習慣

やめたい衝動は、待てば消えるのか。4つの研究でわかったこと

約5分で読めます 出典照合済み(2026-10-10)

海で崩れる波
Photo: Brocken Inaglory / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究をAIが調べて整理しました(独自の実験ではありません。出典は末尾)。

タバコを吸いたい、お菓子を食べたい、スマホを見たい。そんな「やめたい衝動」が強くなったとき、「少し待てば、波のように自然に消えていく」という話を聞いたことがあるかもしれません。この考え方は「衝動サーフィン」と呼ばれ、心理学者アラン・マーラットが提唱したことで知られています。では、衝動は本当に、ただ待つだけで消えていくのでしょうか。実際に実験で確かめた研究を見ると、話はもう少し複雑でした。

3行でわかる

  1. 衝動を「波」として観察するやり方を教えた実験でも、衝動の強さ自体は、何も教わらなかった人たちと統計的な差がなかった(Bowen&Marlatt, 2009。大学生の喫煙者123人)。
  2. それでも、観察するやり方を学んだ人たちは、その後7日間に吸ったたばこの本数が、何も教わらなかった人たちより有意に少なかった。研究者は、衝動そのものより衝動への反応が変わった可能性を指摘している。
  3. 衝動を抑え込む(考えないようにする)やり方でも、何も対処法を教わらないよりは、その場の衝動の強さが弱かった(Litvinら, 2012。成人の喫煙者162人)。マインドフルネスを使った再発防止プログラムのレビューでも、衝動を下げる効果が支持されている。

01 悩みの正体「衝動サーフィン」とは、どんな考え方?

衝動を波のように上がって下がるものとして、ただ観察し、行動に移さずに乗り切る考え方。

「衝動サーフィン」は、1980年代に心理学者アラン・マーラットが再発防止(リラプス・プリベンション)の考え方の中で紹介したものです。衝動は海の波に似ていて、放っておいてもピークを迎えたあとは自然に下がっていくはずだ、という考え方です。だから衝動が来たときにすべきことは、衝動に飲み込まれて行動してしまう(波に流される)ことでも、無理に押し殺す(波に逆らう)ことでもなく、ただ波に乗ってやり過ごすことだ、という発想です。

この考え方が広まったのは、直感的にわかりやすいからでしょう。実際、強い眠気や痛みなど、多くの身体感覚は時間とともに和らぎます。衝動も同じはずだ、と考えるのは自然なことです。ただし「波のように自然に消える」という部分は、言われてみると納得しやすい一方で、実験室で厳密に確かめた研究はそれほど多くありません。ここでは、衝動サーフィンの効果を実際に検証した研究を集めて、何がわかっていて何がわかっていないのかを整理します。

02 科学的にわかっていること衝動の強さは、観察するだけで本当に下がるのか?

大学生の喫煙者の実験では、衝動の強さそのものは観察した人と教わらなかった人で差がなかった。しかしその後7日間の喫煙本数には差が出た。

Bowen & Marlatt(2009)[1]

喫煙習慣を変えたいと思っている(禁煙プログラムには参加していない)大学生の喫煙者123人を、たばこを使って吸いたい衝動を起こさせる実験(キュー曝露)の中で、衝動サーフィンに基づく短いマインドフルネスの説明を受ける群と、何の説明も受けない対照群にランダムに割り振った。その場で測った衝動の強さは、2つの群で統計的な差がなかった。一方、その後7日間の追跡調査では、マインドフルネス群は対照群よりも、吸ったたばこの本数が有意に少なかった。

対象: 喫煙習慣を変えることに関心のある大学生の喫煙者123人 / 限界: 短時間の実験室での1回の介入であり、長期的な効果は確認されていない。

Litvinら(2012)[2]

成人の喫煙者162人を、たばこの合図を見せる実験の中で「衝動を受け入れて観察する」群、「衝動についての考えを抑え込む」群、「対処法を教えない」対照群の3つにランダムに割り振った。抑え込む群は、他の2群より「たばこについての考え」の報告数が少なかった。衝動の強さは、受け入れる群・抑え込む群のどちらも、対処法を教えない群より弱かった(測り方によっては差が小さいものもあった)。マイナスの気分が対照群より低かったのは、受け入れる群だけだった。その後3日間の禁煙・減煙の試みでは、受け入れる群・抑え込む群のどちらも、対照群より「衝動が来ても吸わずにいられる自信」が高かったが、実際に吸った本数には3群で差がなかった。

対象: 成人の喫煙者162人 / 限界: 実験室での1回の体験に基づき、3日間という短い追跡期間での結果。

Rogojanskiら(2011)[3]

喫煙者61人が、たばこの合図を見せる実験の中で、衝動を観察するマインドフルネスの方法か、考えを抑え込む方法のどちらかを使って衝動に対処した。7日後に「衝動が来ても吸わずにいられる自信」を調べたところ、抑え込む方法を使った群では、衝動を起こさせた後の不安を感じやすい傾向(不安に対する感受性)が強い人ほど、自信が高かった。著者らは、不安を感じやすい人は抑え込む方法でうまく対処できる可能性があると考察している。

対象: 喫煙者61人 / 限界: 個人差を調べた分析であり、どちらの方法がより優れているかを直接比べたものではない。

Ramadasら(2021、システマティックレビュー)[4]

物質使用障害のある人を対象に、マインドフルネスを使った再発防止プログラム(MBRP)の効果を調べた13件の研究をまとめて評価した。研究ごとにプログラムの形式には違いがあったが、13件のうち1件を除くすべてが、依存に関する指標(衝動の強さ・使用頻度など)の少なくとも1つで良い効果を示していた。著者らは、特に衝動を下げる、使用頻度を減らす、抑うつ症状を改善する面で効果が支持されると結論している。

対象: 物質使用障害のある人を対象にした研究13件のレビュー / 限界: 研究間でプログラムの実施方法に差があり、異なる環境・集団での検証はまだ少ない。

4つの研究を、対処の仕方と結果で並べると次のようになります。

研究比べた対処法衝動の強さへの効果数日後の行動・自信
Bowen&Marlatt(2009)観察する vs 何もしない有意差なし7日間の本数が有意に少ない
Litvinら(2012)観察する vs 抑え込む vs 何もしない観察・抑え込みとも対照群より良好自信は向上、3日間の本数は差なし
Rogojanskiら(2011)観察する vs 抑え込む測定の中心は衝動の強さではなく自信不安が強い人は抑え込みで自信が高い
Ramadasら(2021、レビュー)マインドフルネスの再発防止プログラム全般複数の研究で衝動の低下を報告13件中12件で依存の指標が何らかの改善

03 今日からできる小さな一歩衝動が来たとき、今日から何をすればいい?

「ただ待つ」のではなく、観察するか抑え込むか、何らかの型を決めて対処する。実験では、型を教わった人の方が何も教わらない人より良い結果が出やすかった。

何も教えない群と比べた2つの実験(Bowen&Marlatt、Litvinら)では、「対処の型を教わったグループ」の方が、「何も教わらなかったグループ」より、どこかの指標で良い結果でした。どちらの型が優れているかより、まず自分に合う型を持つことが大切そうです。

1

衝動に気づいたら、まず名前をつける

「今、食べたい衝動が来ている」と心の中で言葉にするだけで、衝動を観察する側に立てます。行動する前の一呼吸になります。

所要 10秒

2

「消えるまで待つ」と決めずに、次の行動を決めておく

衝動の強さ自体が下がらなくても行動は変えられます。「衝動が来たら水を飲む」「3回深呼吸する」など、「もし〇〇したら△△する」と決めておくと、衝動に流されにくくなります。

所要 1分

3

自分に合う対処法を2種類試してみる

不安を感じやすい人は、考えを抑え込む方法のほうが合う場合があるという研究があります。「観察する」と「考えを押しのける」の両方を試し、やりやすい方を続けましょう。

所要 数日

04 続けるためのコツうまくいかないときは、どう考えればいい?

その場で衝動が消えなくても、対処を続けた数日後の行動で判断する。

05よくある質問

衝動サーフィンをすれば、衝動そのものはすぐ弱まる?

実験で比べると、衝動を波として観察するやり方を教わった人たちと、何も教わらなかった人たちの間で、衝動の強さ自体には統計的な差がありませんでした(Bowen&Marlatt, 2009)。一方で、観察するやり方を学んだ人たちはその後7日間に吸ったたばこの本数が有意に少なく、その場の感覚より数日後の行動に差が出ることがわかっています。

衝動を抑え込む(考えないようにする)のは逆効果?

Litvinらの研究では、抑え込む方法でも、何も対処法を教わらないよりは、その場の衝動の強さが弱くなりました(マイナスの気分が下がったのは受け入れる方法だけでした)。心配されていた「考えを抑え込んだ後にかえって強く意識してしまう」反動も、この実験では確認されませんでした。

この技法はどんな人に向いている?

考えを抑え込む方法を使った人たちの中では、不安を感じやすい人ほど7日後の自信(衝動が来ても吸わずにいられる自信)が高かった、という研究があります。不安を感じやすい人には抑え込む方法が合う可能性があると、著者らは考えています。自分に合うやり方は一つではなく、試して確かめるものと考えてよさそうです。

出典

  1. Bowen, S., & Marlatt, A. (2009). Surfing the urge: Brief mindfulness-based intervention for college student smokers. Psychology of Addictive Behaviors, 23(4), 666–671. https://doi.org/10.1037/a0017127
  2. Litvin, E. B., Kovacs, M. A., Hayes, P. L., & Brandon, T. H. (2012). Responding to tobacco craving: Experimental test of acceptance versus suppression. Psychology of Addictive Behaviors, 26(4), 830–837. https://doi.org/10.1037/a0030351
  3. Rogojanski, J., Vettese, L. C., & Antony, M. M. (2011). Role of sensitivity to anxiety symptoms in responsiveness to mindfulness versus suppression strategies for coping with smoking cravings. Journal of Clinical Psychology, 67(4), 439–445. https://doi.org/10.1002/jclp.20774
  4. Ramadas, E., Lima, M. P., Caetano, T., Lopes, J., & Dixe, M. D. A. (2021). Effectiveness of Mindfulness-Based Relapse Prevention in Individuals with Substance Use Disorders: A Systematic Review. Behavioral Sciences, 11(10), 133. https://doi.org/10.3390/bs11100133