写真を撮ったのに、その場面をよく覚えていないのはなぜ?「撮ると忘れる」効果を研究で調べた

旅行や展示会でたくさん写真を撮ったのに、あとから思い出そうとすると、何を見たのかぼんやりしている。そんな経験はありませんか。研究では、写真を撮ると、撮ったものの細かいところを覚えにくくなる「撮ると忘れる」効果が何度も確かめられています。ただし、いつでも起きるわけではありません。撮り方しだいで、記憶はむしろ良くなることもわかってきました。
3行でわかる
- 美術館などで物を写真に撮ると、ただ見たときより、その物や細かい特徴を覚えていないことが、複数の実験で示されました(撮ると忘れる効果)。
- 同じ絵を5回撮ると、1回撮るより、さらに覚えていませんでした。3つの実験をまとめると、効果の大きさは5回撮るとd = 0.62、1回撮るとd = 0.35でした。
- 一方、撮るものを自分で選んで撮った人は、見た物をよく覚えていた研究もあります。撮るかどうかより、撮っている間にどこへ注意を向けたかが大事だと考えられています。
01 悩みの正体写真を撮ると覚えていないのはなぜ?
写真を撮ると、注意が目の前の物から、カメラを構える・ボタンを押す操作へ移りやすいからだと考えられています。「写真が覚えてくれる」と頼る気持ちが原因という説は、最近の実験では支持されていません。
何かを覚えるには、それをよく見て、意味を考える時間が必要です。写真を撮るときは、構図を決め、画面を確かめ、ボタンを押します。そのぶん、物そのものを見る注意が減ってしまいます。
もう1つの説明は、「あとで写真を見ればいい」と記憶をカメラに任せてしまう、というものです。メモやスマホに覚えることを預けることを、研究では認知的オフローディング(頭の外に覚えることを預けること)と呼びます [6]。
| 説明 | 中身 | 最近の実験では |
|---|---|---|
| 注意がそれる説 | 撮る操作に気をとられ、物を見る注意が減る | 支持された [4] |
| カメラに任せる説 | 写真が残るので、覚えようとしない | 写真を消しても忘れ方は同じで、主な原因ではないとされた [2][4] |
02 科学的にわかっていること写真を撮ると本当に記憶は悪くなる?
撮った物の細かいところを覚えにくくなる結果は、複数の実験で示されています。ただし、自分で選んで撮ると見た物の記憶が良くなった研究や、再現できなかった報告もあり、撮り方と状況しだいです。
Henkel(2014)[1]
美術館を案内つきで回り、ある作品は写真に撮り、別の作品はただ見るように指示しました。作品全体を撮った場合、ただ見た作品より、覚えている作品の数も、細かい特徴や置かれていた場所の記憶も少なくなりました。ところが、作品の一部をズームして撮った場合は、記憶は悪くならず、ズームしなかった部分も同じくらい覚えていました。
対象: 美術館の見学に参加した大学生(2つの実験) / 限界: 1つの美術館での実験で、撮るものは自分で選ばず、指示されていた。
SoaresとStorm(2022)[2]
絵の画像を見て、スマホで「撮らない」「1回撮る」「5回撮る」のどれかをしてもらい、そのあと絵の細かいところを問うテストをしました。3つの実験(60人、96人、243人)すべてで、5回撮った絵は、ただ見た絵より覚えていませんでした。「違う写真を5枚撮って」と指示しても同じでした。3つをまとめると、効果の大きさは5回撮るとd = 0.62、1回撮るとd = 0.35でした。参加者には、テストのときに写真は見られないと伝えてありました。
対象: アメリカの2つの大学の学生、合計399人 / 限界: 画面に映した絵を撮る実験室の課題で、実際の旅行や行事とは違う。
Baraschら(2017)[3]
1つの実地調査と3つの実験室の実験で、体験の間に自由に写真を撮れた人と、撮れなかった人を比べました。写真を見返さなくても、撮れた人は「見たもの」をよく覚えていて、「聞いたもの」はあまり覚えていませんでした。頭の中で写真を撮るつもりで見るだけでも、似た結果になりました。著者らは、写真を撮ると注意が目で見る側へ移ると考えています。
対象: 1つの実地調査と3つの実験室の実験の参加者 / 限界: 撮る物を自分で選べる条件で、Henkelの実験とは手順が違う。
Yuら(2026)[4]
4つの実験で、写真を撮る本人だけでなく、そばにいる人の記憶も調べました。隣の人が写真を撮っていると、自分は撮っていなくても、撮ったときと同じくらい記憶が悪くなりました。撮った写真をすぐ消すように指示しても、忘れ方は変わりませんでした。一方、撮っている様子が見えないように仕切りを置くと、そばの人の記憶は悪くなりませんでした。著者らは、写真が残るかどうかより、注意がそれることが原因だと結論づけています。
対象: 実験室の課題と、模擬の美術展を使った4つの実験 / 限界: 1つの研究グループの結果で、ほかの研究室での確認はこれから。
Croesら(2024、査読前)[7]
大学生101人に、15枚の絵を「見るだけ」「簡単に撮る」「いちばん良い写真を撮る」の3つの方法で見てもらい、細かいところの記憶を比べました。3つの条件で覚えていた量はほぼ同じで、撮ると忘れる効果は見られませんでした。著者らは、これまでの研究をまとめると、効果の出方は研究によってばらつきが大きいと書いています。
対象: 大学生101人 / 限界: 査読を受ける前の論文で、結論は今後変わる可能性がある。
03 今日からできる小さな一歩写真を撮っても覚えておくには?
撮る前に、まず自分の目で見る時間をとります。撮るなら枚数をしぼり、気になった部分にズームするなど、物そのものに注意を向けながら撮ると、記憶は悪くなりにくいと考えられます。
撮る前に10秒、自分の目で見る
注意が撮る操作に移ることが、忘れる原因と考えられています [4]。カメラを構える前に、色や形、気になった所を10秒ほど見ます。
所要 1枚につき10秒
同じものを何枚も撮らない
5回撮った絵は、1回撮った絵よりさらに覚えていませんでした [2]。「これを残したい」と決めた1枚だけにします。
所要 撮るときに数秒
気になった部分にズームして撮る
作品の一部にズームして撮った場合は、記憶が悪くなりませんでした [1]。どこが面白いのかを考えながら、その部分を撮ります。
所要 1枚につき数十秒
04 続けるためのコツ写真に頼りすぎずに思い出を残すコツは?
写真は記憶の代わりではなく、思い出すきっかけとして使います。撮ったあとに見返したり、人に話したりして、自分で思い出す時間をつくると記憶に残りやすくなります。
- 撮るのは「選んだもの」だけにする: 自分で選んで撮った人は、見た物をよく覚えていました [3]。何となく全部を撮るのとは違います。
- 聞いた話は別に意識する: 写真を撮った人は、聞いたことを覚えにくくなりました [3]。案内の説明など、聞いて覚えたいことは、撮る手を止めて聞きます。
- あとで思い出してみる: 写真を見る前に「何があったか」を自分で思い出すと、記憶の練習になります。やり方は自分にテストする「テスト効果」の記事にまとめています。
- メモを残すと、次のことを覚えやすくなる場合もある: 1つのことをパソコンに保存してから次のことを覚えると、次のことをよく覚えられた実験もあります [5]。読んだ内容が残らないときの仕組みは「わかったつもり」の記事で書いています。
05よくある質問
写真を撮ると記憶が悪くなるのは、写真が残っているから?
最近の実験では、そうではないと考えられています。撮った写真をすぐ消すように指示しても、忘れ方は変わりませんでした。そばで人が撮っているだけでも記憶が悪くなり、撮る様子が見えないようにすると悪くなりませんでした。原因は注意がそれることだと考えられています。
写真を撮ると、いつでも記憶は悪くなる?
いつでもではありません。作品の一部にズームして撮った場合は記憶が悪くなりませんでした。自分で選んで自由に撮った人は、見た物をむしろよく覚えていた研究もあります。一方で、効果が見られなかった実験もあり、撮り方や状況で結果は変わります。
スマホのメモに残すと、覚える力が落ちる?
保存したことを覚えにくくなる一方で、頭が空いて次のことを覚えやすくなる場合があります。1つのファイルを保存してから次のファイルを覚えると、次のファイルの中身をよく覚えられた実験があります。保存がうまくいかないと思うときは、この効果は見られませんでした。
出典
- Henkel, L. A. (2014). Point-and-shoot memories: The influence of taking photos on memory for a museum tour. Psychological Science, 25(2), 396-402. https://doi.org/10.1177/0956797613504438
- Soares, J. S., & Storm, B. C. (2022). Does taking multiple photos lead to a photo-taking-impairment effect? Psychonomic Bulletin & Review, 29(6), 2211-2218. https://doi.org/10.3758/s13423-022-02149-2
- Barasch, A., Diehl, K., Silverman, J., & Zauberman, G. (2017). Photographic memory: The effects of volitional photo taking on memory for visual and auditory aspects of an experience. Psychological Science, 28(8), 1056-1066. https://doi.org/10.1177/0956797617694868
- Yu, Y., Li, B., Shanks, D. R., Liu, S., Gui, Y., Hu, X., Luo, L., & Yang, C. (2026). Capturing moments, losing memories: A social photo-taking impairment effect. American Psychologist. https://doi.org/10.1037/amp0001767
- Storm, B. C., & Stone, S. M. (2015). Saving-enhanced memory: The benefits of saving on the learning and remembering of new information. Psychological Science, 26(2), 182-188. https://doi.org/10.1177/0956797614559285
- Risko, E. F., & Gilbert, S. J. (2016). Cognitive offloading. Trends in Cognitive Sciences, 20(9), 676-688. https://doi.org/10.1016/j.tics.2016.07.002
- Croes, M., Kreuwels, B., & Verheyen, S. (2024). Too distracted to remember: Does attentional disengagement underlie the photo-taking impairment effect? PsyArXiv(査読前の論文). https://doi.org/10.31234/osf.io/e2myj


