緊張する本番の前は「落ち着こう」より「わくわくしてきた」? 不安の言い換えの研究でわかったやり方

発表や面接の前、心臓がドキドキして手が冷たくなる。「落ち着け、落ち着け」と言い聞かせても、なかなか静まりません。研究では、ドキドキを無理に静めようとするより、「わくわくしてきた」と声に出して言い換えるほうが、気持ちが前向きになり、出来も良くなることが示されています。ただし効果は小さめで、再現の確かさにも注意が必要です。
3行でわかる
- 不安とわくわくは、どちらも心臓が速く打つ「高ぶった状態」。高ぶりを静めるより、意味づけを変えるほうが移りやすいと考えられている。
- カラオケ、スピーチ、計算問題の実験で、「わくわくしている」と声に出した人は、「落ち着いている」と言った人よりわくわく感が高く、出来も良かった。
- 5,638人の研究をまとめると効果は小さく(d=0.23)、発表の偏りを補正すると0.14まで下がった。人前で何かをする場面では効果がやや大きかった。
01 悩みの正体緊張は、なぜ「落ち着こう」としても消えない?
緊張のドキドキは体が高ぶった状態で、意志の力ですぐに静めるのは難しいからです。研究者は、高ぶりはそのままにして、その意味を「準備ができている合図」に変えるほうが現実的だと考えています。
緊張すると、心臓が速く打ち、呼吸が浅くなり、手に汗をかきます。ストレスの研究では、こうした体の高ぶりは、大事な場面を乗り切るために備わった反応だと説明されています[2]。
心理学者のBrooksは、調査で、緊張への対処として「落ち着こうとする」のが一番だと考える人が圧倒的に多いことを確かめました[1]。しかし、高ぶった体を短時間で静かな状態に戻すのは簡単ではありません。
一方、わくわくしているときも、体は同じように高ぶっています。違うのは「脅威」と受け取るか、「チャンス」と受け取るかです。Brooksは、高ぶりの強さはそのままに、意味だけを変えるほうが移りやすいと考えました[1]。
02 科学的にわかっていること「わくわくしてきた」と言い換えると、本番の出来は変わる?
複数の実験で、言い換えた人は気持ちが前向きになり、出来も良くなりました。ただし数多くの研究をまとめると効果は小さく、発表されやすい結果に偏っている可能性も指摘されています。
Brooks(2014)[1]
カラオケで歌う、人前でスピーチする、難しい計算問題を解く、という緊張する課題で実験しました。課題の前に、ドキドキを「わくわく」と言い換えた人は、落ち着こうとした人よりわくわく感が高く、出来も良くなりました。言い換えは、「わくわくしている」と声に出して言う、「わくわくしよう」というメッセージを読む、という簡単な方法で起きました。言い換えた人は、場面を脅威ではなくチャンスと捉えるようになっていました。
対象: カラオケ・スピーチ・計算問題の複数の実験 / 限界: 短い実験室の課題で、その場の効果を見たものです。のちに多くの研究をまとめた分析では、効果は小さめでした[4]。
Jamiesonら(2012)[2]
50人に、審査員の前での5分間のスピーチと、5分間の暗算(996から7ずつ引く)をしてもらいました。審査員は否定的な反応を返します。事前に「ストレスによる体の高ぶりは害ではなく、うまくやるのを助ける」という説明を読んだ組は、説明なしの組や、審査員から目をそらす組より、心臓が送り出す血液の量が多く、血管の収縮が小さい、「挑戦」に近い体の反応を示しました。審査員から目をそらす組と比べて、脅威を表す言葉に注意を奪われにくくもなりました。
対象: 平均22歳前後の大人50人(分析は49人) / 限界: 小さな実験です。体の反応と注意のどちらが原因なのかは区別できていません。
Gintyら(2022)[3]
155人の参加者を、高ぶりの言い換えを教わる組と教わらない組にランダムに分け、ストレス課題を行いました。言い換えを教わった組は、体の高ぶりや不安を「役に立つもの」と前向きに受け取るようになりました。ドキドキが強いほど悪く受け取る、というつながりも断ち切られていました。
対象: 155人(別に455人の調査も実施) / 限界: 実験室での1回のストレス課題での結果です。
BosshardとGomez(2024・メタ分析)[4]
ストレスの高ぶりの言い換えや、「ストレスは力になる」という考え方を教える方法を調べた、ランダム化比較試験の44の結果(33本の論文、5,638人)をまとめました。課題の出来は小さく改善しました(d=0.23)。人前で何かをする課題では0.34、筆記の課題では0.20でした。ほかの内容と組み合わせた方法では0.45と大きめでした。
対象: 平均22.6歳、不安の病気がある人の研究は含まれない / 限界: 小さな研究ほど効果が大きい偏りがあり、補正すると0.14まで下がりました。多くは短期の効果です。
d=0.23
高ぶりの言い換えなどで課題の出来が良くなった効果の大きさ(44の結果、5,638人のまとめ。補正後は0.14)[4]
場面ごとの効果を並べると、次のとおりです。
| 場面・方法 | 効果の大きさ(d) | 読み方 |
|---|---|---|
| 全体(44の結果) | 0.23(補正後0.14) | 小さいが、ゼロではない[4] |
| 人前で何かをする課題(スピーチなど) | 0.34 | やや効きやすい[4] |
| 筆記の課題(テストなど) | 0.20 | 小さい[4] |
| 言い換えだけの方法 | 0.22 | 小さい[4] |
| ほかの内容と組み合わせた方法 | 0.45 | 中くらい。ただし5件だけ[4] |
03 今日からできる小さな一歩本番直前に、緊張をどう言い換えればいい?
本番の直前に、ドキドキを「体が準備できた合図」と捉え直し、「わくわくしてきた」と声に出して言います。「落ち着け」と言い聞かせるのはやめます。全部で1分ほどです。
ドキドキに気づいたら「準備ができた合図」と考える
体の高ぶりは害ではなく、うまくやるのを助ける反応です。実験では、この説明を読んだ人の体の反応が「挑戦」に近づきました[2]。
所要 30秒
「わくわくしてきた」と声に出して言う
本番の直前、声に出せる場所で一度言います。実験では、声に出して言う方法で効果が出ました[1]。小声でもかまいません。
所要 10秒
「落ち着け」と言い聞かせるのをやめる
実験では、「落ち着こう」とした人より、「わくわく」と言い換えた人のほうが、気持ちも出来も上でした[1]。ドキドキを消そうとせず、そのまま本番に連れていきます。
所要 0分
前の日に、高ぶりの仕組みを一度読んでおく
「高ぶりは力になる」という説明を読むことも、研究で使われた方法の1つです[2]。言い換えにほかの内容を組み合わせた方法では、効果が大きめでした[4]。
所要 5分
04 続けるためのコツ言い換えてもうまくいかなかったときは?
効果は小さめなので、1回で緊張が消えなくても失敗ではありません。呼吸法や気持ちを言葉にする方法と組み合わせ、何度か試しながら使うのが現実的です。
- 言い換えは、緊張を「なくす」方法ではなく、受け取り方を変える方法。実験でも、変わったのは高ぶりの受け取り方だった[3]。ドキドキが残っていても、うまくいっていないわけではない。
- 体を少し静めたいときは、ゆっくりした呼吸も使える(ゆっくり呼吸の研究)。
- 何が不安なのかを言葉にすると、気持ちが整理しやすい(気持ちに名前をつける研究)。
- 試験中に頭が真っ白になったときは、試験で頭が真っ白になったときの立て直し方も参考にしてください。
05よくある質問
「わくわくしてきた」は、心の中で言うだけでも効きますか?
Brooks(2014)の実験で使われたのは、声に出して「わくわくしている」と言う方法と、「わくわくしよう」というメッセージを読む方法でした。心の中だけで言う場合の効果は、この研究からはわかりません。周りに人がいるときは、小声やトイレの中など、声に出せる場所を探すとよいでしょう。
深呼吸して落ち着くのは、やめたほうがいい?
やめる必要はありません。Brooks(2014)が比べたのは「落ち着いている」と自分に言い聞かせる方法で、呼吸法とは別のものです。ゆっくりした呼吸がストレスを和らげる研究もあります。言い換えと呼吸は、両方使ってかまいません。
不安がとても強いときにも使えますか?
5,638人をまとめた分析には、不安の病気がある人を対象にした研究は含まれていませんでした。発表会や面接など、ふだんの緊張向けの方法と考えてください。動悸や息苦しさで生活に困るほどの不安が続くときは、医師や専門家に相談してください。
出典
- Brooks, A. W. (2014). Get excited: Reappraising pre-performance anxiety as excitement. Journal of Experimental Psychology: General, 143(3), 1144-1158. https://doi.org/10.1037/a0035325
- Jamieson, J. P., Nock, M. K., & Mendes, W. B. (2012). Mind over matter: Reappraising arousal improves cardiovascular and cognitive responses to stress. Journal of Experimental Psychology: General, 141(3), 417-422. https://doi.org/10.1037/a0025719
- Ginty, A. T., Oosterhoff, B. J., Young, D. A., & Williams, S. E. (2022). Effects of arousal reappraisal on the anxiety responses to stress: Breaking the cycle of negative arousal intensity and arousal interpretation. British Journal of Psychology, 113(1), 131-152. https://doi.org/10.1111/bjop.12528
- Bosshard, M., & Gomez, P. (2024). Effectiveness of stress arousal reappraisal and stress-is-enhancing mindset interventions on task performance outcomes: A meta-analysis of randomized controlled trials. Scientific Reports, 14, 7923. https://doi.org/10.1038/s41598-024-58408-w


