疲れたときの甘いもので、集中力は戻るのか。「シュガーラッシュ」の研究

仕事や勉強で頭が疲れたとき、チョコレートや甘い飲み物で「脳にエネルギーを補給」する。そんな習慣がある人も多いのではないでしょうか。研究を見ると、甘いもので気分や集中力が上がるという考えは、思ったほど支持されていませんでした。むしろ、食べてから1時間以内は疲れを感じやすくなっていました。
3行でわかる
- 31件・1,259人の研究をまとめた分析では、糖分をとっても、気分のどの面もどの時点でも良くならなかった。食べてから1時間以内は、かえって疲れを感じやすく、覚醒感も低かった。
- 「意志力はブドウ糖を使う」という説を支えた研究を検証した分析では、その証拠は弱く、結論を出すべきではないとされた。
- 23の研究室・2,141人で行った再現実験では、意志力が使うほど減るという効果自体が、ほぼゼロだった。
01「脳のエネルギー補給」のイメージと、研究の結果
脳はブドウ糖をエネルギー源にしています。しかし、ふだんの食事をしている人が、疲れたときに甘いものを食べても、集中力や気分が上がるという証拠は乏しいのが現状です。
「甘いものを食べると元気が出る(シュガーラッシュ)」というイメージは広く知られています。また、自分をコントロールする意志力はブドウ糖を使う限りある資源で、甘いもので回復できる、という説も一時注目されました。
しかし、これらの研究を改めて検証すると、出版された結果に偏りがあったり、大規模な再現実験で同じ結果が得られなかったりしました。
疲れたときに甘いものが欲しくなるのは自然なことです。ただ、それで集中力が戻ると期待しすぎない方がよさそうです。
02科学的にわかっていること
糖分をとっても気分は良くならず、1時間以内はかえって疲れやすくなっていました。「意志力はブドウ糖で回復する」という説も裏付けが弱いことがわかっています。
Mantantzisら(2019)[1]
糖質をとった後の気分を調べた31件の研究(1,259人、176の効果量)をまとめた。糖質をとっても、気分のどの面にも、どの時点でも良い効果は見られなかった。一方、とった後1時間以内は、偽の飲み物と比べて疲れを強く感じ、覚醒感が低かった。
対象: 31件の研究、1,259人 / 限界: 多くは実験室で糖質の飲み物をとった研究で、ふだんのおやつとは条件が違う。
Vadilloら(2016)[2]
「意志力はブドウ糖を使い、使うと減る」という説を検証した研究をまとめて調べた。報告された効果には出版の偏りの影響がある可能性があり、統計的に意味のある結果の研究でも、証拠としての価値は弱かった。研究者は、ブドウ糖と意志力の関係について結論を出すべきではないとしている。
対象: ブドウ糖と意志力を調べた実験 / 限界: 統計的な手法による検証で、新たな実験ではない。
Haggerら(2016)[3]
23の研究室で、合計2,141人を対象に、意志力が使うほど減るという効果(自我消耗)を同じ方法で再現しようとした。効果の大きさはほぼゼロ(d=0.04)で、統計的にはっきりしなかった。
対象: 23の研究室、2,141人 / 限界: 1つの実験方法を使った再現で、ほかの方法での結果とは異なる可能性がある。
Schiltz & De Witte(2022)[4]
幼児462人に、砂糖入りの飲み物か人工甘味料入りの飲み物をランダムに配り、教室での様子を調べた。砂糖入りの飲み物を飲んだ男の子は、最初は落ち着いた後、落ち着きがなくなり、学習の成績は下がった。女の子の行動には大きな変化はなく、成績はむしろ上がった。
対象: 幼児462人 / 限界: 子どもの研究で、大人にそのまま当てはまるとは限らない。
03今日からできる小さな一歩
集中力を取り戻したいときは、甘いものより、短い休憩や軽い運動を試してみます。おやつは楽しみとして、量を控えめに。
疲れたら、まず5分休む
甘いものに手を伸ばす前に、画面から目を離して伸びをしたり、少し歩いたりします。
所要 5分
おやつは「楽しみ」として少しだけ
甘いものを食べるなら、集中のためではなく楽しみとして、少量にします。食べて1時間ほどは疲れを感じやすいことも知っておきます。
所要 食べるとき
食事の時間を整える
おなかがすきすぎると集中しにくくなります。食事を抜かず、決まった時間に食べるようにします。
所要 日々
04続けるためのコツ
甘いものを我慢しすぎる必要はありません。「集中のため」という理由づけをやめるだけでも、食べる量を調整しやすくなります。
- 甘い飲み物は量がわかりにくいので、飲みすぎに気をつけます。
- 眠気が強いときは、甘いものより短い昼寝の方が効果的な場合があります。
- 「意志が弱いから甘いものがやめられない」と自分を責めなくて大丈夫です。意志力が減るという説自体、再現されていません。
- 糖尿病などで食事の管理が必要な場合は、医師の指示に従ってください。
05よくある質問
甘いものと集中力について、よく検索される疑問に研究の範囲で答えます。
疲れたときに甘いものを食べると集中できる?
研究では支持されていません。31件の研究をまとめた分析では、糖分をとっても気分は良くならず、1時間以内はかえって疲れを感じやすくなっていました。
シュガーラッシュは本当にある?
「甘いもので元気が出る」というシュガーラッシュは、研究をまとめた分析では確認されませんでした。研究者はこれを「神話」だとしています。
脳はブドウ糖で動いているのでは?
脳がブドウ糖をエネルギー源にしているのは事実です。ただ、ふだん食事をしている人が甘いものを追加で食べても、集中力や意志力が回復するという証拠は弱いのが現状です。
意志力は使うと減るの?
23の研究室・2,141人で行った再現実験では、意志力が使うほど減るという効果は、ほぼゼロでした。
出典
- Mantantzis, K., Schlaghecken, F., Sünram-Lea, S. I., & Maylor, E. A. (2019). Sugar rush or sugar crash? A meta-analysis of carbohydrate effects on mood. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 101, 45-67. https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2019.03.016
- Vadillo, M. A., Gold, N., & Osman, M. (2016). The Bitter Truth About Sugar and Willpower: The Limited Evidential Value of the Glucose Model of Ego Depletion. Psychological Science, 27(9), 1207-1214. https://doi.org/10.1177/0956797616654911
- Hagger, M. S., Chatzisarantis, N. L. D., Alberts, H., et al. (2016). A Multilab Preregistered Replication of the Ego-Depletion Effect. Perspectives on Psychological Science, 11(4), 546-573. https://doi.org/10.1177/1745691616652873
- Schiltz, F., & De Witte, K. (2022). Sugar rush or sugar crash? Experimental evidence on the impact of sugary drinks in the classroom. Health Economics, 31(1), 215-232. https://doi.org/10.1002/hec.4444
