物忘れが増えて、記憶に自信をなくしたら?「年のせい」と思うほど思い出しにくくなる研究と立て直し方

人の名前が出てこない。何を取りに来たか忘れる。そのたびに「年のせいかな」と落ち込んでしまう。そんな経験が続くと、覚えること自体に自信がなくなります。研究では、「年をとると記憶が落ちる」という思い込みを意識させられただけで、高齢の人の記憶テストの成績が下がっていました。自信をなくしたときは、自分を責めるより、覚え方と思い出し方を変えるほうが研究に沿っています。
3行でわかる
- 「年をとると記憶が落ちる」と意識させられると、高齢の人の記憶や頭の働きのテストの成績が下がりました(82の効果量のメタ分析。訂正後の効果の大きさ d = 0.32)。
- 下がったのは、手がかりなしで思い出すテストと、覚えた直後のテストでした。選択肢から選ぶテストや、時間をおいたテストでは、はっきりした差は出ていません。
- 立て直すには、覚えるときに「方法」を1つ使い、思い出すときは手がかりを用意します。不安が強いときは、専門家に相談すると不安が和らいだ例があります。
01 悩みの正体物忘れで自信をなくすと、もっと忘れやすくなる?
その可能性があります。研究では、「年をとると記憶が落ちる」という見方を意識した高齢の人ほど、記憶テストの成績が下がっていました。思い込みが、覚え方や思い出し方に影響すると考えられています。
自分が属する集団について、悪いイメージを意識すると、その場で実力を出しにくくなることがあります。心理学では、これを「ステレオタイプ脅威」と呼びます。
高齢の人の場合、そのイメージは「年をとると物覚えが悪くなる」です。物忘れのたびに「やっぱり年だ」と思うと、その見方が強まります。すると次に覚える場面で、力を出しにくくなるかもしれません。
ただし、物忘れはもともと誰にでもあります。聞いたばかりの番号を忘れる仕組みは短期記憶の研究で、人の名前だけ出てこない理由は名前が覚えにくい仕組みの研究で紹介しています。若い人にも起きる、ふつうの物忘れも多いのです。
02 科学的にわかっていること「年のせい」と思うと、記憶は本当に落ちる?
2つのメタ分析で、思い込みを意識させられた高齢の人の成績が下がりました。効果は小さめから中くらいです。手がかりなしで思い出すテストと、覚えた直後のテストで差が出やすい傾向でした。
Lamontら(2015、2018年に訂正)[1][2]
32の論文(未発表の研究10本を含む)、82の効果量、3,882人をまとめたメタ分析です。年齢についての悪い思い込みを意識させると、高齢の人の成績が下がりました。効果の大きさは訂正後に d = 0.32 で、「小さめから中くらい」と評価されています。「年をとると記憶が落ちるという研究がある」と事実として伝えるより、思い込みを刺激する伝え方で、影響が大きく出ていました。
対象: 参加者の平均年齢69.5歳、研究はヨーロッパと北米 / 限界: 出版バイアス(成績が下がった研究ほど発表されやすい偏り)の可能性も指摘されています。2018年に、一部の効果量の計算の誤りが訂正されました。主な結論は変わっていません。
Armstrongら(2017)[3]
出来事を覚えておく記憶(エピソード記憶)で23の標本、頭の中で情報を保ちながら作業する記憶(ワーキングメモリ)で15の標本をまとめました。思い込みの影響は、エピソード記憶で d = 0.373、ワーキングメモリで d = 0.253 でした。手がかりなしで思い出すテストでは差が出ましたが、手がかりつきのテストや、選択肢から選ぶテストでは差は出ませんでした。覚えた直後のテストで差が出て、時間をおいたテストでは出ていません。
対象: 19の発表論文と4つの未発表論文 / 限界: 実験室で、思い込みを意図的に刺激した条件での結果です。年齢や学歴による違いは見られませんでした。
Hessら(2003)[4]
若い人48人と高齢の人48人で、言葉を思い出すテストをしました。思い込みを強く意識させる条件では、高齢の人の成績が、若い人より低く、思い込みを意識しなかった高齢の人よりも低くなりました。自分の記憶力を大事に思っている人ほど、影響が大きい傾向でした。思い込みを意識した人は、覚えるときの工夫(記憶術)をあまり使わなくなっていました。
対象: 若い人48人、高齢の人48人 / 限界: 1つの研究で、人数は多くありません。工夫が減ったことは、成績低下の一部を説明するだけでした。
| テストの種類 | 思い込みの影響 | 日常での例 |
|---|---|---|
| 手がかりなしで思い出す | 差が出た | 買い物の品を何も見ずに思い出す |
| 手がかりつきで思い出す | はっきりした差なし | 「野菜は何だった?」と聞かれて思い出す |
| 選択肢から選ぶ | はっきりした差なし | 店で見て「これだった」と気づく |
| 覚えた直後 | 差が出た | 聞いてすぐ確かめる |
| 時間をおいて | はっきりした差なし | 翌日に思い出す |
この表は、Armstrongら(2017)のメタ分析の結果を、日常の場面に当てはめてこのサイトで並べたものです[3]。日常での例は、わかりやすくするための例えです。
03 今日からできる小さな一歩物忘れで自信をなくしたら、何をすればいい?
覚えるときは方法を1つ使い、思い出すときは手がかりを用意します。高齢の人の記憶の練習をまとめたメタ分析では、覚え方を学んだ人の成績が上がっていました(差は0.31標準偏差)。
覚えるとき、方法を1つだけ使う
買う物を「野菜・調味料・日用品」に分ける。場面を絵のように思い浮かべる。名前と顔を結びつける。35の研究のメタ分析では、こうした方法を学んだ高齢の人は、学ばなかった人より成績が伸びました[5]。どの方法が特によいという差はありませんでした。
所要 覚えるたびに30秒
思い出すときの手がかりを先に作る
メモの見出し、カレンダー、置き場所を決めた箱などです。思い込みの影響は、手がかりなしで思い出す場面で出やすく、手がかりつきや選ぶ場面では出ていませんでした[3]。
所要 5分
「年のせい」と言う前に、場面を書く
忘れたら「何を・いつ・どんな状況で」を1行メモします。忙しい・疲れている・急いでいるなど、年齢以外の理由が見えることがあります。記録の効果を確かめた研究ではありませんが、相談するときの材料にもなります。
所要 1分
04 続けるためのコツ物忘れの不安が消えないときは、どうする?
不安が強いなら、専門家に相談するのが一つの方法です。記憶の不安についての58の論文の整理では、相談したあとに、物忘れの自覚と不安の結びつきが弱まった例が報告されています。
- 不安や落ち込みが、物忘れの感じ方を強めることがある: 物忘れの自覚は、うつや不安と一貫して関連していました。不安は「できなくなるのが怖い」という気持ちと結びついていました[6]。
- 相談で不安が和らいだ例がある: スウェーデンのもの忘れ外来の2つの追跡調査(59人と58人)では、受診後に不安や心配が減っていました[6]。人数が少なく、受診した人だけの結果です。
- 暮らしに支障が出ているなら早めに: 約束や支払いを何度も忘れる、周りの人から指摘されるなどのときは、かかりつけ医やもの忘れ外来に相談してください。
- 思い出せないときの対処も知っておく: 言葉が喉まで出かかる「ど忘れ」の対処はど忘れの研究で、忘れた単語を覚え直すコツは学び直しの研究で紹介しています。
05よくある質問
物忘れが増えたのは、認知症の始まり?
物忘れだけでは判断できません。物忘れは誰にでもあり、物忘れの自覚は不安や落ち込みとも関連していました。ただ、約束や支払いを何度も忘れるなど暮らしに支障が出ている、周りの人から指摘されるときは、かかりつけ医やもの忘れ外来に相談してください。
「年のせい」と思うと、本当に記憶は落ちるの?
実験では落ちていました。82の効果量をまとめたメタ分析では、年齢についての悪い思い込みを意識させられた高齢の人の成績が下がり、効果の大きさは訂正後に d = 0.32 でした。ただし実験室で意図的に刺激した条件での結果で、出版バイアスの可能性も指摘されています。
若い人でも、思い込みで記憶が落ちる?
この記事の研究は、平均69.5歳など高齢の人を対象にしたものです。若い人で同じことが起きるかは、これらの研究ではわかりません。若い人のふつうの物忘れには、短期記憶の限界など別の仕組みも関わっています。
記憶力を上げるには、脳トレゲームがいい?
高齢の人の記憶の練習をまとめたメタ分析では、ものをまとめる、場面を思い浮かべるなど、覚え方を学んだ人の成績が上がっていました(差は0.31標準偏差)。脳トレゲームについては、上達するのはそのゲームだけという研究が多く、別の記事で紹介しています。
出典
- Lamont, R. A., Swift, H. J., & Abrams, D. (2015). A review and meta-analysis of age-based stereotype threat: Negative stereotypes, not facts, do the damage. Psychology and Aging, 30(1), 180–193. https://doi.org/10.1037/a0038586
- Correction to Lamont, Swift, and Abrams (2015). (2018). Psychology and Aging, 33(5), vi. https://doi.org/10.1037/pag0000269
- Armstrong, B., Gallant, S. N., Li, L., Patel, K., & Wong, B. I. (2017). Stereotype threat effects on older adults' episodic and working memory: A meta-analysis. The Gerontologist, 57(suppl_2), S193–S205. https://doi.org/10.1093/geront/gnx056
- Hess, T. M., Auman, C., Colcombe, S. J., & Rahhal, T. A. (2003). The impact of stereotype threat on age differences in memory performance. The Journals of Gerontology: Series B, 58(1), P3–P11. https://doi.org/10.1093/geronb/58.1.P3
- Gross, A. L., Parisi, J. M., Spira, A. P., Kueider, A. M., Ko, J. Y., Saczynski, J. S., Samus, Q. M., & Rebok, G. W. (2012). Memory training interventions for older adults: A meta-analysis. Aging & Mental Health, 16(6), 722–734. https://doi.org/10.1080/13607863.2012.667783
- Hill, N. L., Mogle, J., Wion, R., Munoz, E., DePasquale, N., Yevchak, A. M., & Parisi, J. M. (2016). Subjective cognitive impairment and affective symptoms: A systematic review. The Gerontologist, 56(6), e109–e127. https://doi.org/10.1093/geront/gnw091


