脳トレゲームで記憶力は上がる? 1万人の実験とメタ分析でわかった「上達するのはそのゲームだけ」

最近、人の名前や用事をよく忘れる。脳トレゲームで記憶力を鍛えられたら、と思う人は多いはずです。研究での判定は「練習したゲームは上達するが、記憶力全般が上がる根拠は弱い」。1万人規模の実験と複数のまとめから、その理由と、代わりに効く方法を整理します。
3行でわかる
- 判定は「当てにならない」寄り。1万1,430人が6週間続けた実験では、練習したゲームは大きく上達しましたが、練習していない記憶や推理のテストはほとんど伸びませんでした。
- 87本の論文をまとめたメタ分析でも、似たテストの成績は上がる一方、知能や読解・計算など離れた力が上がるという確かな証拠はありませんでした。
- 高齢者では小さな効果(g=0.22)が出たまとめもありますが、家で1人で行う形では効果が見られませんでした。覚えたいことは、それ自体を思い出す練習をするほうが確実です。
01 悩みの正体脳トレで記憶力が上がる、とはどういう意味?
脳トレの効果を見るときの本当の問いは「ゲームが上手くなるか」ではありません。練習していない別の作業や、日常の物忘れまで良くなるか(研究者は「転移」と呼びます)です。
同じゲームを何度も遊べば、点数は上がります。ルールに慣れ、コツをつかむからです。
知りたいのは、その上達がゲームの外にも広がるかです。たとえば、神経衰弱のような記憶ゲームを練習したら、人の名前や買い物リストも覚えやすくなるのか。研究はここを確かめてきました[2]。
02 科学的にわかっていること脳トレゲームを続けると、ほかの記憶力も伸びる?
ほとんど伸びない、というのが研究の中心的な結論です。練習したゲームは大きく上達しますが、似ていない作業や日常の記憶への広がりは、複数のまとめで確認できませんでした。
Owenら(2010)[1]
イギリスの科学番組の視聴者が参加した、6週間のオンライン実験です。1日10分以上、週3回、推理や記憶、注意のゲームを練習しました。練習したゲームはどれも大きく上達しました(効果量0.72〜1.63)。しかし、練習していない4つのテストの伸びは、ゲームの代わりに雑学クイズをネットで調べて答えた比較の群とほぼ同じでした(群の差の効果量0.01〜0.22)。
対象: 18〜60歳の1万1,430人(登録は5万2,617人) / 限界: 6週間の短い期間で、参加者の多くが途中でやめていた。
練習した回数と、練習していないテストの伸びの関係(相関は最大でも0.059)。たくさんやるほど伸びる、という形にはなりませんでした[1]。
この実験では、カードの場所を覚えるゲームを練習した群が、よく似た「物の場所を覚えるテスト」で、むしろ少し点を落としていました[1]。ゲームの上達は、そのゲームの中にとどまっていたのです。
Melby-Lervågら(2016)[3]
作業記憶(頭の中に一時的に情報を置いておく力)を鍛える訓練の研究、87本の論文・145の比較をまとめたメタ分析です。訓練の直後は、似た作業記憶のテストの成績が上がりました。ところが、知能や読解、計算といった離れた力は、別の作業をした比較の群と比べて、確かな伸びが見られませんでした。
対象: 87本の論文 / 限界: 訓練の内容や期間は研究ごとに違う。著者らは「効果は短期的で、訓練した作業に限られる」と結論。
Simonsら(2016)[2]
脳トレ会社が根拠として挙げていた査読論文を、すべて点検した総説です。練習した作業が上達する証拠は豊富でした。一方で、似た作業への広がりは少なく、離れた作業や日常の認知機能が良くなる証拠はわずかでした。多くの研究に設計の問題があり、著者らが必要とした条件をすべて満たす研究は1本もありませんでした。
対象: 脳トレ会社が挙げた研究 / 限界: 2014年には「効く」とする133人の研究者らの公開書簡もあり、研究者の間でも意見が分かれてきた。
Lampitら(2014)[4]
健康な高齢者を対象に、コンピューターでの認知トレーニングを試した52のランダム化比較試験(4,885人)のまとめです。全体では小さな効果がありました(g=0.22)。ただし、言葉の記憶への効果はごく小さく(g=0.08)、計画を立てる力と注意には効果がありませんでした。家で1人で行う形は効果がなく、週4回以上は週3回以下より効果が出ていませんでした。
対象: 認知症などのない高齢者 / 限界: 効果がどれだけ続くかは調べていない。
Rebokら(2014)[5]
アメリカの高齢者2,832人(平均73.6歳)を、記憶・推理・処理の速さの訓練(10回と追加の訓練)と、何もしない群に分けて10年追った研究です。推理と速さの訓練は、10年後も鍛えた力そのものに効果が残っていました。一方、記憶の訓練は、10年後には記憶の成績への効果が残っていませんでした。日常生活の困りごとは、どの訓練群も自己申告で少なめでした。
対象: 自立して暮らす高齢者 / 限界: 市販のゲームではなく、指導者がつく対面の訓練。日常生活は本人の自己申告。
| 研究 | 練習した作業 | ほかの作業・日常 |
|---|---|---|
| Owenら(2010)1万1,430人 | 大きく上達 | 比較の群と差がほぼ無し |
| Melby-Lervågら(2016)87論文 | 似たテストは上がる | 知能・読解・計算は確かな伸び無し |
| Simonsら(2016)総説 | 証拠は豊富 | 証拠はわずか |
| Lampitら(2014)高齢者52試験 | — | 全体で小さな効果。家で1人では効果無し |
| Rebokら(2014)10年追跡 | 推理・速さは10年残る | 記憶の訓練効果は残らず |
この表は、上の研究をこのサイトで並べたものです。「上達するのは練習したものだけ」という点で、研究の結果はおおむねそろっています。
03 今日からできる小さな一歩記憶力を上げたいなら、代わりに何をすればいい?
覚えたいことがあるなら、それ自体を練習するのが一番の近道です。上達はその作業にとどまりやすいので、ゲームで遠回りせず、覚えたい内容を直接思い出す練習をします。
脳トレは「楽しみ」として遊ぶ
好きなら続けてかまいません。ただ、記憶力全般のために時間を増やすのはやめておきます。回数を増やしても、ほかのテストの伸びは増えませんでした[1]。
所要 自由
04 続けるためのコツゲームのスコアが上がったら、頭が良くなった証拠?
スコアの上昇は、そのゲームが上手くなった証拠です。記憶力全般が上がった証拠にはなりません。効果を確かめたいなら、覚えたい内容そのもので試すのが確実です。
- 伸びを測るのは、ゲームの外で: 「先週より単語を何個思い出せたか」など、実際に困っている場面で確かめます。
- 高齢の家族と取り組むなら、1人きりにしない: 高齢者のまとめでは、家で1人で行う形は効果がなく、グループで行う形のほうが効果が出ていました[4]。
- やりすぎない: 高齢者のまとめでは、週4回以上より週3回以下のほうが効果が出ていました[4]。
- 覚えにくさの理由も知っておく: 一度に覚えられる量には限りがあります。仕組みは短期記憶の研究にまとめています。
05よくある質問
脳トレアプリは、やっても無駄?
無駄とまでは言えません。練習したゲームそのものは確実に上達しますし、楽しみとして続けるのは自由です。ただ、記憶力全般や日常の物忘れが良くなるという根拠は弱いと、2016年の総説は結論しています。
毎日たくさんやれば効果が出る?
回数を増やしても、ほかのテストの伸びは増えませんでした。1万1,430人の実験では、練習回数と、練習していないテストの伸びの関係はほぼゼロでした。高齢者の研究のまとめでは、週4回以上より週3回以下のほうが効果が出ていました。
年をとってからの物忘れ予防にはなる?
高齢者の研究のまとめでは、小さな効果(g=0.22)が出ました。ただし家で1人で行う形では効果が見られず、記憶の種類によって差もありました。長く続くかも分かっていません。物忘れが気になる場合は、医療機関に相談してください。
出典
- Owen, A. M., Hampshire, A., Grahn, J. A., Stenton, R., Dajani, S., Burns, A. S., Howard, R. J., & Ballard, C. G. (2010). Putting brain training to the test. Nature, 465(7299), 775-778. https://doi.org/10.1038/nature09042
- Simons, D. J., Boot, W. R., Charness, N., Gathercole, S. E., Chabris, C. F., Hambrick, D. Z., & Stine-Morrow, E. A. L. (2016). Do "brain-training" programs work? Psychological Science in the Public Interest, 17(3), 103-186. https://doi.org/10.1177/1529100616661983
- Melby-Lervåg, M., Redick, T. S., & Hulme, C. (2016). Working memory training does not improve performance on measures of intelligence or other measures of "far transfer": evidence from a meta-analytic review. Perspectives on Psychological Science, 11(4), 512-534. https://doi.org/10.1177/1745691616635612
- Lampit, A., Hallock, H., & Valenzuela, M. (2014). Computerized cognitive training in cognitively healthy older adults: a systematic review and meta-analysis of effect modifiers. PLoS Medicine, 11(11), e1001756. https://doi.org/10.1371/journal.pmed.1001756
- Rebok, G. W., Ball, K., Guey, L. T., Jones, R. N., Kim, H. Y., King, J. W., et al. (2014). Ten-year effects of the Advanced Cognitive Training for Independent and Vital Elderly cognitive training trial on cognition and everyday functioning in older adults. Journal of the American Geriatrics Society, 62(1), 16-24. https://doi.org/10.1111/jgs.12607


