilab preregistered replication of the ego-depletion effect. Perspectives on Psychological Science, 11(4), 546-573. https://doi.org/10.1177/1745691616652873
  7. Quinn, J. M., Pascoe, A., Wood, W., & Neal, D. T. (2010). Can't control yourself? Monitor those bad habits. Personality and Social Psychology Bulletin, 36(4), 499-511. https://doi.org/10.1177/0146167209360665