気づくと別のことを考えてしまうのはなぜ? 心がさまよう仕組みを研究で調べた

資料を読んでいたはずなのに、気づくと週末の予定を考えていた。そんな経験は誰にでもあります。意志が弱いせいではありません。心がさまようのは、脳が作業から手を離すと自然に起きる働きです。研究では、慣れた単純な作業ほど起きやすく、本人が気づかないうちに起きることも多いとわかっています。
3行でわかる
- 作業と関係ないことを考える「マインドワンダリング(心のさまよい)」は、脳の「デフォルト・モード・ネットワーク」という回路と関係している。慣れた作業ほど、この回路の活動も関係ない考えも増えた。
- 脳の画像を撮りながらの実験では、作業中の43%で心がさまよっていた。そのうち約半分は、本人が気づいていないときだった。
- 心のさまよいには「わざと」と「うっかり」がある。簡単な作業では「わざと」、難しい作業では「うっかり」が増えたため、対策も分けて考えるとよい。
01 悩みの正体集中しているつもりなのに、別のことを考えるのはなぜ?
脳には、外の作業から手が離れると自然に動き出す「内側に向かう回路」があるからです。作業が慣れて頭を使わなくなるほど、この回路が働き、関係ない考えが浮かびやすくなります。
作業と関係ないことを考えてしまう状態を、心理学では「マインドワンダリング(心のさまよい)」と呼びます。
このとき活発になるのが、「デフォルト・モード・ネットワーク」と呼ばれる脳の回路です。ぼんやりしているときや、過去や未来のことを考えているときに働く回路です[1][2]。
心のさまよいは、悪いことばかりではありません。研究をまとめた総説では、ミスが増えるなどの損がある一方で、ひらめきや先の計画に役立つ面もあると整理されています[3]。困るのは、集中したい場面で勝手に起きることです。
02 科学的にわかっていること心はどのくらい、どんなときにさまよう?
調べ方によりますが、作業中や日常の4分の1から半分近くで心はさまよっていました。慣れた作業ほど起きやすく、本人が気づかないうちに起きていることも多いとわかっています。
Masonら(2007)[1]
記憶を使う作業を数日かけて練習してもらい、すっかり慣れた作業と、新しい作業を比べました。慣れた作業のほうが、作業と関係ない考えが多く報告されました。脳の画像では、慣れた作業のときにデフォルト・モード・ネットワークの活動が高くなっていました。ふだん空想しがちな人ほど、この差が大きくなりました。
対象: 若い成人十数人 / 限界: 少人数で、実験室の単純な作業での結果です。
Christoffら(2009)[2]
脳の画像を撮りながら、数字を見てボタンを押す単調な作業をしてもらい、ときどき「今何を考えていた?」と尋ねました。心がさまよっていたのは、尋ねた回の43%でした。そのうち約45%は、本人が気づいていないうちに起きていました。気づいていないときほど、脳の活動は強く表れていました。
対象: 大学生15人 / 限界: 少人数で、単調な作業を使った実験です。
Kaneら(2007)[5]
大学生124人が7日間、1日8回届く合図のたびに、今考えていることを記録しました。集中や努力が必要な難しい活動の最中には、頭の中で情報を保つ力(ワーキングメモリ)が高い人ほど、作業に関係ない考えが少なくなりました。
対象: 大学生124人 / 限界: 学生だけを調べた研究で、記録は本人の自己申告です。
Seliら(2016)[4]
心のさまよいには、自分で考えごとに移る「わざと」と、気づくとそれている「うっかり」があります。簡単な作業では「わざと」が多く、難しい作業では「うっかり」が多くなりました。2つを区別しないと、作業の難しさによる差は見えませんでした。実験室の作業で報告された心のさまよいの34〜41%は「わざと」でした。
対象: 大学生など(複数の研究をまとめた総説) / 限界: 2018年の別の実験でも同じ傾向が出ましたが、同じ研究グループによるものです。
研究によって、心がさまよう割合はかなり違います。数字は「調べ方しだい」と考えたほうが安全です。
| 研究 | 調べた場面 | 心がさまよっていた割合 |
|---|---|---|
| Christoffら(2009)[2] | 実験室の単調な作業 | 43% |
| Franklinら(2013)[7] | 105人の1週間の日常 | 26.2% |
| Killingsworthら(2010)[6] | スマホで尋ねた日常 | 「今していること」を考えるのとほぼ同じくらいの頻度 |
03 今日からできる小さな一歩心がさまよいにくくするには?
「わざと」と「うっかり」で対策を分けます。簡単すぎる作業には小さな目標を足し、やる気や興味を持てる形にします。難しい作業は区切って、それたら気づいて戻る練習をします。
簡単な作業には「小さな目標」を足す
慣れた単純作業ほど心はさまよいます[1]。「10分で2ページ」など、少し頭を使う目標をつけます。やる気が高いほど「わざと」のさまよいが少ないことも報告されています[4]。
所要 1分(始める前に決める)
読む前に「知りたいこと」を1つ書く
文章を読むときの心のさまよいは、ワーキングメモリに加えて、その話題への興味とやる気に左右されていました[9]。読む前に「この資料で何がわかれば十分か」を1行書くと、興味の向け先ができます。
所要 1分
それたら「気づいて戻る」を練習する
マインドフルネス瞑想の24件の研究をまとめた総説では、2週間以上の練習で心のさまよいが減った研究が多くありました。ただし研究ごとのばらつきは大きいとされています[10]。数分でできる方法は短い瞑想の記事で紹介しています。
所要 1日5〜10分
04 続けるためのコツ考えごとが止まらない自分を責めなくていい?
責める必要はありません。心がさまようこと自体が気分を悪くするとは言い切れず、嫌な内容のときに気分が下がるという研究があります。止めるより、気づいて戻ることを目標にします。
- 「心がさまよう人は不幸になる」という有名な研究があります[6]。ただし別の7日間の調査では、悲しい気分が先にあり、そのあとで心がさまよう傾向がありました。さまようこと自体は、その後の気分と関係していませんでした[8]。
- 興味のある内容への心のさまよいは、作業に集中しているときより気分がよかったという結果もあります[7]。
- 休憩でわざとぼんやりする時間を作る。休憩の取り方は休憩とポモドーロの記事を参考にする。
- 考えが同じ嫌なことをぐるぐる回るときは、反芻から抜け出す方法も役に立つ。
- 通知で作業が途切れる人は、通知オフの研究も読んでみる。
05よくある質問
気づくと別のことを考えてしまうのはなぜですか?
脳には、作業から手が離れると自然に働く「デフォルト・モード・ネットワーク」という回路があります。慣れた単純な作業ほどこの回路が働き、作業と関係ない考えが増えることが実験で示されています。
考えごとをしてしまうのは集中力がない証拠ですか?
そうとは限りません。単調な作業の実験では、尋ねた回の43%で心がさまよっていました。誰にでも起きることで、ひらめきや計画に役立つ面もあると整理されています。困るのは、集中したい場面で起きるときです。
ぼんやり考えごとをすると不幸になるのですか?
心がさまようと気分が下がるという研究がある一方で、悲しい気分が先にあったという研究や、興味のある内容なら気分がよかったという研究もあります。考えごとをすること自体が必ず気分を悪くする、とは言えません。
出典
- Mason, M. F., Norton, M. I., Van Horn, J. D., Wegner, D. M., Grafton, S. T., & Macrae, C. N. (2007). Wandering minds: The default network and stimulus-independent thought. Science, 315(5810), 393-395. https://doi.org/10.1126/science.1131295
- Christoff, K., Gordon, A. M., Smallwood, J., Smith, R., & Schooler, J. W. (2009). Experience sampling during fMRI reveals default network and executive system contributions to mind wandering. PNAS, 106(21), 8719-8724. https://doi.org/10.1073/pnas.0900234106
- Smallwood, J., & Schooler, J. W. (2015). The science of mind wandering: Empirically navigating the stream of consciousness. Annual Review of Psychology, 66, 487-518. https://doi.org/10.1146/annurev-psych-010814-015331
- Seli, P., Risko, E. F., Smilek, D., & Schacter, D. L. (2016). Mind-wandering with and without intention. Trends in Cognitive Sciences, 20(8), 605-617. https://doi.org/10.1016/j.tics.2016.05.010
- Kane, M. J., Brown, L. H., McVay, J. C., Silvia, P. J., Myin-Germeys, I., & Kwapil, T. R. (2007). For whom the mind wanders, and when: An experience-sampling study of working memory and executive control in daily life. Psychological Science, 18(7), 614-621. https://doi.org/10.1111/j.1467-9280.2007.01948.x
- Killingsworth, M. A., & Gilbert, D. T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Science, 330(6006), 932. https://doi.org/10.1126/science.1192439
- Franklin, M. S., Mrazek, M. D., Anderson, C. L., Smallwood, J., Kingstone, A., & Schooler, J. W. (2013). The silver lining of a mind in the clouds: Interesting musings are associated with positive mood while mind-wandering. Frontiers in Psychology, 4, 583. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2013.00583
- Poerio, G. L., Totterdell, P., & Miles, E. (2013). Mind-wandering and negative mood: Does one thing really lead to another? Consciousness and Cognition, 22(4), 1412-1421. https://doi.org/10.1016/j.concog.2013.09.012
- Unsworth, N., & McMillan, B. D. (2013). Mind wandering and reading comprehension: Examining the roles of working memory capacity, interest, motivation, and topic experience. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 39(3), 832-842. https://doi.org/10.1037/a0029669
- Feruglio, S., Matiz, A., Pagnoni, G., Fabbro, F., & Crescentini, C. (2021). The impact of mindfulness meditation on the wandering mind: A systematic review. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 131, 313-330. https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2021.09.032


