記憶の宮殿(場所法)で覚えるなら、どうやる? よく知る道に置いて歩き直す記憶術のやり方を研究で調べた

覚えたいものを、よく知っている道や部屋の決まった場所に1つずつ「置いて」いき、思い出すときは頭の中でその道を歩き直す。これが「記憶の宮殿」とも呼ばれる場所法(ロキ法)です。13件のランダム化比較試験をまとめたメタ分析では、場所法は記憶を中くらいの大きさで改善しました。順番のある一覧を覚えるのに向いた方法で、道を先に決めておくことと、くり返し練習することが要になります。
3行でわかる
- 場所法は、よく知る道の決まった地点に、覚えたいものの映像を順に置いて覚える記憶術。13件の試験のメタ分析で、効果の大きさは中程度(g=0.65)だった。
- 記憶術を使ったことのない人が1日30分・40日練習した実験では、72語のうち思い出せた数が平均25.2語から62.2語に増えた。
- 向いているのは順番のある一覧。使いこなすには練習が要り、多くの研究は大学生が対象という限界もある。
01 悩みの正体場所法(記憶の宮殿)とはどんな覚え方?
自宅や通学路など、よく知る道の地点を順番に決め、そこに覚えたいものの映像を置いていく方法です。思い出すときは、頭の中でその道をもう一度歩きます。
場所法は、何千年も前から使われ、記憶力を競う大会の選手(メモリーアスリート)の多くも使っている方法です[1]。やることは3つだけです[2]。
- よく知っている場所を思い浮かべ、歩く順番と、ものを置く地点を決める。
- 覚えたいものを、地点ごとに1つずつ、映像にして「置く」。
- 思い出すときは、同じ順番で頭の中を歩き、それぞれの地点に何があるかを「見る」。
たとえば買い物のメモなら、「玄関に牛乳がこぼれている」「靴箱の上で卵が割れている」のように置いていきます(説明のための例で、研究で使われた材料ではありません)。場所の順番が、そのまま思い出す順番の手がかりになります。似た考え方で、音の似た言葉を手がかりにする語呂合わせ(キーワード法)もあります。
02 科学的にわかっていること場所法は、どれくらい記憶をよくする?
13件の試験をまとめたメタ分析で、効果の大きさは中程度でした。1日30分・40日練習した人は、72語のうち思い出せる数が25.2語から62.2語に増え、4か月後も効果が残りました。
TwomeyとKroneisen(2021)[1]
場所法を、使わない場合とくらべた13件のランダム化比較試験をまとめました。場所法には中くらいの大きさの効果(g=0.65、95%信頼区間0.45〜0.85)がありました。出版バイアスの補正、練習回数、比較した条件などで分けて分析しても、効果の大きさはほぼ同じでした。
対象: 主に大学で行われた13件の試験 / 限界: 多くの試験が、割り付けの手順などバイアスを減らす方法を報告しておらず、偏りのリスクは高いと評価されています。
25.2語 → 62.2語
場所法を40日(1日30分)練習した17人が、72語のリストを覚えて20分後に思い出せた語数の平均(練習前→練習後)[3]
Dreslerら(2017)・Wagnerら(2021)[3][4]
記憶術を使ったことのない男子大学生51人を、場所法の練習、作業記憶(ワーキングメモリ)の練習、何もしない、の3組に分けました。場所法の組は6週間で1日30分・計40回、自宅でオンラインの練習をしました。練習後、場所法の組は72語のうち平均62.2語を思い出し、ほかの2組(41.7語・36.4語)を上回りました[4]。4か月後に最初と同じ72語をもう一度覚えたテストでも、場所法の組だけが練習前より平均22.7語多く思い出しました[4]。脳の画像でも、練習後の脳のつながり方が、記憶の大会の上位選手に近づいていました[3]。
対象: ドイツの大学の男子学生51人(平均24歳。分析は50人、4か月後の再テストは45人) / 限界: 単語の一覧を覚えるテストで、1日30分の練習を40回こなした人の結果です。
Leggeら(2012)[2]
関係のない11語の一覧を10個覚える実験で、短い時間だけ見たバーチャル空間の道を「宮殿」にしても、よく知る場所を使う従来の場所法と同じくらい効果がありました。どちらも、方法を教わらなかった組より成績がよくなりました。
対象: 記憶術に慣れていない参加者 / 限界: 単語の順番を覚える課題での結果です。
Qureshiら(2014)[5]
パキスタンの医学生78人がインスリンと糖尿病の講義を受けた後、無作為に選ばれた28人が場所法での復習を3回受けました。10問の選択式テストの平均は、場所法の組が9.31問、自習をした組が8.10問でした。
対象: 医学部2年生78人 / 限界: 1つの学校で、講義後の1回のテストだけをくらべています。著者らも、場所法を使いこなすには本来多くの練習が要る点を限界に挙げています。
03 今日からできる小さな一歩場所法で覚えるには、何から始める?
まず自宅の中に10地点の道を決めます。次に覚えたいものを1地点に1つずつ、動きのある映像にして置きます。最後に頭の中で道を歩いて思い出し、翌日以降も同じ道で練習します。
自宅の中に10地点の「道」を決める
玄関、靴箱、廊下、台所のように、毎日通る順番で10か所を選びます。紙に書き、目を閉じて順番どおりにたどれるか確かめます。短い時間見ただけの場所でも効果があったため、凝った場所である必要はありません[2]。
所要 5分
1地点に1つずつ、映像にして置く
覚えたいものを、その場所で動いている大げさな場面にします。1つの地点には1つだけ置きます。
所要 1つ10〜20秒
毎日少しずつ練習する
40日間の実験の練習は1日30分でした[3]。まずは1日10分から、同じ道で別の一覧を覚える練習をします。
所要 1日10〜30分
| 覚えたいもの | 場所法との相性 |
|---|---|
| 買い物・持ち物・話す順番などの一覧 | 向いている。研究の多くはこの形の課題です[1][2] |
| 試験範囲の要点の順番 | 使える。講義の後の復習に使った研究があります[5] |
| 外国語の単語と意味の組 | 単語ごとに語呂合わせのほうが手軽。暗記カードとの併用が現実的 |
04 続けるためのコツ場所法がうまくいかないときは?
映像が浮かびにくいなら、道を短くして地点を減らします。同じ道で何度も覚えると混ざりやすいので、道を複数用意して順番に使い回します。
- 最初は5〜10地点の短い道でよい。慣れてから地点を増やす。
- 40日間の実験でも、前の日に覚えた一覧との混ざりを減らすため、4つの道を順番に使っていました[3]。混ざる仕組みは記憶の干渉の研究で紹介しています。
- 場所法で覚えた後も、日をあけて思い出す。復習の間隔は復習のタイミングの研究が目安になります。
- すぐに使いこなせなくても失敗ではありません。上達には練習が要る方法です[5]。
05よくある質問
記憶の宮殿(場所法)は、本当に効果がありますか?
13件のランダム化比較試験をまとめたTwomeyとKroneisen(2021)のメタ分析では、中くらいの大きさの効果(g=0.65)がありました。ただし多くの試験は大学で行われ、バイアスを減らす手順の報告が少ないという限界があります。
場所法はどれくらい練習すれば使えるようになりますか?
Dreslerら(2017)の実験では、記憶術を使ったことのない人が1日30分・計40回の練習をして、72語のうち思い出せる数が平均25.2語から62.2語に増えました。短い説明だけでも効果が出た研究もありますが、使いこなすには練習が要ると考えられています。
知らない場所や想像の場所でも、記憶の宮殿にできますか?
Leggeら(2012)の実験では、短い時間だけ見たバーチャル空間の道を使っても、よく知る場所を使った場合と同じくらい単語の一覧を覚えられました。順番をはっきりたどれる道であれば、自宅である必要はないと考えられます。
出典
- Twomey, C., & Kroneisen, M. (2021). The effectiveness of the loci method as a mnemonic device: Meta-analysis. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 74(8), 1317-1326. https://doi.org/10.1177/1747021821993457
- Legge, E. L. G., Madan, C. R., Ng, E. T., & Caplan, J. B. (2012). Building a memory palace in minutes: Equivalent memory performance using virtual versus conventional environments with the Method of Loci. Acta Psychologica, 141(3), 380-390. https://doi.org/10.1016/j.actpsy.2012.09.002
- Dresler, M., Shirer, W. R., Konrad, B. N., Müller, N. C. J., Wagner, I. C., Fernández, G., Czisch, M., & Greicius, M. D. (2017). Mnemonic training reshapes brain networks to support superior memory. Neuron, 93(5), 1227-1235.e6. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2017.02.003
- Wagner, I. C., Konrad, B. N., Schuster, P., Weisig, S., Repantis, D., Ohla, K., Kühn, S., Fernández, G., Steiger, A., Lamm, C., Czisch, M., & Dresler, M. (2021). Durable memories and efficient neural coding through mnemonic training using the method of loci. Science Advances, 7(10), eabc7606. https://doi.org/10.1126/sciadv.abc7606
- Qureshi, A., Rizvi, F., Syed, A., Shahid, A., & Manzoor, H. (2014). The method of loci as a mnemonic device to facilitate learning in endocrinology leads to improvement in student performance as measured by assessments. Advances in Physiology Education, 38(2), 140-144. https://doi.org/10.1152/advan.00092.2013


