作業時間はどう見積もればずれにくい? 予定より遅れる「計画の誤り」を研究で調べた

「30分で終わるはず」と思った作業が、気づけば2時間。見積もりが外れるたびに予定が崩れ、次の作業も後ろにずれていきます。これは計画が下手だからではありません。研究では、過去の作業にかかった時間を、人は短めに覚えていることがわかっています。だから見積もりは「記憶」ではなく「記録」から出すのがコツです。実際にかかった時間を見てから予測した人は、3つの実験すべてで見積もりが正確になりました。
3行でわかる
- 時間の見積もりがずれる理由の1つは、過去の作業時間を実際より短く覚えている記憶のくせ。
- 自分や他人の「実際にかかった時間」を見てから予測すると、3つの実験すべてで正確さが上がった。一方、210人の大学生の研究では、過去を振り返る4つの質問に答えるだけでは変わらなかった。
- 見落としやすいのは作業の本体以外の時間。外科医9人・759件の手術の記録では、手術そのものの予測は合っていたのに、入室から退室までは予測78.2分に対し実際は82.7分だった。
01 悩みの正体作業時間の見積もりが外れるのはなぜ?
人は過去の作業にかかった時間を短めに覚えていて、その記憶をもとに次を予測するから、という説明があります。いつも短すぎるわけではなく、長すぎる人もいます。
予定より作業が遅れてしまう傾向は、心理学で「計画の誤り(プランニング・ファラシー)」と呼ばれます。有名なのは、卒業論文を書く大学生に提出日を予測してもらった研究です。学生たちは、実際より早い日付を予測していました[4]。
なぜずれるのか。Royら(2005)は、さまざまな研究をまとめたレビューで1つの説明を示しました[1]。人は「前回はこれくらいだった」という記憶をもとに予測します。ところが、その記憶自体が実際より短い。だから予測も短くなる、という考え方です。
ただし、「人はいつも短く見積もる」とまでは言えません。時間の予測についての研究をまとめた別のレビューでは、短すぎる見積もりが多く報告されたのは工学や経営の研究でした。心理学の研究では、そうした偏りは見られませんでした[2]。自分は短く見積もる側か、長く見積もる側か。まずはそれを知ることが出発点になります。締め切り前に急に集中できる仕組みは時間の圧力の研究で紹介しています。
02 科学的にわかっていること見積もりを正確にする方法は、研究で確かめられている?
実際にかかった時間の記録を見てから予測する方法は、3つの実験すべてで正確さを上げました。過去を思い出すだけ、振り返りの質問に答えるだけでは、はっきりした改善は出ていません。
Royら(2008)[3]
見積もる前に「実際にかかった時間」を教えると、予測が正確になりました。実験1(紙を数える作業)と実験2(作文)では、大学生に、似た作業を前回したときの自分の所要時間を伝えました。実験3では、ファストフード店やゲームセンターで募った人に、ほかの人の平均時間を伝えました。3つの実験すべてで、予測の正確さが上がりました。
対象: 大学生と、街で募った一般の人 / 限界: 実験室や短い作業での結果です。何日もかかる大きな作業でも同じように効くかは、この研究では確かめていません。
Bradyら(2022)[4]
大学生210人が、翌週に1回で終える予定の勉強の作業を選び、何分かかるか予測しました。予測より長くかかった人は47.1%、短く済んだ人は31.9%、ぴったりだった人は21%でした。半分の107人には、予測の前に「似た作業は過去にあったか」「難しかったか」「今回は難しそうか」「何に邪魔されそうか」の4つの質問に答えてもらいました。しかし、答えなかった103人と比べて、見積もりの正確さに差はありませんでした。
対象: アメリカの大学で「学び方」の授業をとる学生210人 / 限界: 答えが一言だけの学生が多く、深く振り返れていなかった可能性を著者自身が挙げています。所要時間は学生の自己申告です。
Kattら(2021)[5]
整形外科医9人が、3か月間・759件の手術について、手術の時間と、患者の入室から退室までの時間を予測しました。手術そのものの予測は平均56.4分で、実際の55.4分とほぼ同じでした。一方、入室から退室までの予測は平均78.2分で、実際は82.7分でした。毎回、予測と実際を見比べた結果、手術時間の予測のずれは、最初の4分の1の13.6分から、最後の4分の1では10.9分に縮みました。
対象: 1つの医療機関の整形外科医9人 / 限界: 比べるグループのない記録の分析です。入室から退室までの予測のずれは、最後まで縮みませんでした(14.0分→14.4分)。
研究を並べると、次のように整理できます。
| やり方 | 研究でわかったこと | 判定 |
|---|---|---|
| 自分の前回の実際の時間を見てから予測 | 2つの実験で正確さが上がった[3] | 効果あり |
| ほかの人の平均時間を見てから予測 | 街で募った人の実験で正確さが上がった[3] | 効果あり |
| 過去の似た作業を思い出すだけ | 多くの研究で、正確さの改善につながらなかった[1][4] | 当てにならない |
| 予測と実際を毎回見比べる | 作業の本体の予測は少しずつ正確になったが、準備などを含む全体は変わらなかった[5] | 本体には効く |
03 今日からできる小さな一歩作業時間はどう見積もればずれにくい?
よくやる作業の実際の時間を1週間記録し、次の見積もりはその数字から出します。準備や片付けは別の行に書いて足し、終わったら予測と実際を並べて書きます。
よくやる作業3つの、実際の時間を記録する
メール返信、資料づくり、部屋の片付けなど、くり返す作業を3つ選びます。始めた時刻と終わった時刻を、スマホのメモに書くだけです。記憶は短めにずれやすいので、数字で残すことが大事です[1]。
所要 1回10秒・1週間
次の見積もりは、記録の数字から出す
「たぶん30分」と頭で考える前に、メモを開いて前回の実際の時間を見ます。記録がない作業は、同じ作業をしたことのある人に「何分かかった?」と聞きます。ほかの人の時間を見て予測しても、正確さは上がりました[3]。
所要 1分
本体以外の時間を、別の行に書いて足す
準備、移動、ファイル探し、連絡、片付け。作業の本体以外を1行ずつ書き、それぞれの分数を足します。外科医の記録でも、ずれが残ったのは本体以外を含む全体の時間でした[5]。
所要 2分
終わったら、予測と実際を並べて書く
「予測40分・実際55分」のように1行で残します。何度か続けると、自分が短く見積もる側か長く見積もる側かが見えてきます。次の予測は、そのくせの分だけ調整します。
所要 30秒
04 続けるためのコツ見積もりの記録を続けるには?
記録する作業を3つに絞り、終わった直後に1行だけ書きます。完璧な記録より、「予測と実際」の組が少しずつたまることが大切です。
- 全部の作業を記録しようとしない。くり返す作業3つだけで十分に役立つ。
- 書き忘れた日は、その日の分をあきらめて次から再開する。思い出して書くと、短めにずれやすい[1]。
- 大きな作業は、手順に分けてから時間を見積もる。分け方は大きな作業の分け方の研究を参考にしてください。
- 見積もった時間は「いつ・どこでやるか」とセットで予定に入れる(if-thenプランの研究)。ToDoリストへの書き方はToDoリストの研究も参考になります。
05よくある質問
見積もりに、何割か上乗せしておけばいいですか?
「何割足せばよい」と決めた研究は見当たりませんでした。人によって短く見積もる人も、長く見積もる人もいます。大学生210人の研究でも、予測より長くかかった人は47.1%、短く済んだ人は31.9%でした。一律に足すより、自分の記録から「いつもどれくらいずれるか」を知るほうが確実です。
過去の似た作業を思い出してから見積もれば、正確になりますか?
思い出すだけでは、はっきりした改善は出ていません。過去の所要時間の記憶そのものが短めにずれているためと考えられています。正確さが上がったのは、実際にかかった時間の記録を見てから予測したときでした。
見積もりが外れて予定が崩れた日は、どうすればいいですか?
まず「予測と実際」を1行で書き残してください。外れた記録こそ、次の見積もりの材料になります。先延ばしや遅れで自分を責めてしまうときは、先延ばしの後の立て直し方も参考にしてください。
出典
- Roy, M. M., Christenfeld, N. J. S., & McKenzie, C. R. M. (2005). Underestimating the duration of future events: Memory incorrectly used or memory bias? Psychological Bulletin, 131(5), 738-756. https://doi.org/10.1037/0033-2909.131.5.738
- Halkjelsvik, T., & Jørgensen, M. (2012). From origami to software development: A review of studies on judgment-based predictions of performance time. Psychological Bulletin, 138(2), 238-271. https://doi.org/10.1037/a0025996
- Roy, M. M., Mitten, S. T., & Christenfeld, N. J. S. (2008). Correcting memory improves accuracy of predicted task duration. Journal of Experimental Psychology: Applied, 14(3), 266-275. https://doi.org/10.1037/1076-898X.14.3.266
- Brady, A. C., Wolters, C. A., & Yu, S. L. (2022). Self-regulation of time: The importance of time estimation accuracy. Frontiers in Psychology, 13, 925812. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2022.925812
- Katt, B. M., Tawfik, A., Lau, V., et al. (2021). The planning fallacy in the orthopedic operating room. Cureus, 13(1), e12433. https://doi.org/10.7759/cureus.12433


