「疲れた日は意志力が残っていないから、先延ばしは仕方ない」は本当? 意志力の研究で調べた

仕事や授業でへとへとの日、「もう意志力が残っていないから、今日は無理」とやるべきことを明日に回す。よくあることです。ところが研究では、「意志力は使うと減る」という説は大規模な追試でほとんど再現されませんでした。むしろ、意志力は限られていると信じている学生ほど、忙しい時期に先延ばしが多いという結果が出ています。
3行でわかる
- 判定は「当てにならない」寄り。「意志力は使うと減る」効果は、23の研究室(2,141人)と36の研究室(3,531人)の追試で、ほぼゼロでした。
- 試験前の大学生を追った調査では、意志力を限られたものと考える学生ほど、忙しいときに先延ばしが多くなっていました。
- 疲れの感覚そのものは本物です。作業をまるごと明日に回すより、短く休んでから小さく再開するほうが研究に沿っています。
01 悩みの正体「意志力は使うと減る」とはどんな説?
意志力(がまんや集中に使う力)は、ガソリンのように使うと減り、減ると次のがまんが効かなくなる、という説です。心理学では「自我消耗」と呼ばれ、長く定説のように紹介されてきました。
この説に従えば、仕事や勉強でがまんを重ねた日の夕方は、意志力が空っぽです。だから嫌な作業に手がつかないのは当然で、明日に回すのが合理的、ということになります。
ただ、先延ばしの研究では、手がつかない理由は「力の残量」より、嫌な気分から逃げたい気持ちのほうが大きいとされています。では、意志力の説そのものは確かめられているのでしょうか。
02 科学的にわかっていること意志力は本当に使うと減る?
大規模な追試では、はっきりとは確かめられませんでした。一方で、「意志力は限られている」と信じる人ほど、忙しい時期に先延ばしが多いという調査があります。
Haggerら(2016)[1]
23の研究室が、同じ手順で「がまんの課題をすると、次の課題で粘れなくなるか」を確かめました。合わせて2,141人の結果をまとめると、効果の大きさは d = 0.04 で、ゼロとの区別がつきませんでした。
対象: 23の研究室の参加者2,141人 / 限界: 1種類の実験手順だけを試した追試です。
Vohsら(2021)[2]
説を支持してきた研究者自身も加わり、36の研究室・3,531人で、事前に決めた方法で調べました。効果は d = 0.06 で、統計的にはっきりしませんでした。データは「効果あり」より「効果なし」の仮説に4倍よく合っていました。追加の分析では、疲れを強く感じていた人ほど効果が少し大きい傾向がありました。
対象: 36の研究室の参加者3,531人 / 限界: 除外基準を外した分析では小さな効果(d = 0.08)が出ており、完全にゼロとまでは言い切れません。
Carterら(2015)[3]
それまでの自我消耗の実験を、出版の偏りなども考えて分析し直したメタ分析です。よく使われる実験方法では、効果が本当にあるという証拠はとても少ないと結論しました。
対象: 既存の実験のメタ分析 / 限界: 実験室の課題での結論で、日常の疲れについて調べたものではありません。
Jobら(2015)[4]
大学生に、意志力についての考え方をたずね、試験前の5週間、毎週ようすを調べました。課題などの負担が重い時期、「意志力は限られている」と考える学生ほど先延ばしが多く、時間の管理もうまくいっていませんでした。授業を多くとっていた学生では、「限られていない」と考える学生のほうが成績が高く、その差は先延ばしの少なさで説明されました。
対象: 大学生(試験前の5週間、毎週の調査) / 限界: 考え方と行動の関係を調べた調査で、考え方が原因だとは確かめていません。比べたのは人と人の差で、同じ人の週ごとの変化では差がはっきりしませんでした[5]。
Bernecker・Job(2015)[5]
スイスの大学生157人が、学期中と試験前に5日ずつ日記に答えました。忙しかった日の翌日、「意志力は限られていない」と考える学生は、嫌な作業もはかどると予想し、実際に目標に向けて効率よく取り組めたと答えていました。「限られている」と考える学生では、その逆の傾向でした。
対象: スイスの大学生157人(女性132人) / 限界: すべて本人の回答。学生だけの調査です。
| 研究 | わかったこと |
|---|---|
| Haggerら(2016)23研究室 | 「使うと減る」効果はほぼゼロ(d = 0.04) |
| Vohsら(2021)36研究室 | 効果ははっきりせず(d = 0.06) |
| Carterら(2015)メタ分析 | 本当にあるという証拠はとても少ない |
| Jobら(2015)試験前の学生 | 「限られている」と考える人ほど先延ばしが多い |
| Bernecker・Job(2015)157人 | 考え方で、忙しい日の翌日の取り組み方が違う |
この表は、上の研究をこのサイトで並べたものです。注意点もあります。2010年には、考え方を変えると実験室での粘りが変わるという実験が報告されました。しかし2021年の大規模な追試では、意志力についての考え方による違いは見られませんでした[2]。「考え方を変えれば先延ばしが直る」とまでは言えません。
03 今日からできる小さな一歩疲れた日に先延ばししそうなときは?
「もう力が残っていない」と決めつけず、短く休んでから、作業を小さく切って始めるのが研究に沿ったやり方です。休むことと、まるごと明日に回すことは分けて考えます。
まず10分以上休む
22の研究(2,335人)のメタ分析で、作業の合間の短い休憩は元気さを高め(d = 0.36)、疲れを減らしました(d = 0.35)。重い作業のあとは、10分より長い休憩が必要かもしれないとされています[6]。
所要 10〜15分
「意志力が切れた」を「気が重い」に言い換える
止めているのが力の残量ではなく、嫌な気分かもしれないと考えてみます。研究の結果から考えた工夫です。
所要 1分
04 続けるためのコツ本当に疲れているときも、がんばるべき?
いいえ。疲れの感覚は本物で、睡眠不足や体調不良のときは休むことが先です。見直したいのは「疲れた日は必ず何もできない」という決めつけのほうです。
- 休むと決めたら、再開の時刻も決める: 「明日やる」ではなく「明日の9時に10分だけ」と具体的にします。やり方は始める時刻を決める研究にあります。
- 忙しい時期の先延ばしを責めすぎない: ストレスが多い時期の立て直し方は、ストレスと先延ばしの研究にまとめています。
- 甘いもので意志力を補充、もあまり当てにならない: 糖分で集中力が戻るという説も、研究では支持が弱いです(甘いものと集中力の研究)。
05よくある質問
意志力は使うと減るって本当?
大規模な追試では、はっきり確かめられていません。23の研究室・2,141人の追試で効果の大きさは d = 0.04、36の研究室・3,531人の追試でも d = 0.06 と、ほぼゼロでした。ただし、疲れを強く感じていた人では効果が少し大きい傾向も報告されています。
疲れている日は休んだほうがいい?
疲れを感じること自体は本物で、休むことは大切です。作業の合間の短い休憩は、元気さを高め疲れを減らす効果がメタ分析で確かめられています。作業をまるごと明日に回すより、短く休んでから小さく再開するほうが、研究の結果に沿った使い方です。
「意志力は減らない」と思えば先延ばしは直る?
そこまでは言えません。意志力を限られたものと考える学生ほど先延ばしが多かった研究はありますが、考え方と行動の関係を調べた調査で、考え方を変えれば先延ばしが減ると確かめたものではありません。2021年の大規模な追試では、考え方による違いは見られませんでした。
出典
- Hagger, M. S., Chatzisarantis, N. L. D., Alberts, H., et al. (2016). A multilab preregistered replication of the ego-depletion effect. Perspectives on Psychological Science, 11(4), 546-573. https://doi.org/10.1177/1745691616652873
- Vohs, K. D., Schmeichel, B. J., Lohmann, S., et al. (2021). A multisite preregistered paradigmatic test of the ego-depletion effect. Psychological Science, 32(10), 1566-1581. https://doi.org/10.1177/0956797621989733
- Carter, E. C., Kofler, L. M., Forster, D. E., & McCullough, M. E. (2015). A series of meta-analytic tests of the depletion effect: Self-control does not seem to rely on a limited resource. Journal of Experimental Psychology: General, 144(4), 796-815. https://doi.org/10.1037/xge0000083
- Job, V., Walton, G. M., Bernecker, K., & Dweck, C. S. (2015). Implicit theories about willpower predict self-regulation and grades in everyday life. Journal of Personality and Social Psychology, 108(4), 637-647. https://doi.org/10.1037/pspp0000014
- Bernecker, K., & Job, V. (2015). Beliefs about willpower moderate the effect of previous day demands on next day's expectations and effective goal striving. Frontiers in Psychology, 6, 1496. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2015.01496
- Albulescu, P., Macsinga, I., Rusu, A., Sulea, C., Bodnaru, A., & Tulbure, B. T. (2022). "Give me a break!" A systematic review and meta-analysis on the efficacy of micro-breaks for increasing well-being and performance. PLOS ONE, 17(8), e0272460. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0272460


