人の機嫌がうつってしまうのはなぜ? 表情・声・ストレスが伝わる「感情の伝染」を研究で調べた

不機嫌な人のそばにいると、自分までイライラしてくる。家族が落ち込んでいると、こちらも沈んでくる。気にしすぎだと自分を責める人もいますが、それだけではありません。人は相手の表情や声を、気づかないうちに少しまねています。ストレスは体の反応ごと伝わることもあります。研究でわかっている仕組みと、まだ揺れている部分を整理しました。
3行でわかる
- 怒った顔や笑った顔を30ミリ秒(1秒の約30分の1)見せるだけで、本人が気づかないまま、見た人の顔の筋肉が同じ向きに動いた。
- 人がストレスを受ける様子を見ていただけの211人のうち、26%でストレスホルモンがはっきり上がった。相手がパートナーだと40%、知らない人だと10%だった。
- ただし「表情をまねると気分も変わる」という効果は小さく、有名なペンをくわえる実験は17の研究室で再現されなかった。SNSでの伝染も、ごく小さな変化だった。
01 悩みの正体人の機嫌がうつるのはなぜ?
人の機嫌がうつるのは、相手の表情や声の調子を、意識しないうちにまねてしまうからだと考えられています。心理学では、これを「感情の伝染」と呼びます。
感情の伝染は、相手と同じ気持ちに近づいていく現象です。相手の気持ちを頭で考えて共感するのとは、少し違います。
研究者は、次のような流れを考えています。
- まねる: 相手の表情や声の調子を、自分でも気づかないうちに少しまねる。
- 体が反応する: 相手のストレスを見ると、自分の体にもストレスの反応が起きることがある。
- 気分が近づく: その結果、自分の気分も相手に近づく。
このうち「まねる」と「体が反応する」は、実験ではっきり確かめられています。一方で、まねた表情がどこまで気分を変えるのかは、まだ議論が続いています。
02 科学的にわかっていること機嫌がうつる仕組みは、研究で確かめられている?
顔の筋肉が相手の表情に合わせて動くこと、声の調子で気分が変わること、人のストレスを見て自分のストレスホルモンが上がることは、実験で確かめられています。ただし、表情から気分が変わる効果は小さいことがわかっています。
Dimbergら(2000)[1]
笑った顔・怒った顔・無表情の顔を30ミリ秒だけ見せ、すぐに無表情の顔で隠しました。参加者は何を見たのか意識できませんでした。それでも、笑顔を見たときは笑うときに使う頬の筋肉が、怒った顔を見たときは眉をひそめる筋肉が動いていました。
対象: 実験室の参加者。顔の筋肉の電気信号を測った / 限界: 筋肉の小さな動きを測った研究で、気分まで変わったかは調べていない。
NeumannとStrack(2000)[2]
参加者は、文章の理解力テストだと思って、感情とは関係のない哲学の文章の朗読を聞きました。朗読の声が少し楽しげだと、聞いた人の気分も明るくなりました。少し悲しげな声だと、気分は沈みました。文章を声に出してくり返した人は、話し手の声の感情を自然にまねていました。
対象: 実験室の参加者。複数の実験 / 限界: 実験室で短い朗読を聞いた直後の気分で、ふだんの会話で同じことが起きるかは別に確かめる必要がある。
Engertら(2014)[3]
1人が面接と暗算という、ストレスのかかる課題を受けます。もう1人は、それをマジックミラー越しか、ライブ映像で見ているだけです。見ていた人の26%で、ストレスホルモン(コルチゾール)がはっきり上がりました。相手がパートナーだと40%、知らない人だと10%でした。
対象: ドイツの2つの研究機関の共同実験。課題を受けた人151人、見ていた人211人 / 限界: 唾液のホルモンを測った実験で、見ていた人の気分の変化までは同じように測れていない。
Kramerら(2014)[4]
Facebookの利用者68万9,003人を対象に、1週間、ニュースフィードの前向きな投稿か後ろ向きな投稿を減らしました。前向きな投稿を減らされた人は、自分の投稿で前向きな言葉が0.1%減りました。逆向きの変化も起きましたが、効果の大きさ(d)は0.001〜0.02と、著者自身が「小さい」と書く値でした。
対象: 英語でFacebookを使う人。2012年1月11〜18日 / 限界: 測ったのは投稿の言葉で、気分そのものではない。本人の同意を得ずに行われ、掲載誌は後に「懸念の表明」を出した。
Colesら(2019)/ 17の研究室による追試(2016)[5][6]
表情を作ると気分が変わるかを調べた138の研究(286の結果)をまとめると、効果はあるものの小さく、条件によってばらつきました。有名な「ペンを歯でくわえて笑顔の形を作ると、漫画がおもしろく感じる」実験は、17の研究室で同じ手順で試しても再現されませんでした。
対象: 表情と気分の研究の総まとめと、事前に手順を登録した追試 / 限界: 追試はペンをくわえる方法を確かめたもので、表情と気分の関係すべてを否定したわけではない。
26%
人がストレスを受ける様子を見ていただけで、ストレスホルモンがはっきり上がった人の割合(211人中)[3]
ストレスのうつりやすさは、相手との関係や見え方で変わりました[3]。
| 見ていた条件 | ストレスホルモンが上がった人 |
|---|---|
| 全体 | 26% |
| 相手がパートナー | 40% |
| 相手が知らない人 | 10% |
| マジックミラー越しに直接見た | 30% |
| ライブ映像で見た | 24% |
近しい人のストレスほど、うつりやすい傾向がありました。画面越しでも、4人に1人ほどで反応が出ていました。
03 今日からできる小さな一歩人の不機嫌に引きずられないためには?
まず「この気分は、さっき話した相手から来たのかもしれない」と気づくことです。機嫌がうつる反応は自動で起きるので、止めるより、気づいて区別するほうが現実的です。
気分が変わったら、直前に誰といたかを思い出す
急にイライラしたり沈んだりしたら、直前の会話や相手の表情を振り返ります。原因が自分の中にないとわかるだけで、自分を責めずにすみます。
所要 30秒
家族やパートナーがつらいときは、自分の疲れにも気を配る
実験では、パートナーのストレスを見た人の40%で、自分のストレスホルモンが上がりました[3]。支える側も休む時間をとります。
所要 10分
04 続けるためのコツ機嫌がうつりやすい自分は、おかしい?
おかしくありません。相手の表情や声に合わせて体が反応するのは、多くの人に起きる自然な反応です。ただし、うつりやすさには人による違いがあります。
- 人による違いがある。同じ場面を見ても、ストレスホルモンが上がった人は一部でした。共感しやすさの違いも関わっていました[3]。
- 作り笑顔に頼りすぎない。表情を作って気分を変える効果は小さいとわかっています[5]。
- SNSを悪者にしすぎない。大規模な実験でも、投稿の言葉の変化はごく小さなものでした[4]。それでも疲れるなら、SNSを休む研究が参考になります。
- 自分の体調も見る。寝不足のときはイライラしやすくなります。理由は寝不足とイライラの研究で紹介しています。
05よくある質問
人の機嫌がうつりやすいのは、性格のせいですか?
性格だけのせいではありません。相手の表情や声を無意識にまねる反応は、多くの人に起きます。ただ、人のストレスを見てホルモンが上がるかどうかには個人差があり、共感しやすさの違いも関わっていました。
知らない人の不機嫌もうつりますか?
うつることはありますが、身近な人より起きにくい傾向があります。ストレスを受ける人を見ていた実験では、相手がパートナーだと40%、知らない人だと10%の人でストレスホルモンがはっきり上がりました。
SNSで暗い投稿を見ると、気分もうつりますか?
Facebookの68万人あまりを対象にした実験では、見る投稿の傾向を変えると、本人の投稿の言葉も同じ向きに変わりました。ただし変化はごく小さく、測ったのは投稿の言葉で、気分そのものではありません。
笑顔を作れば、気分は明るくなりますか?
効果はあっても小さいと考えられています。138の研究をまとめた分析では、表情を作ることの効果は小さく、条件によってばらつきました。ペンをくわえて笑顔の形を作る有名な実験は、17の研究室の追試で再現されませんでした。
出典
- Dimberg, U., Thunberg, M., & Elmehed, K. (2000). Unconscious facial reactions to emotional facial expressions. Psychological Science, 11(1), 86-89. https://doi.org/10.1111/1467-9280.00221
- Neumann, R., & Strack, F. (2000). "Mood contagion": The automatic transfer of mood between persons. Journal of Personality and Social Psychology, 79(2), 211-223. https://doi.org/10.1037/0022-3514.79.2.211
- Engert, V., Plessow, F., Miller, R., Kirschbaum, C., & Singer, T. (2014). Cortisol increase in empathic stress is modulated by emotional closeness and observation modality. Psychoneuroendocrinology, 45, 192-201. https://doi.org/10.1016/j.psyneuen.2014.04.005
- Kramer, A. D. I., Guillory, J. E., & Hancock, J. T. (2014). Experimental evidence of massive-scale emotional contagion through social networks. Proceedings of the National Academy of Sciences, 111(24), 8788-8790. https://doi.org/10.1073/pnas.1320040111
- Coles, N. A., Larsen, J. T., & Lench, H. C. (2019). A meta-analysis of the facial feedback literature: Effects of facial feedback on emotional experience are small and variable. Psychological Bulletin, 145(6), 610-651. https://doi.org/10.1037/bul0000194
- Wagenmakers, E.-J., Beek, T., Dijkhoff, L., Gronau, Q. F., et al. (2016). Registered Replication Report: Strack, Martin, & Stepper (1988). Perspectives on Psychological Science, 11(6), 917-928. https://doi.org/10.1177/1745691616674458


