前向きに考えようとして、かえって落ち込んだら?「嫌な気持ちを受け入れる」ほうが楽になる理由を研究で調べた

「ポジティブに考えよう」と自分に言い聞かせたのに、かえって気分が沈んだ。そんな経験はありませんか。それはあなたの努力が足りないからではありません。研究では、嫌な考えを押し込めようとすると後で戻ってきやすいこと、そして嫌な気持ちを「あってもいいもの」として受け入れる人ほど、ストレスの場面で落ち込みが小さいことが示されています。
3行でわかる
- 自尊心が低めの人が「私は愛される人間だ」と繰り返すと、かえって気分が下がったという実験があります(Wood ら 2009)。ただし、その後の2つの追試では同じ結果は再現されませんでした。
- 嫌な考えを押さえ込むと、やめた後に少し戻ってきやすくなります。多数の実験をまとめた分析では、この「リバウンド」は小さいながら確認されています。
- 嫌な気持ちを判断せずに受け入れる傾向の強い人は、ストレスの場面での落ち込みが小さく、半年後の抑うつや不安も低めでした(222人の追跡研究)。
01 悩みの正体前向きに考えようとすると、なぜ逆につらくなる?
「前向きに考えなきゃ」と思うほど、今の嫌な気持ちを「あってはいけないもの」として扱うことになり、その気持ちとの戦いが始まるからです。押し込めた考えは、後で戻ってきやすいことがわかっています。
前向きな言葉そのものが悪いわけではありません。つらくなりやすいのは、次の2つが重なったときです。
| よくある流れ | 頭の中 | 起きやすいこと |
|---|---|---|
| 言葉と本音がずれる | 「私は大丈夫」と言うたび「本当は大丈夫じゃない」が浮かぶ | 反対の証拠ばかり思い出す |
| 嫌な考えを押し込める | 「落ち込むのはやめよう」と考えを消そうとする | やめた後に、その考えが戻ってくる |
| うまくいかない自分を責める | 「前向きになれない自分はだめだ」 | 落ち込みが二重になる |
3つ目が特にやっかいです。最初の落ち込みに、「前向きになれなかった」という2つめの落ち込みが重なります。
02 科学的にわかっていること前向きな言葉や、嫌な考えを消す方法は効く?
前向きな言葉が逆効果になるという結果は、追試で再現されておらず、決着していません。一方、嫌な考えを押し込めると後で戻りやすいこと、嫌な気持ちを受け入れる人ほど落ち込みにくいことは、複数の研究で示されています。
Wood・Perunovic・Lee(2009)[1]
調査では、多くの人が前向きな言葉で自分を励まし、効果があると信じていました。実験では、自尊心が低めの人が「私は愛される人間だ」と繰り返すと、繰り返さなかった人より気分が下がりました。自尊心が高めの人は少し気分が上がりましたが、その差は限られていました。
対象: 1つの調査と2つの実験 / 限界: Flynn・Bordieri(2020)[2] の2つの追試では、どの条件でも気分や自尊心に差が出ず、「自尊心が低い人ほど逆効果」という結果は再現されませんでした。逆効果と言い切れる段階ではありません。
Wegner ら(1987)[3] / Magee ら(2012)[4]
「白いクマのことを考えないで」と頼まれた人は、考えを消しきれませんでした。その後で白いクマについて考えてよい時間になると、最初から考えてよかった人より多く思い浮かべました。のちに多数の実験をまとめた分析では、押さえ込むのをやめた後に考えが戻る「リバウンド」は、小さいながら確認されました(効果量 d = 0.15、40の研究)。
対象: Wegner らは思い浮かんだことを声に出してもらう実験、Magee らはメタ分析(多くの研究をまとめて分析する方法) / 限界: 押さえ込んでいる最中は、思い浮かぶ回数はむしろ減っていました。戻ってくる効果は大きくはありません。
Ford・Lam・John・Mauss(2018)[5]
嫌な気持ちや考えを判断せずに受け入れる傾向の強い人は、人前でのスピーチという緊張する課題で、嫌な気持ちが小さめでした(相関 r = −0.20)。14日間の日記でも、つらい出来事の日の嫌な気持ちが小さく、半年後の抑うつ(r = −0.34)や不安(r = −0.44)も低めでした。
対象: 3つの研究(それぞれ1,003人・156人・222人) / 限界: 受け入れる「傾向」を測った研究で、受け入れを練習させた実験ではない。前向きな気持ちが増えるわけではなく、減ったのは嫌な気持ちの方でした。
Shallcross・Troy・Boland・Mauss(2010)[6]
離婚をめぐる親子の会話という、つらい映像を見たとき、嫌な気持ちを受け入れる傾向の強い人は、嫌な気持ちが小さめでした。約4か月の追跡では、大きなストレスがあった人のうち、受け入れる傾向が低い人だけで抑うつ症状が高まりました。
対象: 女子大学生99人と、地域の女性55人 / 限界: 女性のみ・自己申告のみで、人数も少ない。
03 今日からできる小さな一歩前向きになれずに落ち込んだ日、何をすればいい?
「前向きにならなきゃ」をいったん手放し、今の気持ちに名前をつけて「あってもいい」と認めます。そのうえで、本音とずれない小さな一言と、5分でできる行動を1つ選びます。
「〜と感じている。それでいい」と書き足す
気持ちを消そうとせず、「不安を感じている。こういう日もある」と認めます。受け入れるとは、我慢することではなく、気持ちと戦うのをやめることです。
所要 1分
本音とずれない一言に言い換える
「私は大丈夫」がしっくりこないなら、「今はしんどい。でも、昨日より少しは片づいた」のように、本当だと思える範囲の言葉にします。Wood らの実験では、自尊心が低めの人は、言葉が「本当だ」とだけ考えるより、「本当の面もあり、そうでない面もある」と考えたほうが気分が良好でした(追試では差が出ていない点に注意)。
所要 2分
04 続けるためのコツ受け入れたのに、まだつらいときは?
受け入れは、すぐに気分を良くする方法ではありません。研究でも、減ったのは嫌な気持ちの強さで、前向きな気持ちが増えたわけではありませんでした。「消えなくてもいい」と期待を下げておくのがコツです。
- 「早く元に戻る」を目標にしない: 受け入れるのは、気持ちを早く消すための手段ではありません。消すことが目標になると、また押し込める流れに戻ります。
- 考えが止まらない夜は、時間を区切る: 同じことをぐるぐる考えるときは、反すうから抜け出す研究が参考になります。
- 自分を責める声が強い日は: 自分にやさしくするほうが立ち直りが速かったというセルフ・コンパッションの研究もあります。
- 前向きな空想との違い: 「うまくいった未来」を思い描くだけでは行動が鈍ることもあります(ポジティブな空想の研究)。
05よくある質問
ポジティブ思考は意味がないの?
意味がないわけではありません。前向きな言葉で気分が少し上がる人もいます。逆効果になるという有名な実験も、追試では再現されていません。大事なのは、本音と大きくずれた言葉を無理に繰り返さないこと、うまくいかなくても自分を責めないことです。
嫌な気持ちを受け入れると、ずっと落ち込んだままにならない?
研究では反対の傾向が見られました。受け入れる傾向の強い人ほど、ストレスの場面での嫌な気持ちが小さく、半年後の抑うつや不安も低めでした。受け入れるとは浸り続けることではなく、気持ちと戦うのをやめることです。
落ち込みが何日も続くときは?
気分の落ち込みや、眠れない・食べられないといった状態が2週間以上続くときは、自分で何とかしようとせず、医療機関や相談窓口に相談することも考えてください。
出典
- Wood, J. V., Perunovic, W. Q. E., & Lee, J. W. (2009). Positive self-statements: Power for some, peril for others. Psychological Science, 20(7), 860-866. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2009.02370.x
- Flynn, M. K., & Bordieri, M. J. (2020). On the failure to replicate past findings regarding positive affirmations and self-esteem. Journal of Contextual Behavioral Science, 16, 49-61. https://doi.org/10.1016/j.jcbs.2020.03.003
- Wegner, D. M., Schneider, D. J., Carter, S. R., & White, T. L. (1987). Paradoxical effects of thought suppression. Journal of Personality and Social Psychology, 53(1), 5-13. https://doi.org/10.1037/0022-3514.53.1.5
- Magee, J. C., Harden, K. P., & Teachman, B. A. (2012). Psychopathology and thought suppression: A quantitative review. Clinical Psychology Review, 32(3), 189-201. https://doi.org/10.1016/j.cpr.2012.01.001
- Ford, B. Q., Lam, P., John, O. P., & Mauss, I. B. (2018). The psychological health benefits of accepting negative emotions and thoughts: Laboratory, diary, and longitudinal evidence. Journal of Personality and Social Psychology, 115(6), 1075-1092. https://doi.org/10.1037/pspp0000157
- Shallcross, A. J., Troy, A. S., Boland, M., & Mauss, I. B. (2010). Let it be: Accepting negative emotional experiences predicts decreased negative affect and depressive symptoms. Behaviour Research and Therapy, 48(9), 921-929. https://doi.org/10.1016/j.brat.2010.05.025


