「できる気がしない」作業ほど後回しにするのはなぜ?「自己効力感」と先延ばしの研究で調べた

得意な作業はすぐ終わるのに、やり方がわからない作業や、うまくできる気がしない作業だけが残っていく。そんな経験は多くの人にあります。研究では、「自分にできる」という見込みが低いほど先延ばしが多いことが、くり返し報告されています。ただし、自信をつければ先延ばしが直る、とまではわかっていません。
3行でわかる
- 「自分ならできる」という見込みを、心理学では自己効力感と呼びます。691の相関をまとめたメタ分析で、自己効力感は先延ばしの強く一貫した予測要因の1つでした。
- 3,071人の大学教員を約5〜6か月ごとに3回追跡した研究でも、自信の高い人ほど先延ばしが少なく、自信が上がった人ほど先延ばしが減っていました。
- ただし、自信の低さが先延ばしを起こすという向きは確かめられていません。同じ研究では、心の疲れが先に来て、あとで自信の低下と先延ばしの増加が続いていました。
01 悩みの正体自信のない作業ほど後回しになるのはなぜ?
「やってもうまくいかなそう」と感じると、その作業に手をつける理由が弱くなるためと考えられています。先延ばしは、やる気の計算の中で「うまくいく見込み」が小さくなったときに起きやすくなります。
先延ばしの研究をまとめたSteel(2007)は、先延ばしを「時間的動機づけ理論」で説明しました[1]。人がある作業にどれだけやる気を持てるかは、いくつかの要素の組み合わせで決まる、という考え方です。
その要素の1つが「うまくいく見込み」です。ほかに、結果の価値、作業の嫌さ、締め切りまでの遠さ、目の前の誘惑への弱さが入ります[1][3]。見込みが小さいと、同じ作業でも「今やる理由」が弱まり、すぐ楽しめる別のことに負けやすくなります。
完璧にやりたい気持ちとの関係は完璧主義と先延ばしの研究に、嫌な気分を避けるために後回しにする仕組みは先延ばしと感情の研究にまとめています。この記事は「できる気がしない」側から見た理由です。
02 科学的にわかっていること自信の低さと先延ばしは本当に関係ある?
関係は、国や職業をこえて何度も報告されています。ただしほとんどが相関の研究で、追跡研究でも「自信が低いから先延ばしする」という向きは確かめられていません。
Steel(2007)[1]
先延ばしの原因と結果を、691の相関をまとめたメタ分析(多くの研究を統合する分析)で調べました。作業の嫌さ、締め切りまでの遠さ、自己効力感、衝動性、まじめさ(誠実性)とその一部である自制心などが、強く一貫した予測要因でした。一方、神経質さや反抗心とのつながりは弱いものでした。
対象: 691の相関 / 限界: 多くが相関の研究で、原因と結果の向きは決められない。
Hallら(2019)[2]
69か国の大学教員3,071人を、5〜6か月おきに3回調べました。最初の時点で自己効力感が高い人ほど、先延ばしが少なく(相関 −0.26)、期間中に自己効力感が上がった人ほど先延ばしが減っていました(変化どうしの相関 −0.46)。ところが、どちらが先に影響するかを調べる分析では、自己効力感と先延ばしの間にはっきりした向きは見つかりませんでした。代わりに、心の疲れ(情緒的な消耗)が強い人ほど、次の時点で自己効力感が下がり、先延ばしが増えていました。
対象: 大学教員3,071人(女性70%) / 限界: すべて自己申告。疲れからの影響は統計的に有意でも小さい(β=−0.04〜−0.05)。
Tosuntaş(2026)[3]
トルコの大学生1,003人を調べ、完璧主義や「自分はだめだ」という自動的な考えが、どんな道筋で先延ばしにつながるかを分析しました。このうち「自分はだめだ」という考えは、先延ばしに直接つながるのではなく、自己効力感を下げることを通して先延ばしと結びついていました。モデル全体で先延ばしのばらつきの62%を説明し、予測に最も強く効いたのは自己効力感でした。
対象: 大学生1,003人(女性71.5%、平均21.9歳) / 限界: 1回だけの調査。著者自身が、逆向き(先延ばしが自信を下げる)の説明とも区別できないと書いている。
Radら(2025)[4]
イラン南部の医療系大学の学生290人を調べました。学業の自己効力感が高い学生ほど先延ばしが少なく(相関 −0.648)、気持ちの調整が苦手な学生ほど先延ばしが多い(相関 0.701)という結果でした。
対象: 学生290人 / 限界: 1つの地域・1回の調査で、相関が大きく出やすい条件の可能性もある。
| 研究 | 調べ方 | わかったこと |
|---|---|---|
| Steel(2007) | 691の相関のメタ分析 | 自己効力感は強く一貫した予測要因 |
| Hallら(2019) | 3,071人を3回追跡 | 関係はあるが、向きは不明。疲れが先に来ていた |
| Tosuntaş(2026) | 1,003人に1回調査 | 否定的な考えは自信の低さを通して先延ばしと結びつく |
| Radら(2025) | 290人に1回調査 | 自信と先延ばしの相関 −0.648 |
この表は、上の研究をもとにこのサイトで整理したものです。関係は一貫していますが、どれも「自信をつけたら先延ばしが減った」ことを実験で確かめたものではありません。
03 今日からできる小さな一歩できる気がしない作業に手をつけるには?
「これならできる」と思える大きさまで作業を小さくし、疲れている日はまず休むのが近道です。研究の結果から考えた工夫で、効果を直接確かめたものではありません。
「できる自信」を10点満点でつける
作業を見て、うまくできる自信を0〜10点でつけます。7点に届かなければ、7点以上になるまで最初の一歩を小さくします。「報告書を書く」なら「見出しを3つ書く」です。分け方は大きな作業の分け方の研究にまとめています。
所要 2分
わからない所を1つだけ聞く・調べる
自信が低い理由が「やり方がわからない」なら、気合いでは埋まりません。詰まっている点を1行で書き、人に聞くか、手本を1つ探します。
所要 10分
疲れ切っている日は、先に休む
追跡研究では、心の疲れが先に来て、あとから自信の低下と先延ばしが続いていました[2]。くたくたの日に難しい作業を始めようとするより、睡眠や休みを先に取るほうが筋が通っています。
所要 今夜
04 続けるためのコツ自信が持てないまま、どう続ける?
自信は「できた」経験のあとについてくることが多いと考え、小さく終わらせた回数を数えるのが現実的です。一人で改善しないときは、効果が確かめられた心理療法もあります。
- 終わったことを記録する: 「見出しを3つ書いた」のような小さな完了を書き残すと、次に同じ作業を見たときの見込みの材料になります。
- 自分を責める考えに気づく: 「どうせ自分には無理」という考えは、自信の低さを通して先延ばしと結びついていました[3]。考えを消そうとせず、「今そう思っている」と気づくだけでも区別しやすくなります。
- 長く続くなら専門家の手も借りる: 12件の比較試験(718人)をまとめたメタ分析では、先延ばしへの心理的な支援の効果は小さめ(g=0.34)でしたが、認知行動療法の3件では中くらい(g=0.55)でした[5]。自分で試してもうまくいかないときの考え方は先延ばしが直らないときの研究にまとめています。
- 忙しい時期は基準を下げる: ストレスが多い時期の立て直し方はストレスと先延ばしの研究にあります。
05よくある質問
自信がないと、なぜ先延ばししやすいの?
「やってもうまくいかなそう」という見込みが、手をつける理由を弱めるためと考えられています。691の相関をまとめたメタ分析では、「自分にできる」という感覚(自己効力感)は先延ばしの強く一貫した予測要因の1つでした。
自信がつけば、先延ばしは直る?
そうとは言い切れません。3,071人の大学教員を3回追跡した研究では、自信が高い人ほど先延ばしが少ない関係はありましたが、どちらが原因かを調べる分析では、自信から先延ばしへのはっきりした影響は見つかりませんでした。
疲れているときに先延ばしが増えるのは関係ある?
関係があるかもしれません。同じ追跡研究では、心の疲れ(情緒的な消耗)が強い人ほど、数か月後に自信が下がり、先延ばしが増えていました。ただし影響の大きさは小さいものでした。
出典
- Steel, P. (2007). The nature of procrastination: a meta-analytic and theoretical review of quintessential self-regulatory failure. Psychological Bulletin, 133(1), 65-94. https://doi.org/10.1037/0033-2909.133.1.65
- Hall, N. C., Lee, S. Y., & Rahimi, S. (2019). Self-efficacy, procrastination, and burnout in post-secondary faculty: An international longitudinal analysis. PLoS ONE, 14(12), e0226716. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0226716
- Tosuntaş, Ş. B. (2026). Self-efficacy as a common pathway: How non-cognitive individual differences shape academic procrastination. Journal of Intelligence, 14(8), 188. https://doi.org/10.3390/jintelligence14080188
- Rad, H. F., Bordbar, S., Bahmaei, J., Vejdani, M., & Yusefi, A. R. (2025). Predicting academic procrastination of students based on academic self-efficacy and emotional regulation difficulties. Scientific Reports, 15, 3003. https://doi.org/10.1038/s41598-025-87664-7
- Rozental, A., Bennett, S., Forsström, D., Ebert, D. D., Shafran, R., Andersson, G., & Carlbring, P. (2018). Targeting procrastination using psychological treatments: A systematic review and meta-analysis. Frontiers in Psychology, 9, 1588. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2018.01588


