寝る前の考えごとを止めるには? 頭の中で場面を描く「イメージそらし」と認知シャッフルの研究

布団に入ったとたん、明日の予定や今日の失敗が頭の中をぐるぐる回る。「考えるのをやめよう」とするほど、かえって止まらなくなることがあります。研究で効果が示されてきたのは、考えを止めることではなく、頭の中で穏やかな別の場面を細かく描いて、考えごとの入る隙間をふさぐやり方です。
3行でわかる
- 寝つきの悪い人の頭の中は、計画や問題解決など「考える」内容が多く、イメージは少ない傾向があります。
- 不眠に悩む41人の実験では、興味の持てる場面を頭の中で描いて気をそらした人は、何も指示されなかった人より早く眠り、寝る前の考えごとも少なくなりました。
- ばらばらの単語を次々に思い浮かべる「認知シャッフル」は、同じ考え方の方法です。ただし、それ自体の検証はまだ学会発表の段階で、根拠は限られています。
01 悩みの正体寝る前に考えごとが止まらないのはなぜ?
寝つけない人の頭の中は、言葉で考える「計画」や「問題解決」が多く、ゆるいイメージが少ないからです。言葉の考えごとは頭を起こしたままにしやすく、寝つきを遅らせることがあります。
ふつう、眠りに落ちる直前の頭の中は、とりとめのない映像や感覚でいっぱいになります。筋の通った考えは、だんだん弱まっていきます。
寝る前の頭の中を調べた研究をまとめたLemyreら(2020)のレビューは、不眠の人の寝る前の考えは計画や問題解決に関するものが多く、良く眠れる人より不快な内容が多いと整理しています[1]。
NelsonとHarvey(2003)は、不眠の人20人とよく眠れる人20人に、自宅で寝る前に浮かんだイメージを記録してもらいました[2]。
| 寝る前のイメージ | 不眠の人 | よく眠れる人 |
|---|---|---|
| 浮かんだイメージの数 | 少ない | 多い |
| 不快なイメージの割合 | 高い | 低い |
| とりとめのない、つながりのない場面 | 少ない | 多い |
眠ろうと頑張るほど目がさえる仕組みは、眠ろうとするほど眠れない理由の記事で書いています。
02 科学的にわかっていること頭の中でイメージを描くと、早く眠れる?
早く眠れたという実験があります。興味の持てる場面を細かく描くよう教わった不眠の人は、指示のない人より寝つきが早く、考えごとも減りました。ただし人数は少なく、方法によって効果はまちまちです。
HarveyとPayne(2002)[3]
不眠に悩む人を3つのグループに分け、ある晩に「イメージで気をそらす」「ふつうに気をそらす」「指示なし」のどれかを試してもらいました。イメージで気をそらしたグループは、指示なしのグループより早く眠り、寝る前の考えごとの回数やつらさも少なくなりました。
対象: 不眠に悩む41人、1晩の実験 / 限界: 1晩だけの比較で、続けたときの効果はこの研究ではわからない。「ふつうに気をそらす」と逆に寝つきが悪くなるという予想は、確かめられなかった。
41人
イメージで気をそらすと寝つきが早まった実験の対象者数(不眠に悩む人)[3]
Gellisら(2013)[4]
眠りに悩む大学生を、寝る前の考えの中身を穏やかなものに切り替える方法(認知リフォーカシング)を1回教わるグループと、睡眠の一般的な知識だけを教わるグループに分けました。1か月後、切り替えを教わったグループのほうが不眠の重さがより改善していました。
対象: 眠りに悩む大学生51人(27人と24人)、1か月 / 限界: 寝る前の頭の興奮が下がる効果は「傾向」にとどまった。著者らも予備的な結果としている。
Bartelら(2018)[5]
高校生に、15分の音声つきのボディスキャン(体の感覚に順に注意を向ける方法)か、心配ごととその対策を書き出す方法(コンストラクティブ・ウォーリー)を試してもらいました。寝つきに30分以上かかり、1週間に3日以上取り組んだ生徒では、ボディスキャンで寝つきが早まりました。書き出す方法は、何もしないグループと比べてはっきりした差が出ませんでした。
対象: 14〜18歳の232人(寝つきに30分以上かかる119人を含む)、2週間 / 限界: どちらの方法も、寝る前の心配や頭の興奮そのものは変えなかった。
Lemyreら(2020)のレビューは、イメージ・催眠・あえて起きていようとする方法・単語を頭の中でくり返す方法・考えを抑える方法・気をそらす方法が試されてきたとまとめています。効果は、役立つもの、ほとんど効かないもの、逆効果のものに分かれていました[1]。どの方法でも必ず効くわけではありません。
03 今日からできる小さな一歩寝る前の考えごとを止めるには、どうやる?
布団に入ったら、穏やかで興味の持てる場面を1つ決め、色や音まで細かく描きます。描きにくい日は、単語を1つずつ思い浮かべて映像にする「シャッフル」に切り替えます。
昼のうちに「描く場面」を1つ決めておく
好きな散歩道、行ってみたい旅先、部屋の模様替えなど。わくわくしすぎず、怖くも悲しくもない場面にします。
所要 2分
布団の中で、その場面を細かく描く
道の色、聞こえる音、足元の感触まで、順番に思い浮かべます。考えごとに戻ったら、責めずに場面へ戻ります。
所要 10〜15分
描けない日は「単語シャッフル」に切り替える
「さくら」のような言葉を1つ選び、「さ」で始まる単語(さかな、さいふ、さとう…)を1つずつ思い浮かべ、それぞれを数秒ずつ映像にします。つながりは考えません。
所要 好きなだけ
長く眠れないときは、いったんベッドを出る
イメージで粘りすぎず、眠れない時間が長いときは別の部屋で静かに過ごし、眠気が来てから戻ります。
所要 眠くなるまで
04 続けるためのコツイメージそらしがうまくいかない夜は、どうする?
うまく描けない夜があってもかまいません。考えを無理に追い払おうとせず、場面に戻ることだけを続けます。明日の予定が気になる日は、布団に入る前にやることを書き出しておく方法もあります。
- 「考えるな」と命じるより、「この場面を見る」と別の作業を決めるほうが続けやすくなります。
- 明日の予定が気になる日は、寝る前に「明日やること」を書き出してから布団に入ります(寝る前にやることを書く研究の記事)。
- 眠れない夜にベッドを出る理由は、夜中に目がさえたらベッドを出る研究の記事で書いています。
- 1晩で効かなくても、数日は同じ場面で試してから判断します。
05よくある質問
羊を数えるのとは、何がちがう?
羊を数えること自体を比べた研究は、この記事では扱っていません。紹介した研究では、興味が持てて細かく描ける場面を思い浮かべる方法が使われました。研究者は、描くことが頭の「空き容量」を十分に使うので、考えごとに戻りにくくなったと考えています。
認知シャッフルは効果が証明されている?
まだ証明されたとは言えません。認知シャッフルそのものの比較は学会発表の段階です。ただ、頭の中を穏やかなイメージで埋めると寝つきが早まったという査読論文はあり、同じ考え方の方法として試す価値はあります。
考えごとが止まらない夜が続くときは?
寝つけない日が週に何度もあり、昼の生活に支障が出る状態が続くときは、医療機関や睡眠の専門家に相談してください。不眠には、専門家が行う認知行動療法という方法もあります。
寝る前に心配ごとを書き出すのは逆効果?
逆効果とは限りませんが、効果ははっきりしていません。高校生の研究では、心配ごとと対策を書き出す方法で、寝つきに明確な差は出ませんでした。やることリストの形で明日の予定を書く方法は、寝つきが早まったという研究があります。
出典
- Lemyre, A., Belzile, F., Landry, M., Bastien, C. H., & Beaudoin, L. P. (2020). Pre-sleep cognitive activity in adults: A systematic review. Sleep Medicine Reviews, 50, 101253. https://doi.org/10.1016/j.smrv.2019.101253
- Nelson, J., & Harvey, A. G. (2003). Pre-sleep imagery under the microscope: a comparison of patients with insomnia and good sleepers. Behaviour Research and Therapy, 41(3), 273-284. https://doi.org/10.1016/s0005-7967(02)00010-4
- Harvey, A. G., & Payne, S. (2002). The management of unwanted pre-sleep thoughts in insomnia: distraction with imagery versus general distraction. Behaviour Research and Therapy, 40(3), 267-277. https://doi.org/10.1016/s0005-7967(01)00012-2
- Gellis, L. A., Arigo, D., & Elliott, J. C. (2013). Cognitive refocusing treatment for insomnia: a randomized controlled trial in university students. Behavior Therapy, 44(1), 100-110. https://doi.org/10.1016/j.beth.2012.07.004
- Bartel, K., Huang, C., Maddock, B., Williamson, P., & Gradisar, M. (2018). Brief school-based interventions to assist adolescents' sleep-onset latency: Comparing mindfulness and constructive worry versus controls. Journal of Sleep Research, 27(3), e12668. https://doi.org/10.1111/jsr.12668


