新しい習慣はいつ始めると続きやすいのか。「フレッシュスタート効果」の研究

「今日から始めよう」と思っても、「どうせ続かないから、月曜からでいいか」と先延ばしにしてしまうことがあります。でも、始めるタイミングを変えるだけで、本当に続きやすくなるのでしょうか。心理学ではこれを「フレッシュスタート効果」と呼び、新年や誕生日のような「節目」が人の行動にどう影響するかが研究されています。
3行でわかる
- 米国の4大学の職員6,082人を対象にした実験では、退職金の増額時期を感謝祭や正月などの「節目」の日付で示すと、将来の増額を選ぶ人の割合が約50%多くなり、効果は8か月間持続した。
- 新年の抱負を立てた1,066人を1年間追跡した研究では、12か月後に「目標を達成できた」と答えた人は54.7%。「やめる」目標より「始める」目標の方が成功率が高かった(58.9% 対 47.1%)。
- ただし効果は万能ではない。約500万点の購買データを分析した研究では、禁煙グッズなど自分を変える商品は1月に売れが増えたが、環境に優しい商品の売れ行きは1月はむしろ有意に少なかった。
01「節目」が、新しい自分へのスイッチになる
新年・月初・誕生日などの「節目」は、今までの自分と区切りをつけ、新しい自分として行動を始めやすくすると考えられています。
「今度の月曜から」「来月から」と先延ばしにするのは、ただの言い訳ではないかもしれません。心理学では、新年、誕生日、月初、学期の始まりのような「節目(テンポラル・ランドマーク)」が訪れると、人は「今までの自分」から心理的に距離を置き、「新しい自分」として目標に向かいやすくなるとされています。
節目は、過去の失敗やだらけていた自分をいったん区切り、まっさらな気持ちで行動を始めるきっかけになると説明されています。この考え方は「フレッシュスタート効果」と呼ばれ、ダイエットや運動、貯蓄などさまざまな行動の研究で調べられてきました。
02科学的にわかっていること
将来の行動を「節目」の日付で考えてもらうと、先延ばしにしがちな決断を今のうちに決めやすくなることが、現場での実験で確認されています。
Beshearsら(2021)[1]
米国の4つの大学に勤める6,082人に、退職金の積立額を増やすかどうかを尋ねる手紙を送った。増額を始める時期の案を「2か月後」のように単純な月数で示す代わりに、感謝祭・正月・誕生日などの節目の日付で示したところ、将来時点での増額を選ぶ人の割合が約50%多くなった。実際の平均貢献率も、2013年11月から2014年6月までの8か月間でみると、通常の案内を受けた人たちより23〜26%高かった。
対象: 米国4大学の職員6,082人 / 限界: 感謝祭・マーティン・ルーサー・キング・デーなど「節目でないはずの」祝日を使った比較群では効果が見られなかった一方、ニューヨークの元日を使った群は予想外に効果がほぼゼロだった。
Oscarssonら(2020)[2]
新年の抱負を立てた1,066人を1年間、月ごとに追跡した。12か月後に自分で「目標を達成できた」と答えた人は54.7%だった。目標を「禁煙する」のように何かをやめる形(回避型)で立てた人の成功率は47.1%だったのに対し、「運動を始める」のように何かを始める形(接近型)で立てた人は58.9%と、統計的に有意に高かった。
対象: スウェーデンの新年の抱負参加者1,066人、1年間の追跡 / 限界: 成功・失敗の判定は本人の自己報告による。
Haggarら(2025)[3]
英国の大手スーパーの購買データ(2012年1月〜2015年11月の35か月分、約2,400万ポンド・約500万点の商品購入)を分析した。禁煙補助剤や減量商品など「自分を変える」ための商品の売れ行きは1月に有意に増えた一方、環境に優しい商品の売れ行きは1月はむしろ有意に少なかった(統計的に有意、p=0.035)。
対象: 英国の小売購買データ、35か月分・約500万点の商品購入 / 限界: 1つの小売企業のデータであり、購入が本人の意図を必ずしも反映しない。
節目が行動を変える仕組みについては、節目が「過去の自分」「今の自分」「これからの自分」を心理的に区切るためだと説明されています[4]。ただし、この区切りがいつでも強い動機になるとは限らず、価値観に直結しない行動では効果が薄れることもあると指摘されています。
03今日からできる小さな一歩
次に来る節目の日付を具体的に決め、「その日から何を始めるか」を1つだけ書いておくと、行動に移しやすくなります。
次の節目の日付を1つ選ぶ
今日が何日かは関係ありません。次の月初・給料日・誕生日・連休明けなど、はっきりした日を1つ選びます。
所要 1分
「やめる」でなく「始める」形で書く
「夜更かしをやめる」ではなく「23時に電気を消す」のように、始める行動の形に言い換えます。
所要 2分
その日の予定をカレンダーに入れる
スマホのカレンダーに「〇月〇日から、〇〇を始める」と入れ、通知をオンにします。
所要 1分
04続けるためのコツ
節目は「始めるきっかけ」にすぎず、続く保証にはなりません。最初の数週間を乗り切る工夫を節目と組み合わせます。
- 節目に向けて「始める日」は1つに絞ります。複数の目標を同じ日に始めると、続きにくくなります。
- 「もし〇〇したら、△△する」のように、きっかけと行動を前もって結びつけておくと続けやすくなります。
- 自分の価値観に直結しない行動は、節目だけでは増えにくいことがわかっています。なぜその行動をしたいのかを具体的にしておきます。
- うまくいかなかった日があっても、次の節目(次の月曜など)でやり直せます。
05よくある質問
フレッシュスタート効果とは何ですか?
新年、誕生日、月初などの「節目」が訪れると、人は今までの自分と区切りをつけ、新しい気持ちで目標に向かいやすくなる現象です。節目が心理的に「過去の自分」と「これからの自分」を分けると考えられています。
本当に効果はあるの?
米国の4大学の職員6,082人を対象にした実験で、将来の行動を節目の日付で示すと、先延ばしにしがちな決断を選ぶ人が約50%多くなり、効果は8か月間持続しました。
どんな行動にも効果があるの?
いいえ。禁煙や減量など自分を変えるための行動では効果が見られましたが、英国の購買データの分析では、環境配慮型の買い物は1月でも増えませんでした。価値観に直結しない行動には効果が薄いと考えられています。
節目を逃したらどうすればいい?
次の節目まで待つ必要はありません。月初、次の月曜、給料日など、自分にとって区切りになる日を新しく選べば、同じように使えます。
出典
- Beshears, J., Dai, H., Milkman, K. L., & Benartzi, S. (2021). Using fresh starts to nudge increased retirement savings. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 167, 72-87. https://doi.org/10.1016/j.obhdp.2021.06.005
- Oscarsson, M., Carlbring, P., Andersson, G., & Rozental, A. (2020). A large-scale experiment on New Year's resolutions: Approach-oriented goals are more successful than avoidance-oriented goals. PLoS ONE, 15(12), e0234097. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0234097
- Haggar, P., Sachdev, Y., Whitmarsh, L., Goulding, J., Smith, A., & Smith, G. (2025). New year as a moment of change in pro-environmental product consumption. Frontiers in Psychology, 16, 1550091. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2025.1550091
- Dai, H., & Li, C. (2019). How experiencing and anticipating temporal landmarks influence motivation. Current Opinion in Psychology, 26, 44-48.(心理的メカニズムの説明は要旨で確認) https://doi.org/10.1016/j.copsyc.2018.04.012

