イライラした瞬間、怒りを落ち着かせるには?「一歩引いて眺める」やり方を研究で調べた

言われた一言にカッとして、言い返したくなる。あとで「言わなければよかった」と思う。怒りっぽいのは性格のせいだと思いがちですが、研究では怒った直後の「振り返り方」で、その後の怒りと行動が変わることがわかっています。出来事を少し離れた場所から眺めるように考えると、怒りや攻撃的な行動が減りました。154件の研究のまとめでは、呼吸などで体の興奮を下げる方法も効きました。反対に、物をたたく・走るなどの「発散」は効きませんでした。
3行でわかる
- 怒った直後に、出来事を「壁にとまったハエ」のように離れた場所から眺めて振り返ると、怒りと攻撃的な行動が減った(大学生の実験)。
- 154件・10,189人の研究のまとめでは、深呼吸や瞑想など体の興奮を下げる方法が怒りと攻撃性を下げた(g=-0.63)。発散や運動など興奮を上げる方法は効かなかった(g=-0.02)。
- 「なんで私が」と同じ場面を思い返し続けると、怒りが長引き、関係のない相手への八つ当たりも増えた。離れて眺めるのが難しいときは、いったん別のことに気をそらすほうがよい。
01 悩みの正体カッとした後、怒りが続くのはなぜ?
怒りが続くのは、出来事を「自分の目」で何度も再生し、そのたびに同じ気持ちを味わい直すからです。研究では、この振り返り方が怒りを長引かせ、八つ当たりを増やすことがわかっています。
嫌なことを言われると、頭の中で場面をくり返し再生しがちです。「なんであんな言い方をするのか」「次はこう言い返そう」と考えるほど、体はまた熱くなります。
Bushmanら(2005)の実験では、腹の立つ目にあったあと25分間その出来事を考え続けた人は、別のことで気をそらした人より、あとでささいなミスをした別の相手に攻撃的になりました[4]。8時間あけても同じ傾向でした。怒りは時間がたてば消えるとは限らず、考え続けるあいだ残り続けるのです。
心理学では、出来事の中に入り込んで自分の目で見る振り返り方を「自己没入」、少し離れた場所から自分を眺める振り返り方を「自己距離化」と呼びます。同じ出来事でも、どちらの見方で振り返るかで、気持ちの強さが変わります。
02 科学的にわかっていること一歩引いて眺めると、本当に怒りは収まる?
収まりやすくなります。怒った直後に離れた視点で振り返った人は、怒りと攻撃的な行動が減りました。体の興奮を下げる方法も、154件の研究のまとめで効果が確かめられています。
Mischkowski・Kross・Bushman(2012)[1]
相手からきつい言葉を受けた直後に、その場面を「壁にとまったハエ」のように離れた場所から眺めて振り返った大学生は、攻撃的な考え・怒り・攻撃的な行動が少なくなりました。何も指示されなかった人よりも、攻撃的な行動は少なめでした。
対象: 実験室で挑発を受けた大学生(2つの実験) / 限界: 実験室での短い場面の研究です。数値は論文本文を確認できず、論文の題と、後の研究での紹介[2]の範囲で書いています。
Michel-Kröhlerら(2020)[2]
競技スポーツの選手40人が、挑発される対戦ゲームを「離れて眺める」と「入り込む」の両方の見方で行いました。入り込んだときはゲームの後にいやな気分が強まりましたが、離れて眺めたときは強まりませんでした。相手に浴びせる不快な音の強さと長さ(攻撃的な行動)も、離れて眺めたときのほうが小さくなりました(効果の大きさd=0.33)。
対象: ドイツの選手40人(平均23.8歳) / 限界: 人数が少なく、怒りは2つの質問項目だけで測りました。怒りの指標では、時間による変化の差ははっきりしませんでした。
Kjærvik・Bushman(2024)[3]
154件・10,189人の研究をまとめると、深呼吸・瞑想・マインドフルネスなど体の興奮を下げる方法は、怒りと攻撃性を中くらいの大きさで下げました(g=-0.63)。サンドバッグをたたく、走るなど興奮を上げる方法は、全体として効果がありませんでした(g=-0.02)。
対象: 学生・一般の人・受刑者など幅広い人を含む研究のまとめ / 限界: 研究ごとにやり方や測り方がばらばらです。
Verduynら(2012)[6]
毎日の出来事を記録してもらう調査では、いやな出来事を離れた視点で振り返った日ほど、いやな気持ちが短く終わっていました。
対象: 日記式の調査(2つの研究) / 限界: 振り返り方を指示した実験ではないため、原因と結果は言い切れません。
一方で、すべてがきれいに再現されているわけではありません。Résiboisら(2018)は、離れた視点で振り返ると気持ちの高まりがゆるやかになることを本人の報告では再現できましたが、脳の活動には差が見られませんでした[7]。効果はあっても、大きすぎる期待は禁物です。
| 怒ったときの対処 | 研究での結果 |
|---|---|
| 離れた場所から眺めて振り返る | 怒り・攻撃的な行動が減った[1][2] |
| 深呼吸・瞑想で体を落ち着かせる | 怒りと攻撃性が下がった(g=-0.63)[3] |
| 別のことで気をそらす | 考え続けるよりは八つ当たりが少なかった[4] |
| 同じ場面を思い返し続ける | 八つ当たりが増えた[4] |
| たたく・走るなどで発散する | 全体として効果なし(g=-0.02)[3] |
03 今日からできる小さな一歩カッとしたその場で、何をすればいい?
まず長く息を吐いて体を落ち着かせ、次に場面を離れた場所から眺めます。自分を名前で呼んで問いかけると、距離を取りやすくなります。難しければ、いったん別のことに気をそらします。
返事をする前に、ゆっくり息を吐く
言い返す前に、鼻から吸って口から長く吐く呼吸を数回くり返します。体の興奮を下げる方法は、154件の研究で効果が確かめられています[3]。呼吸のやり方は長く吐く呼吸の記事で紹介しています。
所要 30秒〜1分
場面を「壁のハエ」の位置から眺める
さっきの場面を、部屋のすみの天井近くから見下ろしているつもりで思い浮かべます。そこに映る自分と相手を、知らない人を見るように眺めます。研究で使われたのとほぼ同じやり方です[1][2]。
所要 1〜2分
自分を名前で呼んで問いかける
「なんで私がこんな目に」ではなく、「〇〇(自分の名前)は、なぜこんなに腹を立てているんだろう」と心の中で言います。7つの研究・585人の実験では、自分を名前や「彼・彼女」で呼ぶと、離れた視点を取りやすくなりました[5]。
所要 1分
それでも頭から離れないときは、気をそらす
離れて眺めようとしても場面に引き込まれるときは、無理に考え続けないでください。散歩や片づけなど別のことに手を動かすほうが、考え続けるより八つ当たりは少なくなりました[4]。
所要 5〜10分
04 続けるためのコツ怒りやすい自分を、少しずつ変えるには?
落ち着いてから、その日の出来事を離れた視点で1回だけ振り返ると、いやな気持ちが長引きにくくなります。発散するより、体を落ち着かせる練習をふだんから続けるほうが近道です。
- 振り返りは1回だけ、離れた視点で。同じ場面を何度も再生すると、怒りは長引きます[4][6]。
- 「怒りを発散すればすっきりする」は当てにしない。たたく・叫ぶ・走るでは怒りは下がりませんでした[3]。紙に書いて捨てる方法はこちらの記事で調べています。
- 気持ちに名前をつけるのも手。「いま、イライラしている」と言葉にする方法は名前をつける記事で紹介しています。
- 寝不足の日は怒りやすいと知っておく。睡眠不足とイライラの関係は寝不足と怒りの記事にまとめています。
05よくある質問
「6秒待てば怒りは収まる」は本当?
「6秒」という時間そのものを確かめた研究は、今回の調査では見つかりませんでした。ただ、すぐ言い返さずに呼吸で体を落ち着かせる方法は、154件の研究のまとめで怒りを下げる効果が確かめられています。待つあいだに、ゆっくり息を吐くのがおすすめです。
「一歩引いて眺める」と、怒りをがまんして押し込めることになりませんか?
押し込めることとは違います。離れた視点で振り返る方法は、出来事を考えないようにするのではなく、少し遠くから考え直すやり方です。研究では、離れて振り返った人ほど、いやな気持ちが短く終わっていました。
怒りは発散したほうがすっきりするのでは?
研究ではそうなりませんでした。154件の研究のまとめでは、物をたたく、走るなど体の興奮を上げる方法は、全体として怒りを下げませんでした(g=-0.02)。体を落ち着かせる方法のほうが効果がありました(g=-0.63)。
出典
- Mischkowski, D., Kross, E., & Bushman, B. J. (2012). Flies on the wall are less aggressive: Self-distancing “in the heat of the moment” reduces aggressive thoughts, angry feelings and aggressive behavior. Journal of Experimental Social Psychology, 48, 1187–1191. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2012.03.012
- Michel-Kröhler, A., Kaurin, A., Heil, L. F., & Berti, S. (2020). Self-Distancing as a Strategy to Regulate Affect and Aggressive Behavior in Athletes: An Experimental Approach to Explore Emotion Regulation in the Laboratory. Frontiers in Psychology, 11, 572030. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.572030
- Kjærvik, S. L., & Bushman, B. J. (2024). A meta-analytic review of anger management activities that increase or decrease arousal: What fuels or douses rage? Clinical Psychology Review, 109, 102414. https://doi.org/10.1016/j.cpr.2024.102414
- Bushman, B. J., Bonacci, A. M., Pedersen, W. C., Vasquez, E. A., & Miller, N. (2005). Chewing on it can chew you up: Effects of rumination on triggered displaced aggression. Journal of Personality and Social Psychology, 88(6), 969–983. https://doi.org/10.1037/0022-3514.88.6.969
- Kross, E., Bruehlman-Senecal, E., Park, J., et al. (2014). Self-talk as a regulatory mechanism: How you do it matters. Journal of Personality and Social Psychology, 106(2), 304–324. https://doi.org/10.1037/a0035173
- Verduyn, P., Van Mechelen, I., Kross, E., Chezzi, C., & Van Bever, F. (2012). The relationship between self-distancing and the duration of negative and positive emotional experiences in daily life. Emotion, 12(6), 1248–1263. https://doi.org/10.1037/a0028289
- Résibois, M., Rotgé, J.-Y., Delaveau, P., et al. (2018). The impact of self-distancing on emotion explosiveness and accumulation: An fMRI study. PLoS ONE, 13(11), e0206889. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0206889


