「最高の未来の自分」を書くと気分は上がる? 研究で使われた15分のやり方と効果の大きさ

気分が沈んで、先のことを考えると憂うつになる。そんなときに試しやすい方法として、心理学でよく研究されているのが「最高の未来の自分」を書くワークです。29件・2,909人の研究をまとめた分析では、このワークで前向きな気分は中くらい(d=0.51)、楽観性は小さめ(d=0.33)に高まりました。一方で、落ち込みやいやな気分を減らす効果ははっきりしませんでした。研究で使われたやり方と、期待できること・できないことを整理します。
3行でわかる
- 「何もかもうまくいった数年後の自分」を15〜20分書き、5分ほど思い浮かべるのが、研究でよく使われた手順。
- 29件の研究のまとめでは、前向きな気分(d=0.51)、楽観性(d=0.33)、幸福感(d=0.33)が高まった。感謝を書くワークより気分への効果が大きかった。
- いやな気分やうつ症状を減らす効果は、はっきりしなかった。教室で行った研究では、1〜2か月後の幸福感に差が出なかった。
01 悩みの正体「最高の未来の自分」を書くワークとは?
「最高の未来の自分」を書くワークは、努力を重ねて何もかもうまくいった将来の自分を想像し、文章に書く方法です。英語では「ベスト・ポッシブル・セルフ(BPS)」と呼ばれ、2001年から研究が続いています。
気分が落ちているとき、頭に浮かぶ未来は暗くなりがちです。このワークは、あえて「うまくいった未来」を具体的に書き出し、先への見通しを明るくしようとするものです。
ポイントは、ただの願望ではなく「一生懸命取り組んだ結果」として想像することです。29件の研究をまとめたCarrilloら(2019)は、このワークを「努力の末に到達した、最高の未来の自分を前向きに思い描く方法」と説明しています[1]。
研究によって細かい手順は違いますが、多くは次のどちらかの形でした[1]。
- 1回型: 20分ほどで1回だけ行う。書いたあと5分ほど思い浮かべる手順を加えた研究が多い。
- くり返し型: 1日5分ほどの想像を2週間続ける、週1回を数週間続ける、など。
02 科学的にわかっていること未来の自分を書くと、本当に気分は上がる?
前向きな気分と楽観性は、複数の研究で高まりました。ただし、いやな気分やうつ症状が減るかどうかははっきりせず、実験室の外での長期の効果も確認できていません。
Carrilloら(2019・メタ分析)[1]
29件の研究(26本の論文、2,909人)をまとめた分析です。中立的な文章を書く組などと比べて、このワークで前向きな気分(d=0.51)、楽観性(d=0.33)、幸福感(d=0.33)が高まりました。いやな気分(d=0.19)とうつ症状(d=0.12、3件のみ)は、はっきりした差になりませんでした。感謝を書くワークと比べると、前向きな気分(d=0.33)といやな気分(d=0.49)で、このワークのほうが効果が大きくなりました。
対象: 大学生が中心(18〜35歳ほど) / 限界: 3か月を超えて追跡した研究は3件だけで、長く続くかはわかっていません。練習の合計時間が短いほど効果が大きい傾向もありましたが、はっきりした差ではありませんでした。
d=0.51
「最高の未来の自分」を書くワークで、前向きな気分が高まった効果の大きさ(13件の研究のまとめ)[1]
Meevissenら(2011)[2]
オランダの大学生に、「仕事」「人間関係」「自分自身」の3つの面で最高の未来の自分を思い描いてもらい、1日5分を2週間続けてもらいました。ふだんの1日を思い浮かべる組と比べて、楽観性が1回目の直後から高まり、2週間の間も上回りました。気分が良くなった分を差し引いても、楽観性の差は残りました。
対象: 大学生51人(分析した人数) / 限界: 結果はすべて本人の回答で測っています。
Rennerら(2014)[3]
悲しい気分を誘う手順で、いったん気分を落とした大学生40人に、最高の未来の自分について15分書き、5分思い浮かべてもらいました。ふだんの1日について書いた組より、前向きな気分が高くなりました。一方で、「自分はだめだ」といった考え方の偏りは、このワークの組では変わりませんでした(ふだんの1日の組では下がりました)。
対象: 大学生40人 / 限界: 1回だけの小さな実験です。気分の落ち込みが強い人では確かめられていません。
Barthaら(2025)[4]
11〜15歳の200人を、オンラインで3つの組にランダムに分けました。理想の未来について10分書いた組は、前日の出来事を書いた組や、図形の問題を解いた組と比べて、直後の前向きな気分が高まりました。いやな気分は、ほかの組と比べて減りませんでした。
対象: 中学生にあたる年齢の200人(平均14歳) / 限界: ワークの直前と直後だけを比べた結果です。
Duanら(2021)[5]
アメリカの大学の授業の中で、このワークを3回の課題として組み込み、1か月後と2か月後まで追いました。ワークをした組の幸福感は、しなかった組と比べて高まりませんでした。1か月後には、しなかった組のほうがむしろ良い結果でした。
対象: 大学生(分析は90人。くじ引きでなく、授業の枠で組を分けた) / 限界: 2020年春の、新型コロナで授業がオンラインに移った時期に行われ、その影響を受けた可能性があると著者は述べています。
わかっていることを、効果の種類ごとに並べると次のとおりです。
| 見たもの | 結果 | 読み方 |
|---|---|---|
| 前向きな気分 | d=0.51(13件) | 中くらい。直後の効果が中心[1] |
| 楽観性 | d=0.33(13件) | 小さめだが、研究間でそろっている[1] |
| 幸福感 | d=0.33(29件) | 小さめ[1] |
| いやな気分 | d=0.19(13件) | はっきりした差なし[1] |
| うつ症状 | d=0.12(3件) | はっきりした差なし。研究も少ない[1] |
| 授業での1〜2か月後 | 差なし | 実験室の外では効果が出なかった例[5] |
03 今日からできる小さな一歩「最高の未来の自分」はどう書けばいい?
研究で多かったのは、うまくいった数年後の自分を15〜20分書き、そのあと5分思い浮かべる手順です。毎日続けるなら、1日5分の想像を2週間でも効果が見られました。
「努力が実った数年後」を設定する
「一生懸命取り組んで、何もかもうまくいった将来」を想像します。魔法のような幸運ではなく、自分が頑張った結果として思い描くのが、このワークの決まりです[1]。
所要 1分
「仕事」「人間関係」「自分自身」の3つの面で書く
どこに住み、誰とどう過ごし、どんな気持ちでいるかを具体的に書きます。Meevissenらは、この3つの面に分けて思い描いてもらいました[2]。うまく書こうとせず、思いつくまま続けます。
所要 15〜20分
書いた内容を目を閉じて思い浮かべる
書き終えたら、その場面を映像のように5分ほど思い浮かべます。書く作業のあとに5分の想像を加えた研究が多くありました[1][3]。
所要 5分
続けるなら、1日5分の想像だけでよい
2回目からは書かずに、同じ未来を1日5分思い浮かべるだけでもかまいません。Meevissenらの研究は、この形で2週間続けました[2]。
所要 1日5分 × 2週間
04 続けるためのコツ書いても気分が変わらないときは、どうする?
このワークは前向きな気分を足す方法で、いやな気分を消す力ははっきりしません。つらさが強いときは、気持ちの書き出しや小さな行動など、別の方法と組み合わせるのが現実的です。
- 落ち込みやいやな気分そのものを減らす効果は、まとめた分析でもはっきりしなかった[1]。効かないと感じても、やり方が悪いとは限らない。
- つらい出来事が頭を離れないときは、気持ちを書き出す方法も研究されている(つらい気持ちを書き出す研究)。
- 気分が落ちて動けないときは、気分より先に小さな活動を予定に入れる方法がある(行動活性化のやり方)。
- 未来を「もう叶ったこと」として空想しすぎると、やる気が下がるという研究もある(ポジティブな空想の研究)。書いたあと、そこへ近づく小さな行動を1つ決めておくとよい。
- 過去の良いことに目を向けたい人は、感謝日記の研究も参考になる。
05よくある質問
未来の自分を書くワークは、1回だけでも意味がありますか?
研究の多くは20分ほどの1回だけのワークで、直後の前向きな気分や楽観性の高まりを確かめています。まとめた分析では、練習の合計時間が短いほうが効果が大きい傾向もありました。ただし、その効果がどれくらい続くかは、まだよくわかっていません。
ポジティブな空想は逆効果という話と、矛盾しませんか?
別の研究では、望む未来を「もう叶ったこと」のように空想すると、努力やエネルギーが下がることが示されています。このワークは「努力した結果としての未来」を書く点が違いますが、行動への影響はあまり調べられていません。書いたあとに、今日できる一歩を決めておくと安心です。
気分がとても落ち込んでいるときにも効きますか?
研究の多くは、ふだん元気な大学生が対象でした。うつ症状を減らす効果は、3件の研究ではっきりしませんでした。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、食べられないといったときは、医師や専門家に相談してください。
出典
- Carrillo, A., Rubio-Aparicio, M., Molinari, G., Enrique, Á., Sánchez-Meca, J., & Baños, R. M. (2019). Effects of the Best Possible Self intervention: A systematic review and meta-analysis. PLOS ONE, 14(9), e0222386. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0222386
- Meevissen, Y. M., Peters, M. L., & Alberts, H. J. (2011). Become more optimistic by imagining a best possible self: Effects of a two week intervention. Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry, 42(3), 371-378. https://doi.org/10.1016/j.jbtep.2011.02.012
- Renner, F., Schwarz, P., Peters, M. L., & Huibers, M. J. (2014). Effects of a best-possible-self mental imagery exercise on mood and dysfunctional attitudes. Psychiatry Research, 215(1), 105-110. https://doi.org/10.1016/j.psychres.2013.10.033
- Bartha, S., Schmidt, S., & Tomczyk, S. (2025). Impact of the best possible self intervention on affective well-being in early adolescence: A randomized controlled online trial. Internet Interventions, 40, 100827. https://doi.org/10.1016/j.invent.2025.100827
- Duan, S., Exter, M., Newby, T., & Fa, B. (2021). No impact? Long-term effects of applying the Best Possible Self intervention in a real-world undergraduate classroom setting. International Journal of Community Well-Being, 4, 581-601. https://doi.org/10.1007/s42413-021-00120-y


