先延ばし

やることがぼんやりしていると、なぜ手がつかない?「抽象的に考えると後回しにする」仕組みを研究で調べた

約7分で読めます

ノートとペン
Photo: Dana Marin amsterdamian / CC0 / Wikimedia Commons
AIによる調査公開された研究をAIが調べて整理しました(独自の実験ではありません。出典は末尾)。

「企画を考える」「部屋を片づける」「将来のために勉強する」。大事だとわかっているのに、なかなか手がつかない。そんな作業は、中身がぼんやりしたままのことが多いものです。研究では、物事を抽象的に考えていると、それが「先のこと」に感じられ、後回しにしやすくなることがわかっています。意志の弱さだけが原因ではありません。

3行でわかる

  1. 人は、遠い先のことほど「なぜするか」という大きな意味で考え、近いことほど「どうやるか」という具体的な手順で考えます(解釈レベル理論)。
  2. McCreaら(2008)の3つの実験では、3週間以内にメールで返す課題を、具体的に考えるよう促された人ほど早く返していました。
  3. この効果は、課題の魅力・重要さ・難しさの感じ方とは関係なく現れました。ただし同じ課題での大規模な追試は、調べた範囲では見当たりません。

01 悩みの正体ぼんやりした作業ほど後回しになるのはなぜ?

頭の中で作業が「なぜするか」という抽象的な形のままだと、「いつかやること」として扱われやすいからです。具体的な手順が見えないと、「今やること」に変わりにくくなります。

心理学には解釈レベル理論という考え方があります。人は、遠い先の出来事を大まかな意味でとらえ、近い出来事を細かい手順でとらえる、というものです。

たとえば、来月の勉強は「成績を上げる」と考えがちです。明日の勉強なら「教科書の3章を読む」と考えます。研究者は、この結びつきが逆向きにも働くと考えました。抽象的に考えると、その作業が「遠い先のこと」に感じられる、というわけです[2]。

締め切りが遠いと手がつかない仕組みは締め切りと先延ばしの研究に、気分を守るために作業を避ける仕組みは先延ばしと感情の研究にまとめています。この記事は、作業の「とらえ方」の側から見た理由です。

02 科学的にわかっていること具体的に考えると、本当に早く手をつける?

実験では早く手をつけました。具体的に考えるよう促された人は、抽象的に考えるよう促された人より、メールの質問票を早く返していました。ただし主な根拠は1つの論文の3つの実験です。

McCreaら(2008)[1]

参加者に、メールで届いた質問票に3週間以内に答えて返すよう頼みました。質問票は、答えるうちに物事を抽象的に考える形と、具体的に考える形の2種類がありました。3つの実験のすべてで、具体的に考える質問票を受け取った人のほうが、早く返信していました。この差は、課題の魅力・重要さ・難しさをどう感じたかとは関係なく現れました。

対象: 3つの実験の参加者 / 限界: 質問票を返すという1種類の課題。各実験の人数や返信率の数値は、この記事では原文で確認できなかったため載せていません。

Trope・Liberman(2010)[2]

解釈レベル理論の研究をまとめた総説です。遠い先の活動ほど抽象的に表されやすいことが示されています。たとえば、先の「勉強」は「学校で良い成績をとる」と、近い「勉強」は「教科書を読む」と表されやすくなりました。逆に、「なぜ」で考えると、その活動をより先のこととして考えやすくなることも報告されています。

対象: 多数の実験をまとめた総説 / 限界: 主に実験室の研究で、日常の先延ばしを直接測ったものは一部。

Watkins(2011)[3]

目標や行動を「抽象的にとらえるか、具体的にとらえるか」の研究をまとめた総説です。「いつ・どこで・どうやるか」まで具体的にした計画は、行動を始めるきっかけを状況にゆだね、意志の力に頼る部分を減らすと考えられています。一方で、抽象と具体は場面に応じて切り替えるのが健やかな状態だとしています。

対象: 既存研究の総説 / 限界: 心の不調との関係を中心にまとめたもの。

Steel(2007)[4]

先延ばしの原因と結果を、691の相関をまとめたメタ分析(多くの研究を統合する分析)で調べました。作業の嫌さ、締め切りまでの遠さ、「自分にできる」という感覚、衝動性などが、強く一貫した予測要因でした。

対象: 691の相関 / 限界: 多くが相関の研究で、原因と結果の向きは決められない。

とらえ方頭の中の形感じ方
抽象的(なぜ)「成績を上げる」「部屋をきれいにする」先のこと・いつかやること
具体的(どうやって)「3章を読む」「机の上の紙を捨てる」近いこと・今できること

この表は、上の研究をもとにこのサイトで整理したものです。なお、先の見通しが立たないこと(不確かさ)が強い学生ほど先延ばしが多い、という報告もあります(253人の調査)[6]。ただし、これは相関の調査です。先延ばしの原因は1つではなく、作業の嫌さや締め切りの遠さなど、いくつもの要因が重なります[5]。

03 今日からできる小さな一歩ぼんやりした作業に手をつけるには?

作業を「どうやって」の言葉に言い換え、最初の動作まで決めるのが近道です。研究の結果から考えた工夫で、効果を直接確かめたものではありません。

1

作業名を「動詞+物」に書き換える

「企画を考える」を「企画のメモに案を3つ書く」にします。目に見える動作と物が入ると、具体的なとらえ方に切り替わります。

所要 2分

2

「どうやって?」を2回くり返す

「部屋を片づける」→どうやって?→「机から始める」→どうやって?→「机の上の紙を捨てる」。2回で、今すぐできる大きさになることが多いです。分け方は大きな作業の分け方の研究にまとめています。

所要 3分

3

「いつ・どこで」を足す

「夕食のあと、机で」のように決めておくと、始めるきっかけを状況にゆだねられます[3]。方法は始める時刻を決める計画の研究にまとめています。

所要 1分

04 続けるためのコツ目的を考えるのは、やめたほうがいい?

やめる必要はありません。目的を考えるのは「やる理由」を作る場面、具体的に考えるのは「手をつける」場面と使い分けるのがよいと考えられます。

05よくある質問

やることがぼんやりしていると、なぜ先延ばししやすいの?

物事を「なぜするのか」という大きな意味で考えると、頭の中で「先のこと」として扱われやすくなるためと考えられています。McCreaら(2008)の3つの実験では、具体的に考えるよう促された人ほど、3週間以内の課題を早く終えていました。

抽象的に考えるのは悪いこと?

悪いとは限りません。目的や意味を考えることは、やる気や方向づけに役立ちます。研究のまとめでは、抽象と具体は場面に応じて切り替えるのがよいとされています。手をつける瞬間だけ「どうやって」に切り替えるのがコツです。

作業が嫌だから先延ばしするのとは違う?

別の理由です。691の相関をまとめたメタ分析では、作業の嫌さは先延ばしの強い予測要因でした。一方McCreaらの実験では、具体的に考えることの効果は、作業の魅力・重要さ・難しさの感じ方とは関係なく現れました。

出典

  1. McCrea, S. M., Liberman, N., Trope, Y., & Sherman, S. J. (2008). Construal level and procrastination. Psychological Science, 19(12), 1308-1314. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2008.02240.x
  2. Trope, Y., & Liberman, N. (2010). Construal-level theory of psychological distance. Psychological Review, 117(2), 440-463. https://doi.org/10.1037/a0018963
  3. Watkins, E. (2011). Dysregulation in level of goal and action identification across psychological disorders. Clinical Psychology Review, 31(2), 260-278. https://doi.org/10.1016/j.cpr.2010.05.004
  4. Steel, P. (2007). The nature of procrastination: a meta-analytic and theoretical review of quintessential self-regulatory failure. Psychological Bulletin, 133(1), 65-94. https://doi.org/10.1037/0033-2909.133.1.65
  5. Zhang, S., Liu, P., & Feng, T. (2019). To do it now or later: the cognitive mechanisms and neural substrates underlying procrastination. Wiley Interdisciplinary Reviews: Cognitive Science, 10(4), e1492. https://doi.org/10.1002/wcs.1492
  6. Lim, A. J., & Javadpour, S. (2021). Into the unknown: uncertainty and procrastination in students from a life history perspective. Frontiers in Psychology, 12, 717380. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2021.717380