「やる気が出たらやる」は逆効果なのか。研究でわかった『行動が先』の心理学

「やる気が出たらやろう」と思っているうちに、気づけば何日も手をつけられずにいる。そんな経験は少なくありません。実は、うつ病治療の研究を中心に、先に行動を起こした人のほうが、あとから気分ややる気の回復が起こりやすいことが繰り返し確認されています。やる気が出るのを待つこと自体が、逆に動けない時間を長引かせている可能性があります。
3行でわかる
- うつ病の外来患者150人を対象にした研究では、考え方を変える練習をせず行動を増やすだけの治療が、思考まで扱う本格的な認知療法と同じ効果を示した(Jacobsonら, 1996)。
- 症状が重いうつ病の患者241人を対象にした研究では、行動を増やす治療は抗うつ薬と同程度の効果を示し、どちらも認知療法を上回った(Dimidjianら, 2006)。
- 26件の比較試験・1524人分のデータをまとめた分析では、行動を増やす治療は何もしない場合と比べて中〜大きな改善効果を示した(Ekersら, 2014)。
01悩みの正体を、やさしい言葉で
「やる気が出たら動く」という考え方は、気分が先に回復して行動が後からついてくるという前提に立つが、多くの研究ではむしろ逆の順序が支持されている。
やる気が出ない自分を、意志が弱いせいだと責めてしまう人は少なくありません。しかし「気分が良くなってから動く」という順番を前提にすること自体が、動けない状態を長引かせている可能性があります。心理療法の研究では、気分の落ち込みが強い人ほど「やる気が出るまで待つ」うちに行動量がどんどん減り、行動が減ることでさらに気分が落ち込むという悪循環に陥りやすいと考えられてきました。ここから生まれたのが「行動活性化」と呼ばれる治療法で、気分ややる気の有無に関係なく、先に行動を増やすことを重視します。
02科学的にわかっていること
「気分に関係なく先に行動する」治療法は、考え方の修正まで行う本格的な心理療法と同等以上の効果を持つことが、複数のランダム化比較試験で確認されている。
Jacobsonら(1996)[1]
うつ病の外来患者150人を、行動活性化のみ/行動活性化と考え方の修正/考え方の根本まで扱う本格的な認知療法、の3グループに分けて比較した。治療直後・6か月後のいずれの時点でも、本格的な認知療法が他の2グループより優れているという証拠は見られなかった。
対象: うつ病の成人外来患者150人 / 限界: 1990年代の1施設での試験で、軽症〜重症まで幅広い患者が含まれる。
Dimidjianら(2006)[2]
大うつ病性障害の成人241人を、行動活性化・認知療法・抗うつ薬・偽薬の4グループに無作為に割り付けて比較した。症状が重い患者では、行動活性化は抗うつ薬と同程度の効果を示し、どちらも認知療法を上回った。
対象: 大うつ病性障害の成人241人 / 限界: 効果の差が見られたのは症状が重い群のみで、軽症者では治療間の差ははっきりしなかった。
Ekersら(2014)[3]
26件のランダム化比較試験・1524人分のデータをまとめたメタ分析。行動活性化は、何もしない・通常のケアといった対照群と比べて中〜大きな改善効果を示し(標準化平均差 -0.74)、抗うつ薬と比べても同程度以上の効果(同 -0.42)だった。
対象: うつ症状のある成人、26試験1524人 / 限界: 個々の試験の質にばらつきがあり、追跡期間の多くは短期にとどまる。
03今日からできる小さな一歩
やる気の有無を確認するのをやめ、「いつ・何を・どれだけ」やるかだけを先に決めて、小さく体を動かしてみることが効果的な一歩になる。
「5分だけ」と決めて着手する
やる気を測るのをやめ、タイマーを5分にセットしてから始めます。5分でやめてよいことにすると、着手のハードルが下がります。
所要 5分
「いつ・何を」だけ先に決めておく
前の晩か朝のうちに、「〇時から、これだけやる」と時間と行動を1つだけ具体的に決めておきます。当日に何をするか迷う時間を減らすのが狙いです。
所要 1分
行動した直後の気分を記録する
動いた直後の気分を10点満点で一言メモします。「乗り気ではなかったのに、やったら少し楽になった」という変化に気づく材料になります。
所要 30秒
04続けるためのコツ
「気分が良くなってから動く」ではなく、「動いたら気分がどう変わったか」を確認する視点に切り替えると続けやすい。
- やる気が出ないのは意志の弱さの証拠ではなく、行動量が減って悪循環に入っているだけのことが多いと考える。
- 最初の行動はできるだけ小さくし、「終わらせる」より「始める」ことを目標にする。
- 動いても気分が変わらなかった日があってもよい。記録を続けることで、変化に気づきやすくなる。
- 「今日はやる気が出ない」と感じる人は少なくない。そう感じる日ほど、行動の量を減らすのではなく、行動のハードルだけを下げてみる。
05よくある質問
やる気が出ないのは甘えなのでしょうか?
研究では、やる気の低下は行動量の落ち込みと結びついていると考えられており、単なる甘えや意志の弱さの問題として片付けられるものではないとされています。まずは行動のハードルを下げることが、対処の糸口になります。
うつ病と診断されていなくても、この方法は効果がありますか?
診断のつかない一般の人を含めた分析でも、行動活性化には幸福感を高める効果が確認されています。ただし気分の落ち込みが重く、日常生活に支障が出ている場合は、自己流で抱え込まず専門家に相談することも選択肢の一つです。
出典
- Jacobson, N. S., Dobson, K. S., Truax, P. A., Addis, M. E., Koerner, K., Gollan, J. K., Gortner, E., & Prince, S. E. (1996). A component analysis of cognitive-behavioral treatment for depression. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 64(2), 295-304. https://doi.org/10.1037/0022-006X.64.2.295
- Dimidjian, S., Hollon, S. D., Dobson, K. S., Schmaling, K. B., Kohlenberg, R. J., Addis, M. E., Gallop, R., McGlinchey, J. B., Markley, D. K., Gollan, J. K., Atkins, D. C., Dunner, D. L., & Jacobson, N. S. (2006). Randomized trial of behavioral activation, cognitive therapy, and antidepressant medication in the acute treatment of adults with major depression. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 74(4), 658-670. https://doi.org/10.1037/0022-006X.74.4.658
- Ekers, D., Webster, L., Van Straten, A., Cuijpers, P., Richards, D., & Gilbody, S. (2014). Behavioural activation for depression; an update of meta-analysis of effectiveness and sub group analysis. PLoS ONE, 9(6), e100100. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0100100
- Mazzucchelli, T. G., Kane, R. T., & Rees, C. S. (2010). Behavioral activation interventions for well-being: A meta-analysis. The Journal of Positive Psychology, 5(2), 105-121. https://doi.org/10.1080/17439760903569154