記憶・学習

部屋に入ったとたん、何をしに来たか忘れるのはなぜ?「ドアをくぐると忘れる」研究を調べた

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住宅の玄関ドア
Photo: NPS Photo / Public domain / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究をAIが調べて整理しました(独自の実験ではありません。出典は末尾)。

ハサミを取りに台所へ来たのに、着いたとたん「あれ、何しに来たんだっけ」。誰にでもある、この小さな物忘れには研究があります。部屋を移ると記憶が取り出しにくくなる現象は「ドアの効果」と呼ばれ、脳が場面の変わり目で記憶を区切り直すためだと考えられています。ただし、同じ結果が出なかった実験もあり、いつも起きるわけではないこともわかってきました。

3行でわかる

  1. 仮想の部屋や実際の部屋を移動する実験では、ドアを通った後のほうが、直前に持っていた物を思い出しにくくなりました。
  2. 脳は場所の変わり目で「新しい場面」を始め、前の場面の記憶を取り出しにくくすると考えられています。
  3. 一方、4つの実験で同じ結果が出なかった研究もあります。忘れやすくなるのは、ほかのことで頭がいっぱいのときに限られる可能性があります。

01 悩みの正体部屋に入ると用事を忘れるのは、物忘れが悪化したから?

物忘れの悪化とは限りません。部屋を移ったときに用事を忘れるのは、若い人にも高齢の人にも同じように起きることが実験で示されています。脳の記憶の区切り方による、ありふれた現象です。

私たちの経験は、切れ目なく続いているように感じます。でも脳は、それを「台所で料理をしている場面」「居間でテレビを見ている場面」のように、いくつもの場面に区切って記憶しています。

場面の区切りは、場所が変わる、目的が変わる、時間がたつといった変化で生まれます。ドアをくぐって部屋を移ることは、そのわかりやすい例です。

新しい場面に入ると、脳はその場面の情報を優先します。すると、さっきまでいた場面で決めた「ハサミを取りに行く」という用事が、取り出しにくくなってしまうのです。

02 科学的にわかっていることドアをくぐると、なぜ記憶が取り出しにくくなる?

脳は場面の変わり目で記憶を区切り直し、新しい場面を優先するためだと考えられています。ただし、この効果を再現できなかった実験もあり、頭がいっぱいのときに限って起きる可能性があります。

研究やり方結果
Radvanskyら [1][2]仮想の部屋・実際の部屋で物を運ぶドアを通った後に記憶が落ちた
Lawrenceら [3]部屋を歩く場面を想像する想像でもドアを通ると忘れやすくなった
Radvanskyら [4]若い人と高齢の人を比べるどちらも同じくらい記憶が落ちた
McFadyenら [5]VR・動画・実際の廊下の4つの実験ほとんどの条件で、ドアによる物忘れは見られなかった

Radvansky・Copeland(2006)、Radvanskyら(2011)[1][2]

画面の中の部屋を歩き、テーブルからテーブルへ物を運ぶ実験です。運んでいる途中で「持っている物は何か」を尋ねると、ドアを通って別の部屋に入った後のほうが、同じ部屋の中で移動した後より答えにくくなりました。2011年の研究では、画面を小さくしても、実際の部屋で行っても同じ結果でした。元の部屋に戻ってから尋ねても、記憶はよくなりませんでした。

対象: 仮想空間と実際の部屋で行った複数の実験の参加者 / 限界: 色と形の組み合わせを覚えるなど単純な課題で、日常の用事をそのまま調べたものではない。

Lawrence・Peterson(2016)[3]

実際の建物や仮想の部屋を下見した後、その場所を歩く場面を想像してもらいました。想像の中でドアを通ったときのほうが、覚えた絵をより多く忘れていました。体を動かさなくても、頭の中の「場面の区切り」だけで起きる可能性を示した2つの実験です。

対象: 2つの実験の参加者 / 限界: 想像の中の移動を調べた実験で、実際の生活での影響の大きさはわからない。

McFadyenら(2021)[5]

ドアの効果を、4つの方法で確かめ直した研究です。没入感の高いVR(29人)、VRで数を数えながら行う条件(45人)、廊下を歩く動画を見る条件(26人)、実際に廊下を歩く条件(26人)を調べました。ドアを通っても、ほとんどの条件で物忘れは増えませんでした。数を数えながらの条件だけ、記憶の取り違えが増えました。著者らは、ドアの効果はいつでも起きるわけではなく、頭に負担がかかっているときに出やすい可能性があると結論づけています。

対象: オーストラリアの18〜45歳の126人 / 限界: 著者らによると、それまでの研究の効果の大きさはd=0.66と中程度だった。どの条件の違いが結果を分けたのかは、まだはっきりしない。

背景にあるのが「場面の区切り」の理論です。脳は、次に何が起きるかを常に予測しています。予測が大きく外れたところで「ここから新しい場面」と区切りを入れ、注意と記憶を切り替えると考えられています [6]。言葉のリストを覚える実験では、ドアがなくても時間の区切りを入れるだけで、記憶のまとまり方が変わりました [7]。大事なのはドアそのものより、心の中の区切りのようです。

03 今日からできる小さな一歩部屋を移っても用事を忘れないコツは?

研究から考えられるのは、移動中に頭の負担を増やさないこと、用事を形のある手がかりにすることです。どちらもドアの効果を直接防ぐと確かめた実験ではありませんが、すぐ試せます。

1

移動中は「ながら」をやめる

忘れやすさが出たのは、別の作業で頭がいっぱいの条件でした。スマホを見ながら、考えごとをしながらの移動を減らします。ながら作業の負担は「ながら作業」の研究でも詳しく書いています。

所要 0分

2

用事を一言にして口に出す

「ハサミ」と一言だけ声に出してから部屋を出ます。声に出すと覚えやすくなる研究があります(声に出して覚える研究)。

所要 2秒

3

用事に関係する物を手に持つ

切りたい紙を持って台所へ行けば、紙が用事を思い出させてくれます。頭の中だけに置かず、目に見える手がかりにします。

所要 5秒

04 続けるためのコツ「何しに来たっけ」となったら、どうする?

あせらず、直前に何をしていたかを順にたどるのが現実的です。元の部屋に戻っても思い出せるとは限らないため、大事な用事は書いておくのがいちばん確実です。

05よくある質問

年をとったから、部屋に入ると用事を忘れるようになった?

年齢だけのせいとは言えません。仮想の部屋を移動する実験では、若い人も高齢の人も、ドアを通った後に記憶が落ち、その落ち方の大きさは同じくらいでした。誰にでも起きる、ありふれた物忘れと考えられます。

元の部屋に戻ると思い出せるって本当?

よく言われますが、研究でははっきりしません。元の部屋に戻ってから記憶を調べた実験では、戻っても記憶はよくなりませんでした。確実に思い出したい用事は、メモに残すほうが安心です。

ドアではなく、画面を切り替えたときにも忘れる?

ドアそのものより、「場面の区切り」が大事だと考えられています。言葉のリストを覚える実験では、ドアがなくても時間の区切りを入れるだけで、記憶のまとまり方が変わりました。物忘れがひどく、生活に困るほど増えたと感じるときは、医師に相談してください。

出典

  1. Radvansky, G. A., & Copeland, D. E. (2006). Walking through doorways causes forgetting: Situation models and experienced space. Memory & Cognition, 34(5), 1150-1156. https://doi.org/10.3758/bf03193261
  2. Radvansky, G. A., Krawietz, S. A., & Tamplin, A. K. (2011). Walking through doorways causes forgetting: Further explorations. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 64(8), 1632-1645. https://doi.org/10.1080/17470218.2011.571267
  3. Lawrence, Z., & Peterson, D. (2016). Mentally walking through doorways causes forgetting: The location updating effect and imagination. Memory, 24(1), 12-20. https://doi.org/10.1080/09658211.2014.980429
  4. Radvansky, G. A., Pettijohn, K. A., & Kim, J. (2015). Walking through doorways causes forgetting: Younger and older adults. Psychology and Aging, 30(2), 259-265. https://doi.org/10.1037/a0039259
  5. McFadyen, J., Nolan, C., Pinocy, E., Buteri, D., & Baumann, O. (2021). Doorways do not always cause forgetting: A multimodal investigation. BMC Psychology, 9, 41. https://doi.org/10.1186/s40359-021-00536-3
  6. Zacks, J. M., Speer, N. K., Swallow, K. M., Braver, T. S., & Reynolds, J. R. (2007). Event perception: A mind-brain perspective. Psychological Bulletin, 133(2), 273-293. https://doi.org/10.1037/0033-2909.133.2.273
  7. Logie, M. R., & Donaldson, D. I. (2021). Do doorways really matter: Investigating memory benefits of event segmentation in a virtual learning environment. Cognition, 209, 104578. https://doi.org/10.1016/j.cognition.2020.104578