耳栓やノイズキャンセリングイヤホンは集中力を上げるのか。4つの研究でわかったこと

オフィスや図書館、カフェで、耳栓やノイズキャンセリング(ANC)イヤホン・ヘッドホンをつけている人を見かけることが増えました。「周りの音を消せば集中できるはず」という発想は、とても自然に思えます。ところが実験室でこの「当然の予想」を確かめた研究を見ると、話はもう少し複雑でした。
3行でわかる
- ANCヘッドホンをつけても、数字を覚えて答える記憶課題の成績は、ヘッドホンなしや電源オフのときと統計的に変わらなかった(2つの独立した実験室研究で確認)。一方「集中できている感じ」や「周りの声の大きさ」の評価は、ANCオンではっきり改善した。
- 耳栓を2時間つけた予備的な研究では、単純な注意を保つ課題の成績は上がったが、不安を感じる度合いも有意に高まった。
- 周囲の音の変化に注意を払いながら体を動かす課題では、聴覚を制限する保護具をつけた人の方が成績が悪化し、約85%の人が「保護具なし」の条件をあとで選んだ。効果は作業の種類によって入れ替わるとわかる。
01この研究でわかった、意外なこと
周囲の音を遮る道具を使うと「集中している感じ」は上がりやすいが、実際の課題の成績が上がるとは限らない。
開放的なオフィス(オープンプランオフィス)では、同僚の話し声が気になって作業に集中できないという悩みがよく聞かれます。人の話し声には意味があるため、聞きたくなくても脳が自動的に処理してしまい、記憶を使う作業の邪魔になることが知られています。これは「irrelevant speech effect(無関係な発話の効果)」と呼ばれています。
この悩みへの対策として、ANCヘッドホンや耳栓を仕事中につける人が増えています。ドイツの研究チームは、この対策が本当に効果があるのかを、実験室で2回にわたって検証しました。結果は、予想とはやや違うものでした。ANCヘッドホンをつけても、数字を順番に記憶して答える課題の正答率そのものは、ヘッドホンをつけない場合や、ヘッドホンの電源を切った場合と比べて、統計的な差が出なかったのです。
一方で、参加者の「集中できている」という感覚や、話し声の大きさ・近さの評価は、ANCをオンにするとはっきり改善しました。つまり「集中できた気がする」ことと「実際の作業の成績が上がる」ことは、必ずしも同じではないという結果です。音を使った対策としては、消すのではなく別の音を重ねる「ホワイトノイズで集中できるのか」という研究もあり、人によって効果の出方が逆になることがわかっています。
02科学的にわかっていること
ANCヘッドホンは記憶課題の成績を上げないが、集中している感覚やうるささの評価は改善する。耳栓は単純作業の注意力を上げる一方、不安を強めたり、複雑な作業の成績を下げたりすることがある。
Muellerら(2022)[1]
オープンプランオフィスを想定した2つの実験室実験で、ANCヘッドホンの効果を調べた。数字を9個聞いて順番通りに答える記憶課題の正答率は、ANCオン・ANCオフ・ヘッドホンなしのどの組み合わせでも統計的な差がなかった。一方、話し声の大きさの評価、うるささ(迷惑感)、「集中できている」という自己評価、音響環境の評価は、どれもANCオンで有意に改善した。参加者は、話者までの距離が実際より遠く(平均約1.8mから約4.5mへ)感じられたとも報告している。
対象: 実験1(21人)・実験2(57人)、いずれも会話音のある模擬オフィス環境 / 限界: 実験室での短時間の記憶課題で、実際の仕事の成果とは異なる可能性がある。
Pieperら(2021)[2]
約76dBの環境音がある部屋で、計算問題を音声で聞いて答える課題を行い、脳波(EEG)を測定した。音に対する脳の反応の大きさ(P300という成分)は、無音の条件が、騒音あり・ANCヘッドホンありのどちらの条件よりも有意に大きかった。しかし、騒音ありの条件とANCヘッドホンありの条件の間には、脳波にも主観的な負担の評価(NASA-TLX等)にも、有意な差が見られなかった。
対象: 29人募集、EEG解析は28人(無音・騒音・ANCヘッドホンの3条件を全員が体験) / 限界: 30分間の算数課題による実験室測定で、長時間の実務への一般化は確認されていない。
Moss LevyとWeisler(2026)[3]
健康な成人が、減衰性能の高いフォーム製の耳栓を両耳に2時間つけ、日常的な活動を行った直後に検査を受けた。注意力を測るd2検査では、正答数と集中パフォーマンスの指標が、耳栓をつけていないベースライン時より有意に高くなった。記号と数字を対応させる処理速度の課題も有意に向上した。一方、状態不安を測る尺度は、耳栓装着時に有意に上昇し、翌日(耳栓なし)には元の水準に戻った。
対象: 健康な成人30人、自宅で個別に実施した予備的(pilot)研究 / 限界: サンプルが小さく、客観的な聴力検査は行っていない。視覚的な注意課題が中心で、会話や音声を使う作業への一般化は未確認。
Wisniewskiら(2026)[4]
聴覚保護具の減衰特性を模したフィルターをかけた音を聞きながら、画面上で動く図形を音声の指示に従って追いかけるマルチタスク課題を行った。保護具相当の条件では、標的の切り替わりに気づく割合や、動く標的を正確に追う精度が、保護具なしの条件より有意に低下した。実験後、実際に報酬がかかる条件を選べるようにしたところ、66人中56人(84.8%)が保護具なしの条件を選んだ。
対象: 大学生中心の66人、模擬的な聴覚保護具(実機ではなくデジタルフィルター)を使用 / 限界: 若い学生が中心の実験室研究で、実際の保護具や職場での一般化は確立されていない。
03今日からできる小さな一歩
作業の種類によって使い分け、「集中できた感じ」だけで判断せず、短時間から試す。
4つの研究の結果を、作業のタイプ別に整理すると次のようになります。
| 作業のタイプ | 耳栓・ANCの効果 |
|---|---|
| 数字などを覚えて答える記憶課題 | ANCオンでも成績は変わらなかった(Muellerら/Pieperら) |
| 一定時間、注意を保ち続ける単純作業 | 耳栓で正答数・処理速度が向上した(Moss Levy・Weisler) |
| 音の変化に気づいて動く・追う作業 | 保護具ありで気づく割合・追跡精度が低下した(Wisniewskiら) |
| 「集中できている」という自己評価 | ANCオンで有意に改善(Muellerら) |
一人で集中して読む・書く作業から試す
単純な注意を保つ作業では、耳栓で成績が上がったという研究があります。資料を読む、文章を書くなど、周りの音への注意が不要な作業から試してみましょう。
所要 2分
呼ばれる・物音に気づく必要がある作業では外す
声をかけられて動く、電話や通知に気づく必要がある作業では、耳栓やANCが音の手がかりを聞き逃す原因になり得ます。こうした作業中は外すか、片耳だけにしておき、「スマホの通知をオフにする」のような別の対策と組み合わせます。
所要 1分
「集中できた気がする」で終わらず、成果物でも確認する
ANCをつけると「集中できている」という自己評価は上がりやすい一方、実際の課題の成績は変わらなかったという研究があります。作業が終わったら、実際の出来上がりやミスの数も見て判断しましょう。
所要 3分
04続けるためのコツ
長時間つけっぱなしにせず、安全確認が必要な場面では使わない。
- 耳栓を長時間つけると不安が強まることがあるという報告があるので、1〜2時間を目安に、外して耳を休める時間を作ります。
- 周囲の音に気づく必要がある作業(来客対応、電話当番、安全確認など)では、耳栓やANCを使わないか、音量・減衰を弱めに設定します。
- 「集中できている感じ」と実際の成績はずれることがあるので、道具に頼りきらず、作業の区切りごとに進み具合を確認します。
- 耳栓やノイズキャンセリングを使った後に、不安や気分の落ち込みが長く続く場合は、無理に使い続けず、医師や専門家に相談してください。
05よくある質問
耳栓やノイズキャンセリングと集中力について、よく検索される疑問に研究の範囲で答えます。
ノイズキャンセリング(ANC)イヤホン・ヘッドホンをつければ、勉強や仕事の成績は上がる?
2つの独立した実験室研究で、ANCヘッドホンをつけても数字を覚えて答える記憶課題の成績は、電源オフや無音のときと統計的に変わりませんでした。一方で「集中できている感じ」や「周りの声の大きさ」の評価は、ANCオンではっきり改善しています。感覚としての集中と、課題の実際の成績は別物と考えた方がよさそうです。
耳栓はどんな作業に向いている?
単純な注意を一定時間保つような作業では、耳栓をつけた状態で成績が上がったという研究があります。反対に、周囲の音の変化に気づいて動く必要がある作業(呼ばれたら動く、物音に注意を払うなど)では、耳栓やノイズキャンセリングが音の手がかりを聞き逃す原因になり、成績を下げたという研究もあります。
耳栓やノイズキャンセリングで不安が強くなることはある?
小規模な予備的研究では、健康な成人が耳栓を2時間つけた直後、不安を感じる度合いが装着前より有意に高くなりました。翌日、耳栓を外した状態では不安の高さは元に戻っていたため、一時的な反応と考えられます。長時間つけっぱなしにせず、こまめに外す時間を作るのがおすすめです。
出典
- Mueller, B. J., Liebl, A., Herget, N., Kohler, D., & Leistner, P. (2022). Using active noise-cancelling headphones in open-plan offices: No influence on cognitive performance but improvement of perceived privacy and acoustic environment. Frontiers in Built Environment, 8. https://doi.org/10.3389/fbuil.2022.962462
- Pieper, K., Spang, R. P., Prietz, P., Möller, S., Paajanen, E., Vaalgamaa, M., & Voigt-Antons, J.-N. (2021). Working with environmental noise and noise-cancelation: A workload assessment with EEG and subjective measures. Frontiers in Neuroscience, 15, 771533. https://doi.org/10.3389/fnins.2021.771533
- Moss Levy, L., & Weisler, K. (2026). Emotional and cognitive effects of simulated temporary hearing deficit with healthy adults. Audiology Research, 16(1), 13. https://doi.org/10.3390/audiolres16010013
- Wisniewski, M. G., McClain, P., & Joyner, C. N. (2026). Worsened multitasking performance with simulated hearing protection correlates with individuals' choice not to "wear" it. Frontiers in Psychology, 17. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1657161


