退屈で後回しにしている作業は、「誰の役に立つか」を書くと手をつけやすい? 意味づけの研究でわかったやり方と注意点

大事なのはわかっている。でも退屈で、つい後回しにしてしまう。そんな作業は誰にでもあります。研究でわかったのは、その作業が「自分以外の誰かの役に立つ理由」を書き出すと、退屈な場面でも手を止めにくくなることでした。ただし平均の効果は小さく、効かなかった実験もあります。やり方と注意点をまとめました。
3行でわかる
- 学ぶ理由を「人の役に立つため」と考える短い読み書きをした大学生は、いちばん退屈な4分間で、計算問題を36%多く解いた(429人の実験)。
- 「楽しい仕事につくため」という自分のための理由だけでは、何もしない組とはっきりした差が出なかった。
- 効果は平均すると小さく、条件しだい。590人の実験では全体の差は出ず、321人の実験では先生の一言が添えられたときだけ効いた。
01 悩みの正体退屈な作業ほど後回しにしてしまうのはなぜ?
退屈な作業は、取りかかる瞬間にいやな気分を生むからです。人はその気分を避けようとして、もっと楽しいことに手を伸ばします。意志の弱さというより、気分の問題として研究されています。
先延ばしは「いやな気分から逃げたい」気持ちと深く関わっています(先延ばしと感情の研究)。
退屈な作業のすぐ横には、たいてい楽しい誘惑があります。スマホ、動画、ゲームです。作業がつまらないほど、そちらに流れやすくなります。
そこで研究者たちは、作業そのものを楽しくするのではなく、「なぜやるのか」の理由を変える方法を試しました。とくに注目されたのが、自分のためだけでなく「誰かの役に立つため」という理由です。
02 科学的にわかっていること「誰かの役に立つ」と考えると、退屈な作業を続けられる?
大学生の実験では、続けられる時間が長くなりました。ただし学校の成績への効果は平均すると小さく、効かなかった実験もあります。「いつでも効く方法」ではなく「条件がそろうと効く方法」です。
Yeagerら(2014)[1]
大学生に、まず「どうすれば世の中はよくなるか」を書いてもらい、学ぶ理由を人の役に立つことと結びつける読み書きをしてもらいました。そのあと、簡単な引き算を解くか、動画やゲームで遊ぶかを自由に選べる課題をしました。ふつうの組は、後半の4分間で解いた数が前半より44%減りました。理由を書いた組の減り方は26%で、後半に解いた数は36%多くなりました。
対象: アメリカの大学で心理学入門を受ける429人 / 限界: 実験室での短い課題です。「楽しい仕事につくため」という自分のための理由を書いた組は、何もしない組とはっきりした差が出ませんでした。
Yeagerら(2014)[1]
同じ論文の別の実験です。テスト前の退屈な復習問題に、1問あたりかける時間を比べました。ふつうの組は1問約25秒、理由を書いた組は約49秒で、およそ2倍でした。高校1年生338人の実験では、数学と理科の成績(4点満点)が3.04と2.93で、差は小さめでした。
対象: 大学生71人、アメリカの高校生338人 / 限界: 高校生の成績の差は、もともと成績が低めの生徒(0.2点)で大きく、高めの生徒でははっきりしませんでした。
Harackiewiczら(2016)[2]
大学の生物学の授業で、学んだ内容が「自分や誰かの生活にどう役立つか」を書くレポートを、学期中に3回出してもらいました。全体の成績の差は2.81と2.76でわずかでした。一方で、家族で初めて大学に進んだ少数派の学生では0.51点上がり、成績の差が61%縮まりました。
対象: アメリカの大学の1,040人 / 限界: 全体への効果は小さく(d=0.06)、効果が大きかったのは一部の学生でした。
Priniskiら(2019)[3]
同じ「役立つ理由を書く」方法を、6通りの書き方で比べました。全部の書き方をまとめると、ただ要約を書く組との差は出ませんでした。自分向けの作文と、家族や友人あての手紙を組み合わせた組は、同じ型だけを書いた組より成績が高くなりました(3.05と2.85)。毎回どちらを書くか選べた組も、選べない組より高くなりました(3.06と2.95)。自分向けだけ、相手向けだけでは、ほとんど効果がありませんでした。
対象: アメリカの大学の生物学の授業を受ける590人 / 限界: 1つの授業での結果で、著者は1つの研究で結論は出せないと述べています。
Reevesら(2021)[4]
中学生に「誰かの役に立つ」理由の読み書きをしてもらいましたが、全体では作文の課題の点数は上がりませんでした。効いたのは、先生の手書きのひと言が課題に添えられたときだけでした。その言葉は「こういう課題で力をつければ、いつか人の暮らしをよくできる」という内容です。
対象: アメリカの公立中学の1〜2年生321人 / 限界: どの生徒に効いたかの分析の一部は、事前に計画していない探索的なものでした。
36%多く解いた
「人の役に立つ」理由を書いた大学生が、いちばん退屈な4分間に解いた計算問題の多さ(429人の実験)[1]
| 理由の持ち方 | 研究の結果 |
|---|---|
| 人の役に立つため(自分のためも含む) | 退屈な4分間で36%多く解いた[1] |
| 楽しい仕事につくため(自分のためだけ) | 何もしない組とはっきりした差なし[1] |
| 自分向けの作文と、相手あての手紙を組み合わせる | 成績3.05(同じ型だけの組は2.85)[3] |
| 読み書きだけで、周りの後押しなし | 中学生の作文の点数は上がらず[4] |
03 今日からできる小さな一歩退屈な作業の理由は、どう書けばいい?
後回しにしている作業を1つ選び、「自分にとって」と「誰かにとって」の両方の理由を数行ずつ書きます。手が止まりそうなときに読み返せる場所に置き、始める時刻も決めておきます。
後回しにしている退屈な作業を1つ選ぶ
「書類の整理」「試験勉強の暗記」など、大事だけれどつまらない作業にします。研究で効果が見えたのは、まさにこうした退屈な場面でした[1]。
所要 1分
「この作業は誰の役に立つか」を2〜4文で書く
家族、同僚、お客さん、将来の誰かなど、具体的な相手を思い浮かべます。研究でも、短いメッセージや手紙の形で書いてもらっていました[1][3]。
所要 5分
「自分の生活にどう役立つか」も1〜2文足す
自分向けと相手向けを組み合わせた書き方は、どちらか一方だけより成績が上がりました[3]。自分のためだけの理由で終わらせないのがコツです。
所要 2分
04 続けるためのコツ理由を書いても手が動かないときは、どうする?
理由づけは、平均すると小さな後押しです。効かない日があって当然と考え、作業を小さく分ける・始める時刻を決めるなど、ほかの方法と組み合わせます。周りに意味を認めてくれる人がいると効きやすくなります。
- 理由づけだけに頼らない。590人の実験では、書き方をまとめると全体の差は出なかった[3]。
- 作業が大きすぎるなら、先に分ける(作業の分け方の研究)。
- 意味を言葉にしてくれる人を味方にする。中学生の実験では、先生のひと言があるときだけ効いた[4]。
- 「お金のため」「楽しい仕事のため」だけで終わらせない。自分のためだけの理由では差が出なかった[1]。
- できなかった日は、自分を責めずに次の時刻を決め直す(先延ばしの後の立て直し方)。
05よくある質問
「お金のため」「自分のキャリアのため」という理由ではだめですか?
だめではありませんが、それだけでは足りないかもしれません。429人の大学生の実験では、「楽しい仕事につくため」という自分のための理由だけを書いた組は、何もしない組とはっきりした差が出ませんでした。差が出たのは、人の役に立つ理由も含めて書いた組でした。
仕事の退屈な作業にも効きますか?
まだはっきりしません。ここで紹介した実験は、すべてアメリカの中学生・高校生・大学生の勉強が対象です。著者も、結果はどんな場面でも同じ大きさで出る保証ではないと述べています。仕事で試すなら、合わなければやめられる小さな工夫として使うのがよいでしょう。
一度書けば、ずっと効きますか?
研究では、1回の読み書きのあと数か月の成績を見たものや、学期中に3回書いてもらったものがあります。高校生の実験では、1回の読み書きのあと数か月の数学と理科の成績がわずかに上がりました。ただし効果は小さく、作業のたびに理由を読み返すほうが、自分で試す形としては取り入れやすいでしょう。
出典
- Yeager, D. S., Henderson, M. D., Paunesku, D., Walton, G. M., D'Mello, S., Spitzer, B. J., & Duckworth, A. L. (2014). Boring but important: A self-transcendent purpose for learning fosters academic self-regulation. Journal of Personality and Social Psychology, 107(4), 559-580. https://doi.org/10.1037/a0037637
- Harackiewicz, J. M., Canning, E. A., Tibbetts, Y., Priniski, S. J., & Hyde, J. S. (2016). Closing achievement gaps with a utility-value intervention: Disentangling race and social class. Journal of Personality and Social Psychology, 111(5), 745-765. https://doi.org/10.1037/pspp0000075
- Priniski, S. J., Rosenzweig, E. Q., Canning, E. A., Hecht, C. A., Tibbetts, Y., Hyde, J. S., & Harackiewicz, J. M. (2019). The benefits of combining value for the self and others in utility-value interventions. Journal of Educational Psychology, 111(8), 1478-1497. https://doi.org/10.1037/edu0000343
- Reeves, S. L., Henderson, M. D., Cohen, G. L., Steingut, R. R., Hirschi, Q., & Yeager, D. S. (2021). Psychological affordances help explain where a self-transcendent purpose intervention improves performance. Journal of Personality and Social Psychology, 120(1), 1-15. https://doi.org/10.1037/pspa0000246


