楽しい時間を「味わう」と気分は上がる? 良いことをじっくり味わうセイバリングのやり方を研究で調べた

おいしいものを食べても、晴れた日に外を歩いても、気づけば別のことを考えていて、楽しかった実感があまり残らない。そんな日が続くと、気分も上がりにくくなります。良い出来事に意識して注意を向け、その気持ちを長く味わう「セイバリング(味わうこと)」は、20件のランダム化比較試験のまとめで、気分を中くらいの大きさで改善していました。特に「いま」の良いことを味わうやり方は、嫌なことがあった直後にも効果が見られています。やり方と、効果が出にくかった場面をあわせて紹介します。
3行でわかる
- セイバリングは、良い経験に気づき、引き延ばし、強める心の使い方。20件の試験(4,805人)のまとめで、気分の改善は中くらいの大きさ(g=0.51)だった。
- 嫌な出来事の直後に15分間「いま」を味わった大学生は、何もしなかった人より前向きな気分が高かった。過去を思い出すやり方では、一貫した差が出なかった。
- 朝と夜に5分ずつ、良いことを1つ選んで、その気持ちと体の感じに注意を向ける。高齢者の3週間の試験では差がはっきりしない項目も多く、万能ではない。
01 悩みの正体楽しいことがあっても、気分が上がらないのはなぜ?
良い出来事があっても、注意が別のことに向いていると、その気持ちはすぐに薄れてしまうからです。研究では、良い経験に意識して注意を向けることが、前向きな気持ちを強め、長持ちさせると考えられています。
心理学では、良い経験に意識して注意を向け、引き延ばし、強めることを「セイバリング」と呼びます[1]。食べ物をじっくり味わうように、気持ちを味わうイメージです。
味わう対象は、時間の向きで3つに分けられます[3]。
- 過去: 楽しかった思い出を思い返す(例: 旅行の思い出)。
- いま: 今していることの良さに気づく(例: 公園の散歩で、音や日ざしの暖かさを感じる)。
- 未来: これから起きる楽しみを、今のうちに味わう(例: 久しぶりに友だちに会う予定)。
味わい方には、人と分かち合う、記憶に残そうとする、喜びを表情や行動に出す、その瞬間に没頭する、自分をほめる、などがあります[3]。
02 科学的にわかっていることセイバリングで、気分はどれくらい変わる?
20件のランダム化比較試験、4,805人のまとめでは、セイバリングで気分や幸福感が中くらいの大きさで改善していました。ただし、比べる相手や味わう時間の向きによって、効果ははっきりしないこともあります。
4,805人
セイバリングの効果を調べた20件のランダム化比較試験の参加者の合計。まとめた効果の大きさはg=0.51(中くらい)だった[1]
Chenら(2026)[1]
セイバリングをはっきり目的にしたランダム化比較試験20件をまとめました。全体の効果の大きさはg=0.51で、中くらいでした。落ち込みや不安などの症状は軽くなり(g=0.61)、前向きな気持ちや幸福感は高まりました(g=0.50)。一時的な嫌な気分への効果(g=0.33)は、統計的にはわずかに届きませんでした。対面、オンライン、スマホアプリのどれで行っても、差ははっきりしませんでした。
対象: 大人4,805人(大学生、高齢者、がんの患者など) / 限界: 約30%の試験は偏りのリスクが高く、多くが自己申告の質問紙で測っていました。期間の中央値は14日と短く、長期の効果はわかっていません。何もしない組と比べた試験のほうが、効果が大きく出る傾向がありました。
Klibertら(2022)[2]
「なぜ自分は魅力的か」というスピーチをカメラの前でさせる、ストレスのかかる体験の直後に、15分間の課題をしてもらいました。「いま」を味わう課題をした人は、何もしなかった人、ふつうのイメージ課題をした人、楽しい思い出を思い返した人より、前向きな気分が高くなりました。思い出を思い返す課題と、楽しみを計画する課題は、比べる相手によってははっきりした差が出ませんでした。
対象: アメリカの大学生145人(18〜25歳、平均19.35歳) / 限界: 直後の気分だけを測った実験室の研究です。「いま」を味わう課題は、前向きな文章をゆっくり読み味わうものでした。
Panciniら(2026)[3]
60歳以上の人が、3週間で6つのオンライン課題に取り組みました。過去・いま・未来の良いことを味わう組と、前向きな気持ちを扱う別の課題の組を比べました。落ち込みや嫌な気分は、時間がたつにつれて両方の組で減りました。味わう組のほうが改善が一貫していたものの、組の間の差は多くの項目で統計的にはっきりしませんでした。
対象: イタリアの健康な高齢者76人(平均69.9歳) / 限界: 人数が少なく、比べた相手も前向きな課題でした。人生の満足度は変わらず、著者らは3週間では短かったと考えています。
Kloosら(2026)[4]
高齢者を対象にした感謝とセイバリングの研究11件をまとめました。多くの研究で幸福感の改善や症状の軽減が見られましたが、すべての項目で一貫していたわけではありません。研究で使われたやり方には、朝と夜に5分ずつ良いことを味わう1週間の課題や、15分の「味わう散歩」がありました。
対象: 60歳以上を対象にした11件の研究 / 限界: 研究の数が少なく、著者らは「しっかりした結論はまだ出せない」としています。1日2回の課題を最後までやり通した人は46%でした。
| 味わう向き | 例 | 研究での結果 |
|---|---|---|
| いま | 今していること(読書、散歩、食事) | ストレスの直後でも前向きな気分が高まった[2] |
| 過去 | 楽しかった旅行の思い出 | ストレスの直後は、対照の課題より一貫して高いとはいえなかった[2] |
| 未来 | 来週の楽しみな予定 | 何もしないよりは高いが、比べる相手によっては差なし[2] |
03 今日からできる小さな一歩セイバリングは、どうやればいい?
1日1つ、良いことを選び、その気持ちと体の感じにゆっくり注意を向けます。研究で使われた形を参考に、朝と夜に5分ずつ、まず1週間試します。嫌なことがあった日は、「いま」の良いことを味わいます。
良いことを1つ選ぶ(過去・いま・未来のどれでも)
「今飲んでいるお茶がおいしい」「先週の楽しかった会話」「週末の予定」など、小さなことで十分です。研究でも、過去・いま・未来の良いことが使われていました[3][4]。
所要 30秒
気持ちと体の感じに、ゆっくり注意を向ける
「どんな気持ちか」「体のどこがどう感じるか」に気づきます。急がず、その良さを引き延ばすつもりで味わいます。研究の課題でも、気持ちと体の感覚に注意を向けるよう求めていました[3]。
所要 3〜5分
朝と夜に5分ずつ、1週間続けてみる
高齢者を対象にした研究では、朝と夜に5分ずつ、1週間の課題が使われました[4]。まとめの研究でも、期間の中央値は14日でした[1]。
所要 1日10分
嫌なことがあった直後は、「いま」の良さを探す
ストレスの直後に効果が見られたのは、思い出すやり方より、「いま」を味わうやり方でした[2]。研究では前向きな文章をゆっくり読み味わいました。好きな文章や、外の空気、温かい飲み物の良さなどに、15分ほど意識を向けます。
所要 15分
04 続けるためのコツ毎日続かないときや、効果を感じないときは?
1日2回が負担なら、1回や散歩のついでにして構いません。効果は中くらいで、人によっては差が出にくいため、ほかの方法と組み合わせて考えます。
- 研究でも、1日2回の課題を最後までやり通せた人は約半分だった[4]。続けやすさを優先し、散歩のついでに15分味わうだけでもよい。
- 人と分かち合う、自分をほめるなど、味わい方を変えてみる[3]。
- 感謝を書く方法は感謝日記の研究、未来を思い描く方法は「最高の未来の自分」を書く研究、人のための行動は小さな親切の研究で紹介しています。
- 嫌なことが頭から離れない日は、考えごとのくり返しを止める研究も参考に。
- 落ち込みが2週間以上続く、眠れない、何も楽しめない状態が続くときは、医療機関や専門家に相談してください。
05よくある質問
セイバリングとマインドフルネスは、何が違いますか?
マインドフルネスは、良いことも嫌なことも評価せずに受け止める練習です。セイバリングは、良い経験に注意を向けて、その気持ちを引き延ばし、強めることに焦点を当てます。Chenら(2026)のまとめでは、セイバリングをはっきり目的にした試験だけを集めて、気分が中くらいの大きさで改善したことを示しています。
過去の楽しい思い出を思い返すのでも効果はありますか?
場面によります。Klibertら(2022)の実験では、ストレスのかかる体験の直後に楽しい思い出を15分思い返しても、対照の課題より一貫して前向きな気分が高まるとはいえませんでした。一方、「いま」の良いことを味わった人は前向きな気分が高まりました。嫌なことの直後は「いま」、落ち着いた時間には過去の思い出も、と使い分けられます。
どれくらい続ければ効果が出ますか?
研究の多くは短期間で、期間の中央値は14日でした(Chenら、2026)。高齢者を対象にした3週間の試験では、人生の満足度は変わらず、著者らは期間が短かった可能性を挙げています(Panciniら、2026)。まず1〜2週間試し、気分の変化を自分で確かめるのが現実的です。
出典
- Chen, P. H., Tung, H. H., Wu, Y. C., & Sie, J. (2026). Effectiveness of savoring interventions: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Applied Psychology: Health and Well-Being, 18(2), e70134. https://doi.org/10.1111/aphw.70134
- Klibert, J. J., Sturz, B. R., LeLeux-LaBarge, K., Hatton, A., & Smalley, K. B. (2022). Savoring interventions increase positive emotions after a social-evaluative hassle. Frontiers in Psychology, 13, 791040. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2022.791040
- Pancini, E., Cremaschi, G., Degani, M., Cisotto, E., & Villani, D. (2026). Savor-Aging: The art of savoring positive emotions in older adulthood — A randomized controlled trial. Applied Psychology: Health and Well-Being, 18(4), e70184. https://doi.org/10.1111/aphw.70184
- Kloos, N., Baxter, R., Edvardsson, D., Gerritsen, D., & Bohlmeijer, E. (2026). Gratitude and savoring interventions for older adults: A narrative review. The Gerontologist, 66(11), gnag206. https://doi.org/10.1093/geront/gnag206


