運動したのに気分が上がらない、かえってつらかったら? 運動の強さと気分の研究でわかった立て直し方

気分転換のつもりで走ったのに、苦しいだけで気分は晴れなかった。むしろ前より落ち込んだ。そんな経験があると「自分には運動が向いていない」と思いがちです。でも研究では、運動中の気分を左右するいちばんの要因は、性格や向き不向きより「強さ」でした。次は強さを少し落とすだけで、結果が変わる可能性があります。
3行でわかる
- 息が上がって会話がしにくくなる強さ(換気閾値)を超えると、ほとんどの人で運動中の気分が悪くなることが、33本の研究のレビューで示されています。
- 強さを自分で選ぶと気分がよいのは、主に強さが上がりすぎないからでした。同じ強さなら、自分で選んでも人に決められても差は小さめでした。
- 次は会話できるペースに落とし、途中で気分を−5〜+5で確かめます。運動中の気分がよいほど、その後も運動が続きやすいという研究があります。
01 悩みの正体運動したのに気分が上がらないのはなぜ?
運動が強すぎた可能性が高いです。呼吸が急に荒くなり始める強さ(換気閾値)を超えると、多くの人で運動中の快さが下がることがわかっています。
運動の強さを上げていくと、ある点から呼吸が急に荒くなります。この境目を「換気閾値」と呼びます。ここを超えると、体は酸素だけではエネルギーをまかないきれなくなります。
Ekkekakisら(2011)は、1999〜2009年に出た33本の論文をまとめました[1]。境目より弱い運動では、ほとんどの人で気分がよい方向に変わりました。境目の近くでは、よくなる人と悪くなる人に大きく分かれました。境目を超えると、ほぼ全員で気分が悪い方向に変わっていました。
| 運動の強さ | 運動中の気分(33本の研究のまとめ)[1] |
|---|---|
| 換気閾値より弱い | ほとんどの人で快い方向に変わる |
| 換気閾値の近く | 人によって大きく分かれる |
| 換気閾値より強い | ほぼ一様に不快な方向に変わる |
つまり、気分が上がらなかったのは「運動が合わない体質」だからとは限りません。その日の強さが、自分の境目を超えていただけかもしれません。
02 科学的にわかっていることどんな運動なら、気分が下がりにくい?
自分の境目を超えない強さの運動です。強さを自分で選ぶと気分がよい傾向がありますが、その差は主に強さの違いから生まれていました。
Oliveiraら(2015・メタ分析)[2]
「自分で強さを選んだ運動」と「決められた強さの運動」を比べた10本の研究をまとめました。決められた強さが換気閾値を超えていたとき、自分で選んだ運動より気分が大きく悪くなっていました(標準化平均差 −1.30)。一方、両方が同じ強さのときの差はわずかでした(−0.10)。研究者は、気分を決めるいちばんの要因は「自分で選んだかどうか」より強さだと結論づけています。
対象: 10歳以上の、運動習慣のある人とない人を含む研究10本 / 限界: 研究どうしのばらつきが大きく、論文の偏りの可能性も指摘されています。
Nivenら(2021・メタ分析)[3]、Oliveiraら(2018・メタ分析)[4]
強い運動と休みをくり返す「高強度インターバル運動」を、一定の中くらいの強さの運動と比べた33本の研究をまとめた分析では、インターバル運動のほうが運動中も運動後も気分がよくない結果でした。ただし運動後の「楽しさ」は、インターバル運動のほうが高く出ました。8本の研究をまとめた別の分析では、気分の差はごくわずかでした。強い運動の評価は、研究の間で食い違っています。
対象: 運動の種類を比べた実験(33本と8本) / 限界: どちらの分析も、方法のばらつきが結果をにごらせていると認めています。
RhodesとKates(2015・システマティックレビュー)[5]
24本の研究をまとめると、中くらいの強さの運動「中」の気分がよい方向に変わる人ほど、その後も運動を続けていました。一方、運動「後」の気分は、その後の運動量と関係がありませんでした。
対象: 運動中・運動後の気分とその後の運動を調べた研究24本 / 限界: まとめられた研究の方法はさまざまで、気分が原因とまでは言い切れません。
24本
「運動中の気分がよい人ほど、その後も運動を続けていた」ことをまとめたレビューの研究数[5]
運動中の気分は、その場のつらさだけでなく「また運動したいか」にも関わります。だからこそ、つらかった日の後は、根性で同じ強さをくり返すより、強さを下げるほうが理にかなっています。
03 今日からできる小さな一歩次の運動で、気分を下げないためには?
次は「話しながら続けられる」ペースに落とし、運動の途中で気分を−5〜+5の数字で確かめます。0を下回りそうなら、その場で強さを下げます。
会話できるペースまで落とす
歩きながら、または走りながら、短い文を声に出してみます。楽に話せるなら、境目より下の強さと考えられます。話すのが苦しくなったら、ペースを落とします。息のしかたで強さを測るこの方法は「トークテスト」と呼ばれ、換気閾値の目安になると報告されています[6]。
所要 運動中に10秒
途中で気分を−5〜+5で採点する
「とても悪い(−5)」から「とてもよい(+5)」までの11段階で、今の気分を心の中で採点します。研究で使われる「フィーリング・スケール」という方法です。+1〜+3あたりが換気閾値の目安、0付近はそれより強い強さの目安とされています[6]。
所要 5分ごとに5秒
強さは自分で決める
アプリや動画の指示どおりに追い込むより、その日の体調で強さを選びます。自分で選んだ強さは、決められた強さより気分がよい傾向がありました[2]。
所要 0分(運動前に決めるだけ)
04 続けるためのコツ強さを落としても気分が晴れないときは?
運動の種類や時間帯を変えてみます。それでも気分の落ち込みが長く続く、眠れない・食べられないといった状態があるなら、運動で何とかしようとせず専門家に相談してください。
- 「楽しい」を基準に種類を選ぶ: 境目の近くでは、同じ強さでも気分がよくなる人と悪くなる人に分かれます[1]。散歩、自転車、ダンスなど、苦しさを感じにくいものを探します。
- 強い運動が好きなら無理にやめない: インターバル運動の後は楽しさが高かった研究もあります[3]。終わった後に気分がよい人は、そのまま続けてかまいません。
- 休んだら、強さを下げて再開する: 一度途切れた運動の再開のしかたは「運動の習慣が途切れてしまったら、どう再開する?」にまとめています。
- 気分より先に小さく動く: 落ち込んで動けない日は、運動にこだわらず小さな行動から始める方法もあります(行動活性化の研究)。
05よくある質問
運動したのに、かえって気分が悪くなるのはおかしい?
おかしくありません。33本の研究をまとめたレビューでは、呼吸が急に荒くなる強さ(換気閾値)を超えると、ほぼ全員で運動中の気分が悪い方向に変わっていました。強さを落とせば、気分がよい方向に変わる人がほとんどです。
気分が上がる運動の強さの目安は?
楽に会話できるくらいのペースが目安です。話すのが苦しくなる強さは、換気閾値に近いか超えていると考えられます。運動の途中で気分を−5〜+5で採点し、0を下回りそうなら強さを下げます。
きつい運動のほうが、終わった後の爽快感は大きいのでは?
研究の結果は分かれています。33本の研究をまとめた分析では、高強度インターバル運動は運動後の気分も中くらいの運動より低い一方、楽しさは高く出ました。8本の研究をまとめた別の分析では差はごくわずかでした。終わった後に気分がよいなら続けてかまいませんが、つらかったなら強さを下げるのが無難です。
運動しても気分が晴れない日が続くときは?
運動の種類や時間を変えても気分の落ち込みが長く続く、眠れない・食べられないといった状態があるなら、運動だけで何とかしようとせず、医療機関や専門家に相談してください。
出典
- Ekkekakis, P., Parfitt, G., & Petruzzello, S. J. (2011). The pleasure and displeasure people feel when they exercise at different intensities: decennial update and progress towards a tripartite rationale for exercise intensity prescription. Sports Medicine, 41(8), 641–671. https://doi.org/10.2165/11590680-000000000-00000
- Oliveira, B. R. R., Deslandes, A. C., & Santos, T. M. (2015). Differences in exercise intensity seems to influence the affective responses in self-selected and imposed exercise: a meta-analysis. Frontiers in Psychology, 6, 1105. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2015.01105
- Niven, A., Laird, Y., Saunders, D. H., & Phillips, S. M. (2021). A systematic review and meta-analysis of affective responses to acute high intensity interval exercise compared with continuous moderate- and high-intensity exercise. Health Psychology Review, 15(4), 540–573. https://doi.org/10.1080/17437199.2020.1728564
- Oliveira, B. R. R., Santos, T. M., Kilpatrick, M., Pires, F. O., & Deslandes, A. C. (2018). Affective and enjoyment responses in high intensity interval training and continuous training: A systematic review and meta-analysis. PLoS ONE, 13(6), e0197124. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0197124
- Rhodes, R. E., & Kates, A. (2015). Can the affective response to exercise predict future motives and physical activity behavior? A systematic review of published evidence. Annals of Behavioral Medicine, 49(5), 715–731. https://doi.org/10.1007/s12160-015-9704-5
- Bok, D., Rakovac, M., & Foster, C. (2022). An examination and critique of subjective methods to determine exercise intensity: The Talk Test, Feeling Scale, and Rating of Perceived Exertion. Sports Medicine, 52(9), 2085–2109. https://doi.org/10.1007/s40279-022-01690-3


